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86日目―剥奪―
しおりを挟む時間の感覚はわからないが、舌の感覚はとっくに消えていた。
体感時間的には、半日か、一日か。少なくとも、3時間や4時間ということはないだろう。
長時間愛液にまみれて、口の周りがひりひりとしてきても、梓は蛍への口淫をやめなかった。
「………ふ、ぅああああっ! ああああああああああっ!」
聞いたことのないぐらい高い声で喘ぐ蛍に、梓はさらに責めを強めた。
「可愛い、声。大好きだなあ、蛍ちゃん」
何度も膣奥まで舌を突き入れて、Gスポットも押し舐める。
唾液と淫液を混じらせて舐め続け、最後にぴん、と陰核を弾くと、蛍はがくんっ、と大きく震えた。
そしてその直後、ばつん、と音が響いて、瞼の裏が薄赤くなる。
部屋の電気がついた、と思う間もなく、ぎぃぃ、と牢屋が開かれた。
ぐい、と髪を引っ張られて、梓は疲れ切った体でふらふらと立たされる。
アイマスクを外されて、目の前にいるのは、憎い金髪碧眼の女。
「ア、イリーン……」
「あっはは、へばっちゃってるわね。しかも何よその顔、どろどろじゃない」
梓の口元にべっとりとついた愛液を大事そうに舐めとって、アイリーンは艶やかな笑みを浮かべる。
「まったく、深夜に起こされるこちらの身にもなってみろ」
「……さ、らっ」
その上、アイリーンの後ろに真壁沙羅まで控えていて、梓はかたかたと体を震わせる。無意識で、肘掛け椅子に乗せられたままの蛍に擦り寄る。
ずい、とアイリーンを押しのけて前に出て、沙羅は梓の顎を持ち上げた。
「出来損ないの割には、何度も何度もよく耐えてきたじゃないか」
「………もう、前みたいには、ならない……っ」
「てっきりトラウマになっていると思ったんだがな」
縛られたままの蛍の太腿に震える手を乗せている梓に、沙羅は、はっ、と笑う。
「そこの女がいれば元気が出てくるというわけか」
そのとき、ガシャリ、と硬い音が、梓の背後から響いた。梓自身も使っていたからよくわかる。指紋式手錠のロックが解除される音だ。
でも、どうやって? 沙羅もアイリーンも梓の前に立っている。
「さて、お前が朝宮蛍に懸想しているのは知っている。記憶を支柱に耐え続けていることに」
混乱する梓の手に、そっと蛍の手が重なる。それでようやく、まともに息が吸えた気がした。
ぎゅうう、と握り返された手に呼応するように、蛍はゆっくりと立ち上がって、梓の首に手を回す。
アイリーンと沙羅に、これからどれだけ恥辱の限りを尽くされようと。
―――このぬくもりを忘れない限りは、私は耐えられる。
そう思っていた梓に体重をかけるように覆いかぶさり、後ろの女は、そっと、耳元でささやいた。
「騙されたね、梓さん」
■■■
「……………………………は?」
背中に張り付く体温が、一気にその意味を変える。
振り向こうとしても体を動かせず、抱きすくめられたままの梓に、アイリーンの笑顔が黒く染まる。
「昨日はずいぶん薄暗かったわよね。あなたはすぐに蛍さんだと思ったようだけど、それって、責められているっていう状況と、髪の長さだけで判断したんじゃなくて?」
薄暗くしたのも、あかりは不在というミスリードを誘ったのも、この瞬間のため。
さあ、と蒼白になる梓は、生気が抜け落ちたような顔で、弱弱しく首を振る。
「…………うそだ」
「本当よ」
「うそだっ!」
状況を認めてしまった脳を振り落とさんばかりに、その動きは少しずつ激しくなっていく。
「だっ、だって! 声! 私が蛍ちゃんの声を聞き間違えるはずがない!」
「ああそれ?」
アイリーンが目配せして、あかりの手が、梓の耳元に置かれる。握り込まれていたのは小型の録音機材だった。
『……お願い、舐めて』
「………………あ、ぁ」
