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58日目―梓とあかり、蛍とアイリーン―

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 アイリーンの言葉は、嘘だった。
 しれっとした顔で「私は蛍さんを見てくるわね」と言って、先ほど部屋を出て行った。
 奴隷たちはリビングにいて、今は梓とあかりで寝室に二人。
「ふ、ぅ………、ぅあああっ」
「うわあ、すごい濡れやすいんですね。もう台座まで垂れてきましたよ」
 両手両足を台座に埋め込まれて、四つん這いにされて。
 股間に押し付けられた振動機能のあるサドルに狂わされ、梓は甘いうめき声を出していた。
 尻側から話すのは抵抗があるのか気まぐれなのか、ベッドに腰かけて四つん這いの梓を見下ろし、あかりは淡々と話す。
「これ、梓さんが真壁部長に調教されているときにも使われていたらしいですね」
「それが、なん、だよっ!」
「いや、世間話です。梓さんも気を紛らわせたいかなと思って」
「じゃあ、あんっ……。これ、とめてよっ!」
「それはダメです」
 どうせアイリーンの命令だとか言うんだろうと思っていた梓は、直後に柔らかな足裏を頭に乗せられて、顔を上げる。
 夜の帳を下ろしたような、スイッチを切り替えたようなあかりの変化に、戸惑いと不安を同時に覚えた。
―――まあ、二年も地下にいて、変わらないわけも、ないか……。
 どこか冷静に考えていたが、足の指で乳首をつままれて、甘い息が漏れる。
「ふ……ぅ、あ」
「あなたさえもっとちゃんとしていれば、お姉ちゃんが昨晩苦しむことはなかったのに」
「あれはアイリーンがっ!」
「主様のせいにしないでください」
「ああっ! やめ、ろぉっ!」
 ぴん、ぴんと乳首を爪で引っかかれ、サドルの振動も相まって梓は絶頂の寸前までもっていかれる。
 梓が下から睨み上げると、それに負けない目で見下ろされた。
「わかりますか、梓さん。私はいま結構、苛立っているんですよ」
「知らない、ね……」
「そうですか」
 後ろに回り込まれて、くちゅ、と陰唇を広げられる。
 官能と恐怖を覚えて尻を締めようとする梓の抵抗を無視して、取り出した張形をあてがった。
「あなたさえ抵抗していれば、もしくは真っ当な人間であれば、お姉ちゃんが苦しむことも、主様が他の女を抱くこともなかったのに」
 姉が苦しむのを嫌がる感情。
 同性とはいえ、好きな人が他人を抱くのを嫌がる感情。
 一つ一つはそれほどおかしくはないはずだけど、こんなにも歪んで見えるのはどうしてだろう。
 そして梓は、張形に秘部を貫かれ、体をぴんと反り返らせた。
「―――ああっ! ああああああっ!」
 サドルからの振動も同時に加わり、陰核とポルチオを潰されて、梓は一気に絶頂する。
 きゅううう、と張形を締め上げるが、あかりは容赦をしなかった。
 梓の膣襞をめくりあげるように、何度も何度も張形を抜き差しする。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が連続して、梓は連続で果てていく。
「あ、はあっ! あっ、あんっ! ああっ! んああっ!」
「わかりますか、全部あなたのせいなんですよ」
 悶える梓の脳に刷り込むように、あかりはゆっくりと告げる。
「あなたに善性があったなら、お姉ちゃんはあんな目に遭わずに解放されていた。逆に悪性が突き抜けていれば、こんなまどろっこしい調教をしなくても、手早く丸く収めることもできた」
「あ、ああっ! っく、あ……丸く収める、って、ぅ、ふぅっ、なん、だよっ!」
「4人で一緒に、ここに住む」
 抽挿を繰り返して、あかりは言う。
「ここにはご飯も仕事もあって、お部屋もあるしネットで買い物もできる。だから、私とお姉ちゃんと主様と梓さんで、一緒に暮らすよう説得することだってできたのに」
「ふ、ははっ! ばっか、ああん……、だなぁ。蛍ちゃん、が、そんなの、吞むわけ、ない、だろ」
「呑ませることもできた。あなたがこっちに付いてくれていれば。優柔不断にお姉ちゃんに感情を向けたりしていなければ」
 そして、あかりは、蛍の口調を真似して、梓の耳元でささやいた。
「そんなんで愛されようだなんて、虫が良すぎるんだよ」
「く、ああああっ! その声、やめろよっ、ゔゔゔゔゔゔっ!」
 がくんっ! と台座を軋ませて、梓が再びイき果てる。
 悔しそうに唇をゆがめ、肩で息をする梓にさらなる愛撫を加えようと手を伸ばしたところで、ベッドサイドの電話が鳴った。
「はい、もしもし……。あ、主様。戻ってくるんですね。……伝えること? ああ、あれやるんですか。わかりました」
 そして、床まで愛液の染みを広げている梓に、あかりは事務的な口調で言った。
「主様から、伝言です。と言っても、前から決まっていたプラン通りなんですけど……」

