悪魔との100日ー淫獄の果てにー

blueblack

文字の大きさ
上 下
51 / 55

100日目―手に入れたものと失ったもの―

しおりを挟む

「さて、と」
 蛍には部屋の覗き穴から外を警戒するように頼んである。
 梓用の穴に合わせて腰を落としている蛍に後ろからちょっかいを出したいという衝動をなんとかこらえて、梓は起動中だったパソコンを迅速に動かしていく。
 異常に気付いたアイリーンがサーバールームに到着するまでざっと2分ほど。そのリミットで、プレーンな幹部権限をどれだけ強化保護できるかに今後のすべてがかかっているわけだが。
 こきこきと首を鳴らして、梓は凄絶な笑みを浮かべた。
「Aシリーズ末妹、野茨梓。参るってね」
 どこかであかりを弄んで眠っている『お姉ちゃん』に牙をむくためのキーを、叩き始める。
 直後に、けたたましいアラームの音が所内に響き渡った。

■■■

「やってくれたわねぇ………っ‼」
 そして、警報が鳴り響いてから1分30秒でメインサーバーまでたどり着いたアイリーンは、悪夢のように輝く『朝宮蛍』という幹部名を殴りつけた。
 ディスプレイがきしむ。その間にも流れるようにログが追加されていき、さらに蛍の権限が強化されていく。
「これは……どうなってるんですか?」
 まだ半分寝ているあかりに怒鳴るように、アイリーンは叫んだ。
「どういう理屈か蛍さんの名前で権限作って、それに過去の梓の権限を吸収させて肥大化させてるのよ! しかもこの感じだと、主要なセキュリティも乗っ取られてる……。あいつ、やっぱりそこかしこに穴を隠してやがったわね……っ!」
「………つまり?」
「大ピンチってことよ!」
 それからしばらくは、なんとか抵抗しようとキーを打っていたアイリーンだが、ある臨界点を超えてぴたりとその指が止まる。
 ―――わかっていたはずよね。
 そう、わかっていたはずだ。
『精神的に不安定』という理由だけで危険視される梓の本質、全リソース一点集中の真骨頂はここにある。
 アンバランスな特化型、ピーキーさが際立つ、といえば不良品のように聞こえるが。
 梓のフィールドの引きずり込まれてしまえば、誰一人あの小さな悪魔に太刀打ちできやしないのだから。
「これは確かに………首輪が欲しくも、なるわよね」
 ほんの数分で取り返しのつかない領域を根こそぎ奪い取られて、アイリーンはがしがしと頭を掻いた。
 そして。
「……………あれ?」
 いつの間にか、あかりの姿がなくなっていることに、気づいた。

■■■

 なにやら黒々とした笑みを浮かべてキーボードを叩きまくっている梓に気付かれないように、蛍はそっと扉を開けた。
 左奥の廊下から現れた、ずっと焦がれていた名前を呼ぶ。
「あかり……」
「結局、お姉ちゃんたちの勝ちだね」
 微苦笑を浮かべて、あかりは昔を懐かしむように目を細めた。
「お姉ちゃんは、勝つまであきらめないから、こうなる気はちょっとしてたんだ」
「当然、私を誰だと思ってるのよ」
「でも最後のほう諦めかけて泣いてたよね」
「なに、四の字固めでもされたいの?」
「いやだよ、あれすごい痛いもん」
 少し前までは、毎日がこんな感じだった。
 蛍が快活にものを言い、それにあかりが振り回される。あるいはたまにあかりが茶々を入れて、蛍が首を締めたりする。
 二人とも、もうその日々が戻ってこないことを知っている。
 だからこれは、ただの通過儀礼だ。
「会えてよかった、お姉ちゃん。助けに来てくれてありがとう」
「遅くなってごめん」
「ううん、嬉しかった。……でも、ごめんね。私はお姉ちゃんと一緒には行けない」
「………そう、ね。やっぱり、そうなるのね」
「うん。お姉ちゃんにもわかるでしょ?」
 晴れ晴れとした口調で、あかりは笑う。
 たぶんサーバールームで、唐突に消えたあかりを探して泡を食っているアイリーンを思い出して、きゅう、と胸の辺りが締まる。その心だけに従って生きていければ、幸せだと断言できるから。
「私は、主様を愛してる。だからあっちについていくよ」
「そっか」
 蛍も、これ以上言葉を重ねたりはしなかった。
 気持ちは分かった。
 蛍だって、今から誰か一人しか連れ帰れないってわかったら、手を取るのはあかりではない。薄情だと言われても、おかしくなったと罵られようと、この扉の向こうでキーを叩く小さくて愛しい女の手を掴むだろう。
 それでもやっぱり、悲しいものは悲しくて。
 不格好にしか作れなかった笑顔で、必死にあかりに笑いかけた。
「元気でね」
「うん。お姉ちゃんも、元気で」
 そして、ある日の深夜。
 朝宮あかりと朝宮蛍は、愛しい者の手を取るために、互いに背を向け歩き出した。

■■■

「ん? なんだこれ」
 アイリーンの涙ぐましい抵抗を丁寧にへし折って所外の追跡網まで破綻させた梓は、破壊活動の隙間でちょこちょこと動き回っている不自然なアクセスを感知した。
―――所外からのアクセス?
 そんなものが深部を漁っているなんてありえない。ありえてはいけない。だってそれを許してしまえば、人体実験等のデータをまるきり抜かれてしまう。
 でも、まあ。
「もう、どうでもいっか」
 一応痕跡はパソコンに保存しておいて、梓はいそいそと立ち上がった。
―――さっさと逃げて、たくさん蛍ちゃんに愛してもらおう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...