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36日目―梓の葛藤、及び寸止め解除―

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「…………いやだな」
 メールを打ち終えてからかれこれ1時間。
 梓は自室のパソコンと睨めっこしていた。
 文面は問題ない。至って事務的だ。
 問題なのは送信相手。
 想像しただけで震えだす体を落ち着かせ、梓はマウスに力を込める。
 どう考えても、最善手はこれなのだ。
 初日に蛍が捕縛される過程を記録で見た。
 常勤の警備には、1対1で蛍に対抗できる者はいない。故に『スパーリング相手』にもならない。
 ふーぅぅぅぅ、と息を吐いて、梓はメールの送信ボタンを押した。
 送信相手は真壁沙羅。
 かつて、この研究所の警備部でトップを張っていた女だ。 
 
■■■
 
「悩ましい姿がそそるねぇ、蛍ちゃん」
 白い部屋に漂う蛍の匂いを肺一杯に満たして、ようやく梓はまともな呼吸を再開できた気がした。
 蛍の調教は、ベッドに大の字にして、振動片で行っている。
 バイタルを記録して、絶対に絶頂を許さない寸止め責めだ。
 耳をつんざくような声ではなく、湿っぽく何かを媚びるような喘ぎ声を漏らす蛍に近づいて、梓は笑顔で話しかける。
「やあやあ。今日も元気そうで何よりだよ」
「そ、う……。あんたの腐った性根も変わりないようで、なによりね」
「お、ちょっと筋肉戻った?」
 くにくにと腹筋を押すと、ゴムの塊に触れているように強い反発を受ける。
 動くのが好きなのか電撃が嫌なのかはわからないが、どうやら蛍はちゃんとやることをやっているようだ。
「きもち、わるいから……触らないでくれる?」
「気持ちいいの間違いじゃなくてー? ねえ、濡れ濡れの蛍ちゃん?」
 つー、と白い下腹部に指を滑らせ、もう片方の手で陰部に手を添える。
 ふさふさと生えた陰毛と、ひくひくと蠢く襞、さらに引き締まった尻肉を指と手のひらで包み込むように触れてあげると、ねちゃりと重たい音がした。
 粘液が糸を引く音が連続して、蛍が喘ぐ。
「あ、あああっ! あ、ずさ……。さわ、るな、手動かすなっ、っく、ん」
「え?」
 一瞬言っている意味が分からなかった梓だったが、即座に理解して笑みを黒くする。
「あ、そういうことかあ。いやいや蛍ちゃん? 私は手、動かしてないよ?」
「……そんなわけっ!」
「いやいや、ほら」
 大の字の蛍の頭を持ち上げて、自分の秘部が見えるようにしてやった。
 そこにあるのは、淫らに腰を振って、梓の白い指にぐりぐりと陰部を押し付ける熟れきった肉で。
 わなわなと唇を震わせて、それでも腰の動きを止められない蛍の耳に、梓は囁いた。
「敵の指でオナニーとか、恥ずかしくないの? ねえ、ほたるちゃあん?」
「い、やっ、うそ、うそっ! とま、ってよっ! っふ、ああっ!」
「あっはは! 君の体じゃんどうにかしてよー。私の手にそんなにいやらしー液なすりつけないでもらえる?」
「あ、っは、あああっ! そ、んなこと、……っ、っはあ、ああああああっ!」
「おっと危ない」
 蛍が目を閉じて感じ入るような顔をし始めたのを見て、梓は慌てて手を引っ込める。
 何もない所に未練がましく秘貝を押し出しながら唇を噛む蛍を、梓はぎゅっと抱きしめた。
「蛍ちゃん、やっぱり可愛いなあ」
 自らの舌に薬を乗せて、羞恥に噛まれた蛍の唇を、今日も貪る。
「ん、ぢゅ、っく、んん………んんんむ」
「………ん、ふぅ、………こく、ちゅ、ん………んんっ」
 砕かれた薬が蛍の喉を通り抜けていっても、梓は舌をひっこめず。
 二度目ともなると諦めもついたのか、あるいはどうでもよくなったのか、蛍の方も前よりは抵抗をしなかった。
 敵と味方。女と女。研究者と被験体。
 お互いに貼られたあらゆるレッテルが禁じるであろう行為に、梓は没頭していく。
 ベッドに乗り上げ、縛られた蛍の頭を両手で持って、奥の奥まで吸い尽くすように舌をねじ込む。
 歯茎を撫でるように舌先でつついてやると、喘ぎ声の混じった息が返ってくる。口内全部に舌を這わせると、ぴくんぴくんと頭が震える。
 もじ、と太ももを擦り合わせるとくちゅりと湿った音がして、梓はその音に酔ってさらに合わせる唇の角度を深くした。
―――ああ、ずっとこうしていたい。
 沙羅に与えられた過去のことも、アイリーンとのいがみ合いも全部忘れて、ずっと蛍とだけ遊んでいたい。
 大の字に拘束された蛍への濃厚なキスの音は、それからしばらく止まなかった。 
 