■■■

「おはよう、蛍さん。ってまあ、しばらくかかるわよね」
 棺桶を止めて、ただの拘束椅子にしても、しばらく意識は白濁したままだろう。
 無様に足を開いてひくひくと腰を揺らす蛍を、しばらくアイリーンは見ていた。
―――やっぱり、稀有な子よねえ。
 ここまで快楽に強い人間は初めてだ。
 いや、強いわけではないか。普通に薬も効くし簡単に果てる。ただ、それが屈服に繋がっていない。理性ではなくて本能の部分で、折られたら再起できないことを知っているのだろうか。
 なんにせよ、適度な休息を与えれば何度でも復活する蛍を、快楽で堕とそうとするのは効率が悪い。
 真っ赤な顔に理性的な色が戻ってきた蛍に、アイリーンは話しかける。
「おはよう、良い目覚めだったかしら?」
「……知りたかったら、代わってあげるわよ」
「いやよ、蛍さんのいやらしい液でぐちょぐちょじゃない」
 椅子の上で足を組んで、アイリーンは顔を寄せる。
「今日はちょっと、お話をしに来たの」
「好きに話せば。聴かないけど」
「まあそう言わず、ちょっとした提案よ」
 ぱちん、と両手を打って、アイリーンは笑う。
「蛍さん。私たちと一緒にここで住まない?」
「……………はあ? ばっかじゃないの」
 吐き捨てる蛍に取り合わず、アイリーンはすらすらと続ける。
「一人一部屋あてがわれるし、あなたとあかりは警備部で雇ってもらえればそれなりの給料が出る。ネットで買い物もできるし、休日だってちゃんとある。梓は元々高給取りだったから、最悪この施設がなくなっても、貯金だけで一生暮らせる額を既に持ってるわ。だから、どうかしら?」
 その手にはリモコンが握られていて。
 脅しの色を含んだ提案に、蛍は手先がカタカタと震えるのを感じていた。
―――どうやら私は、怯えているらしい。
 それはそうだ。当たり前に怖い。快楽だって、度が過ぎれば地獄になる。喘ぎ声の合間を必死に縫わないと呼吸すらできないような責め苦は、できるならもう一秒だって受けたくない。果てるところも排泄姿も晒して、家畜のように扱われるなんてもう嫌だ。許されるなら、さっさと降参して楽にしてほしかった。
―――だけど。
「………あかりを探す過程で、32人に同じ目的で取材をした」
「それがなにか?」
「みんな、泣いてた。とつぜん大切な人を失って、どうしていいかもわからずに。もがき苦しむその声が、今も頭に響いてる」
 蛍が折れれば、アイリーンと梓はまた正規の活動に全時間を使うだろう。
 警備部として働くということは、その行為に加担することにもなるだろう。
―――屈したら、そういう人がもっと増える。
 だから。
 裸に剥かれて、感度を弄られ、生殺与奪を掌握されても。
 震える指を握りこんで、気丈に蛍はアイリーンの青い目を睨みつけた。
「私はあなたたちを認めない。死ぬまで、いや、死んでも。絶対に」
 そして、一瞬だが確実に射すくめられたアイリーンは。
 ふふふ、と笑って立ち上がった。
―――こりゃ、梓が手こずるわけだ。
 くちゅり、と熟れた秘肉に指をうずめて、覆いかぶさるように蛍を見る。
「死ぬまで玩具にされてもいいのね」
「………っ、それで、……ぅ、一人でも、被害者が、減る、ならっ、ぅあ」
 くちゅくちゅと音を立てて弄んでも、蛍の目は衰えない。
「はあ、説得失敗かしらね。まあ、また聞くからそれまでゆっくり再考してくれる?」
 股から指を引き抜いて、とろりと引いた愛液の線を舌で舐め切り、アイリーンはあかりに電話をかけた。
 まだまだ今日は終わらせない。
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