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光が消えた日、それは小さな希望も消えた日
しおりを挟む『アーリンッ! アーリン・・・ッ! 嘘だろう、こんな・・・こんな・・・っ!』
ベッドの上に静かに横たわる、もう言葉を発することのない愛する妻の骸をかき抱き、私は泣き叫んだ。
目の前の現実が受け入れられず、私は物言わぬ遺体に取り縋る。
朝に夕に泣き続けた。叫び、喚き、暴れた。
私はあの時、母親を失った娘の悲しみに寄り添う前に、自分の辛さを優先した。
娘を慰めることもせず、三日三晩ろくに食事も睡眠も取らず、ただただ嘆き続けたのだ。
そうして私は壊れた。
愛する妻アーリンのいない世界を受け入れることが、認めることが出来ず、彼女の影を追い続けたのだ。
その代償を、今も私は払い続けている。
アデラインの感情を犠牲にして。
ああ。
どこで私は間違えたのだろう。
いや、違う。
『何処で』ではなく、最初から。
最初から私は間違えていたのだ。
アーリンを失った悲しみを、喪失感を、共に分かち合えばよかった。
辛い、苦しい、悲しい、信じられない、と娘と共に泣けばよかった。
私にとって妻が唯一無二の存在だったと同じ様に、アデラインにとってアーリンはたった一人の母親だったのに。
あの時にそれが分かっていれば、私はアーリンとアデラインを両方失うことはなかったのかもしれない。
あの日。
私が叫ぶのを止め、あちこちにアーリンの存在を求めて視線を彷徨わせていた時。
アデラインが『お父さま・・・?』と震える声で問いかけてきた。
自分の悲しみで一杯で、アーリンが亡くなった日からずっと慰めることも抱きしめてやることもしていなかった娘が、おずおずと近づいて来る。
・・・アデライン。
アーリンが私に残してくれた、私の娘。
ここで漸く、娘も私と共に取り残されていたことに気づく。
ああ、ごめん。
自分のことばかりで、お前を慰めてもやらななかった。
やっとそこまで考えられる様になって、何とか取り繕った顔を、娘に、アデラインに向けた、その時。
「・・・っ」
私は大きく目を見開いた。
ぐにゃりと視界が歪む。
この子は誰だろう。
なせ私を父と呼ぶのだろう。
「・・・」
おや?
この子は、幼い頃のアーリンにそっくりだ。
ああ、そう言えばアーリンは三日前に。
三日前に・・・何だ?
・・・え・・・?
アーリンは、どこだ?
目の前の、アーリンによく似た女の子が驚いて目を見開くのが見えた。
アーリンによく似た・・・
いや、アーリン。
そうだ、この子はアーリンだ。
良かった。
ここにいた。
そうだ、アーリンが私を置いていく筈がない。
ちゃんとここに・・・
「・・・っ!」
私は慌ててアデラインから目を逸らす。
・・・違う。
この子は。
この子は、私とアーリンの。
アーリンが私に遺してくれた、娘。
娘の筈。
なのにどうして。
どうして、そんな大切なことを私は忘れかけた?
「・・・」
何も言わない私に失望したのか、アデラインは泣きながら部屋を出て行った。
だが、私は追いかける事が出来なかった。
再びあの子を視界に入れる事が怖かった。
また、あの子が目の前で消えてしまう気がして。
「アーリンは死んだ。病いで亡くなってしまった。もういない。二度と会えないんだ。だから・・・だから」
私は呪文のように呟いた。
何度も何度も。
頭に擦り込むように。
だけど無駄だった。
私の無意識は、私の意識を簡単に押さえ込む。
アデラインの存在を、いとも容易く消し去ろうとする。
・・・ああ。
私は、あの日。
本当に壊れてしまったようだ。
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