「まあ、そんなとこよ。蛍さんが焦らされ続けているのは本当で、その時の声はぜんぶ取ってある。さすがに途中からあかり自身の喘ぎ声に変わったけれど。ねえ、あんた、どこからが蛍さんでどこからがあかりだったか、わかるのかしら?」
「あああ、あああああああああああああっ!」
「黙れ」
「ぐ、ぅっ!」
慌てた様子で背後の圧が消えると同時に、沙羅の手が梓の首を掴み、強引に肘掛け椅子に座らせられる。
「ふ、ざけるなっ! この、このっ! いや、ああああああっ!」
叫ぶ梓を体に巻いていたベルトで手際よく拘束して、沙羅は唇を舐めた。
「お楽しみの時間だな、モルモット」
ゆっくりと梓の股座の前にしゃがむ。
キャストはもちろん、沙羅だけではない。
固定された梓の半身に体をしなだれかけるのは、汗を垂らす朝宮あかり。
姉そっくりのショートカットに切りそろえられた髪で、梓に鋭い目を向けた。
「あなたのせいでお姉ちゃんは焦らされ続けるし、髪は切らされるし、何時間も舐められ続けるし散々です。………ここで、折れてもらいます」
そう言って、そっと胸に手を這わせる。
さらに、反対側からも同じようにアイリーンが乳肉に指を埋めて、粘つく声でささやいた。
「ねえ、梓。思い出せるの? 蛍さんの声を、熱を、匂いを、味を。……あれだけ無我夢中で舐めて飲み込んでいたあかりのものと、区別できる? それが正しいって、言えるのかしら?」
どこまでも深く、落としていく。
蛍と共にいて安心しかけていた梓の心理を、底へ底へ。
梓は一瞬だけアイリーンを睨みつけるも、気丈さを保つための記憶はもう剝奪されていて、その表情が歪んでいく。腕が震え、頬が引きつって、かすれた声で呟いた。
「……返し、て」
「なにを?」
「蛍ちゃんを、返してよ……っ、いや、だ。もう……思い出せ、ないなんて、いや……っ! いや、いやだっ!」
「残念。代わりに、馬鹿にしてあげるわよ」
アイリーンの言葉に、全員が合わせた。
あかりとアイリーンは双丘を揉みしだき、頂点のしこりをきゅっ、とつまんでこね回す。
沙羅は逃げようとする梓の腰をがっしりと捕まえて、陰核ばかりを舌で弾きまわす。
今まで調教を遂行してきたあかりとアイリーン、さらに過去のトラウマである沙羅に責め立てられ、支えを失った梓は慟哭した。
「あああっ! ほたるちゃ、蛍ちゃん、ぅぅあああああああっ! たす、けて、ぇえええええええええええええええええっ!」
「姉と私を間違えておいて図々しいんですよ、この馬鹿舌」
荒々しくあかりに口づけされて、梓はそれを受け入れてさらに泣き叫ぶ。他人を最愛の人と誤認して熱くなっていく体に、心が崩壊を起こしていく。
一度目の果ては、すぐだった。
あかりに深くキスをされ、白い肌が見えなくなるほどアイリーンと沙羅に密着される。熱いからだ、敏感な突起を同時に責め上げられ、沙羅にはぐちゅり、と子宮手前まで指を入れ勢いよく引き抜かれ。
壊れた人形のようにがたがたと全身を痙攣させて、梓は潮を噴き上げた。
「ひゃああああああっ、んああああああああああっ!」
耐えようという意思を折られたのか、いつまでも痙攣は収まらず、その中心で開きっぱなしになっている陰唇からは、屈服の証である真っ白い愛液が垂れ落ちる。
ぐしゃぐしゃになった顔ですすり泣きながら、梓はうわ言のようにか細い声を発する。
「…………わ、すれだく、な、いよぉ、……。ほ、だる……ちゃ、……ん」
「安心しなさいよ」
もう心神喪失しかけている梓の顔を無理やり向けて、アイリーンは笑った。
沙羅とあかりの顔も間近にあって、三人分の体温が、蛍に冷たくのしかかる。
「その分だけ、私たちが忘れられない記憶を与えてあげるから」
そして再び刺すような快楽責めが再開される。
その後。
梓の慟哭と喘ぎ声は何時間も何時間も牢屋の中に響き続けて。
そしてやがて、聞こえなくなった。
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