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続く寸止め

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「さて、と」

 足の拘束は外されて、ただ両腕を天井から吊られる。
 熟れるだけ熟れて、絶頂を取り上げられているアリアは、体を震わせてヘルディを睨んだ。

「こんなこと、いつまで、続けるつもり、ですか……」
「それはもちろん、君が折れるまでだよ」

 本当に? と心のどこかで疑問が浮かぶ。
 昼間はポジショントークに終始して、夢ではのらりくらりと躱される。ヘルディが何を考えているのか全く分からない。
 だが、そんな思考を回せるのも、最初の数秒だけだった。
 繊毛に覆われたふさふさとした縄を股に通されて、アリアはぎりりと歯ぎしりする。

「ふぅぁ………っ」
「足は自由に動かしていいよ」

 そう言って、ヘルディはしゅるしゅると縄を動かした。
 小さく滑らかな双臀の割れ目に食い込んだ縄は、前後に揺すられるたびに菊座と陰核に擦れて刺すような快楽を及ぼす。さらに陰唇をも開いて、中の肉襞に刺激が通る。
 絶頂寸前で高止まりしていたアリアは、うなじが見えるぐらい首を折って見悶えた。

「ああ、あうっ、ううあっ!」
「あーあ、もうぐしゃぐしゃになっちゃったね。初日は全然濡れなかったのに、すごい変わりようだ」
「だれのせいだとっ! はあっ…… ああ……っ!」

 勝手に内股になってしまい、きゅうきゅうと股縄を締めることで返って受ける快楽が増す。愛液でぬめった縄が自分の股から擦れて出てくるたびに恥ずかしさで気絶しそうになる。
 ちかちかと脳の奥に閃光が瞬き始めて、かくんと膝の力が抜けた。

「あああっ。……―――~~~っ! あああっ! あ、ぁぁ……はーっ、はぁぁ……」

 また、果てる直前に責めを止められる。
 動かなくなった縄を名残惜しむように太ももで挟み続け、くびれた腰をかくかくと揺さぶる。

「卑猥な踊りがますます上手になったね」
「……黙れ……。あんっ!」
「凄んでもどうせ喘がされるんだから、諦めたらいいのに」

 角度を変えて肉土手を擦られ、それで甲高い声を搾り取られる。
 段々と、冷静な思考がたった一つの欲に呑まれていく。

 ―――イき、たい。

    ◇

 ―――本当に、役得だね。
 
 こくりと、バレないように生唾を飲み込んで、ヘルディは翡翠色の女を見下ろす。
 責めはじめには理性的だった瞳は涙に濡れて輝いている。湿度の高い息を漏らす唇から、一筋唾液の線が垂れて、ときおり床にぽたぽたと垂れていた。
 乳首を摘まんでやると、楽器のようにすぐさま高い声が返ってくる。

「んっ……」

 その声も、快楽を貪る女のものとは質が違う。キンキンとした高音ではなく、恥じらいから生まれる艶がいつまでも残っていた。
 ねちゃり、と繊毛での刺激を再開してやると、逃げ場のないアリアは必死に太腿を閉じて耐えた。

「あん、んっ……。んううっ!」
「最後までしてほしいかい?」
「そんな、わけがありません……っ!」

 そして、未だに悦楽を否定する精神力。
 体はとっくに堕ちていて、すぐにでも絶頂を貪りたいだろうに、我慢し続けられる強い心。
 そっとアリアの頬を撫でて、ヘルディは唇を合わせる。
 顎まで伝っていた唾液の線を舐めとって、それから唇の端、歯列と順番に舐めていくと、アリアは鼻から息を漏らした。

「んぅ……んむっ、んんんっ………あぐっ!」
「……痛った」

 がちん、と舌を噛まれて、ヘルディは顔をのけ反らせた。
 口内に広がる血の味を飲み込んで、苦笑する。

「本当に気が強いなあ」
「気持ち悪い、んですよ」
「そう、じゃあ気持ち良くしてあげないとね」

 今度は指を突っ込んだ。
 まとまった量の媚薬を注いでやる。持続時間を短くして、そのぶん効果を高く設定する。
 がしゃんっ、がしゃんと枷を鳴らして、アリアはすぐさま絶叫した。

「ふぅぅ、ううあああああ……っ!」
「効くでしょう。ねえ」
「やめ、いま耳はダメっ、くぅぅうううううあああっ! あ、はああっ!」

 果てるには足りない。でも感度は高い。そういう場所だと、もうわかった。
 尖った耳を舐ってやると、滝のように漏れた愛液が床に広がった。
 鼓膜を犯すように、再度聞いてやる。

「イきたい?」
「イきだく、ないっ、ですっ! ああ、ぁぁああっ! ふあ、あん……」

 そんなわけはないだろうに、健気に耐えるアリアの頬にキスを落とす。

 ―――まあ、僕が耐えさせているようなものかもしれないけれど。

 本来のヘルディは、現実と夢の二重苦で責めを行ない、相手を堕としていく。
 だが、アリアの場合は逆のことをしている。

 夢が休憩時間となっているために、二週間もの間、耐え続けられているのだろう。
 ―――まあ、しょうがない。

 だって、堕ちてもらっては困る。
 ぬるま湯に延々と浸かってもらって、なるべく長くあの夢を見ていたい。

「そっか。じゃあ、その直前までね」
「ん、止めてぇ、イク、イクっ! う、ぅぅ……ぅぅうあああ!」

 悶え狂っても果てることはできない。
 汗で髪が張り付いた腰を撫でて、ヘルディは必死に快楽に抗うアリアに目を細めた。
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