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それをしたのは
しおりを挟むジョーセフとカレンデュラの間に生まれた第一王子は、セドリックと名づけられた。
それから一年後、再びカレンデュラは懐妊して女の子を産んだ。リゼット第一王女だ。
それからさらに一年と半年ほど後、カレンデュラはまた懐妊した。生まれてきたのは男の子、第二王子だった。マーカスと呼ばれた。
王位継承権のある男児2人が生まれた事で、幽閉中のタスマを処刑すべきという意見が議会で上がる。
意見は賛成反対で二つに別れたが、国王ジョーセフが賛同した事で処刑が決定。
第二王子マーカスが3歳を迎える年に、タスマに毒杯を与える事が決まった。
2人の王子と1人の王女を産んだカレンデュラの立場は、今や誰よりも何よりも高く。
公務執務全てを行なっているにも関わらず、正妃アリアドネの立場は王城の使用人よりも低かった。
妃としての最も大事な務めを果たせない女。
夫である国王から一度も愛されなかった女。
仕事をする事でしか価値を示せない女。
アリアドネの評価は、概してその様なものだった。
どれだけ懸命に公務をこなしても、感謝される事はない。むしろそれしか出来ないのだ、やって当然と見做された。
ただ座って王の傍でお茶を飲み、楽しそうに笑い、寵を得る側妃こそ、臣下たちにとって価値があった。
アリアドネを思い遣る人は王城に誰もいない。
いや、ひとりだけ。現王弟のアーロンがいた。
国王ジョーセフの年の離れた弟アーロンは、正妃アリアドネを姉と慕い、共にこの王城で過ごし育った。
だから8年前、側妃の件が議会で承認された時、アーロンは兄に怒ったのだ。『義姉上を裏切るのですか』と。
『義姉上は、兄上の為に幼い頃よりひとり、この王城で暮らしてくれた方でしょう? それをどうしてこのような非道な真似ができるのですか』
『アリアドネなどいなくても、俺の統治に差し障りはない。成人になったばかりのお前に何が分かる。口を慎め』
『感謝してると、あんなに仰っていたではありませんか。義姉上あっての即位、義姉上を通してデンゼル辺境伯の後ろ盾を得られたからこそだったと』
アーロンは懸命に諌めたが、ジョーセフが聞き入れる事はなく。
むしろこれをきっかけに兄弟間の溝は深まっていった。
ジョーセフはアーロンがアリアドネと接触する事を嫌い、王城の敷地内で最も遠い宮にアーロンを移す。そして行動に制限をつけた。
アリアドネには執務を行わせている為、中央宮から移す訳にはいかなかったからだ。
こうしてアリアドネは唯一の味方であったアーロンとも離され、ますます孤立していく。
そしてジョーセフが30歳の時。
事件は起きた。
毒を盛られ、ジョーセフが倒れたのだ。
王族として、幼い頃から毒には慣らしてあった。けれど、強力な毒だったのか、あるいは量が多かったのか、ジョーセフは3日ほど意識が戻らなかった。
ようやく目を覚ました時、ジョーセフは扉近くに立ち、こちらを覗き込んでいる愛する側妃の姿を視界に捉えた。
「・・・カレン」
「ああ、ジョー。目を覚ましたのね。よかった、よかったわ」
「心配をかけたな。もう大丈夫だ」
ジョーセフに手招きされ、ベッドに近寄ったカレンデュラは、嬉しそうにジョーセフの手を握る。
その背後。
扉向こうの廊下で、看病に使っていた桶の水を替えに行っていたアリアドネが、何も言えずに佇んでいた事をジョーセフは知らない。
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