■■■
 
 まだ梓の唾液が残っている気がする。
「…………ぺっ」
「えー何その反応傷つく……」
 本当に傷ついたように眉を下げる梓に、蛍は冷たい目を送る。
 しかし内心は困惑していた。
 梓から、30分ほど続けてキスを強要された後。
 食事を終えて、ランニングマシンの上で走り続ける蛍を見て、梓は言う。
「ねえ、蛍ちゃんの肺って何個あるの?」
「2個に決まってるでしょ。馬鹿なの?」
「えーでも10個ぐらいないと説明がつかないじゃん。なに本当に化け物?」
「あんたは10個あっても5分保たないでしょうが」
 むー、とふくれっ面をする梓に、蛍はため息をついて下を向く。
 どこか考えるのを拒否していた想像が、ここ2,3日で急速に膨らんできていた。
 質問するか悩んで、けっきょく蛍は口を開く。
「学校行ったことないの?」
「ないよ」
 あまりにもあっさりと帰ってきた答えに、驚かない自分がいた。
 朝宮あかりのことは秘匿したくせに、自分のことになるとあまりにも軽く梓はぺらぺらとしゃべった。
「学校というか、研究所から出たこともないかな。生まれも育ちもここ。純粋培養の箱入りちゃんだぜ」
「…………辛くないの?」
「なにが?」
 本当に、訳が分からないといった顔で梓は首を傾げた。
「ネットで必要なものは買えるし、不足しているものもないから。わたしは満足してるけど」
「でも、だって。出られないんでしょ? ここから」
「うーん、まあそうだけど……。じゃあ例えば、蛍ちゃんだって、地球から出られないけど。宇宙に行けないのは辛い?」
「…………………」
「まあ、そういうことだよ」
 あっけらかんと返されて、体力の限界でもないのに、蛍の息が乱れる。
 それは最悪の想像で。
 ある意味では救いなのかもしれないが、ある意味では心の置き所に迷ってしまう状況で。
 少女と女性の間を不安定に行き来する悪魔のような女から、蛍はふい、と目を逸らした。
―――この子も、被害者なのかもしれない。
 
■■■
 
 薬が切れるときの感覚が、一番嫌いだ。
 運動を終えて、シャワーもなしに再び拘束された蛍は、声を漏らさないように必死で我慢を続けていた。
「ねえねえ、気持ちいい?」
「………きもちわるい、だけ」
 先ほどから梓が、ベッドの上で覆いかぶさってきて、蛍の体を撫でている。
 空気の流れすら鋭敏に感じ取れるようになってきた体は、蛍の意思に反して快楽を拾い上げ、さらに今まで寸止めされてきた分の熱も芯に灯った。
 きゅっ、と両乳首をつままれて、蛍はついに声を漏らす。
「あっ!」
「ふふ、声が漏れたね。じゃあ次は」
「あ、ああっ……」
 両足首の枷が、お腹側にせりあがる。
 M字に足を開かされ羞恥に顔を赤らめるが。
 梓がその足の間に顔を移動させ、舌をちろりと出したのを見て、ぎしぎしと体を揺らした。
「まって、梓……くぅぅぅっ、あっ!」
 容赦はなかった。
 小指ほどの大きさに膨れ上がり、愛液でてかてかと光った肉芽を口に含んで、梓はちゅうちゅうと吸い上げる。
「あ、ああっ……っく、ぅぅぅ、ひゃっ、あんっ」
「ちゅ、ん、くちゅ、……ぷは。まだちょっと薬が残ってるのかもね。イけないでしょ」
 打ち上げられた魚のように腰をゆする蛍は、確かに梓の言う通り絶頂には達していなかったが。
 もう長く続いた寸止めで、体の熱は限界だった。
 脳を暴れる欲のまま、梓の唇に自らの陰唇を擦りつけようと腰を蠢かせて、あ、あぅ、と小さな声を漏らす。
 目は死んでいないが、上気した頬は発情した雌の色を存分に乗せていた。
 最後に一度だけ陰核を舐めて、梓は淫液に濡れた顔を蛍に近づける。
 またキスか、と体をこわばらせた蛍だったが、梓は耳元に顔を寄せて、一言優しげな声で呟いた。
「イかせてあげる」
「え………あはあっ!」
 いきなりだった。
 梓の手に肉壺を貫かれ、蛍は電撃を受けたように腰を持ち上げる。
 中指と人差し指を奥まで差し込まれ、引き抜くときにGスポットをかりかりと擦り上げられる。
 女の弱点を的確に抉る梓の指使いに、たちまち蛍の体は燃え上がった。
「あ、はああっ! くっ……はあ、あん、あああんっ!」
「ふふ、すごい乱れ方……。こっちもしてあげる」
「あ、耳、も………っ⁉」
 生暖かい舌に、耳を犯される。
 ぐちゅぐちゅと耳でいやらしい音をたてられ、脳まで舐めつくされているような感覚に、涙が目じりを伝う。
 否応なく叩きつけられる快楽に頭と膣を犯されて、冷静な思考が吹き飛んでいく。
―――だめ、おかしく、なるぅぅぅぅっ!
 梓=敵、という考えに疑問を抱いたのも良くなかった。
 素直に憎めなくなった女の愛撫に、蛍の体は悦びの声を上げて、まとまった量の愛液を振りかける。
 機能的に体を動かしていた時の面影はなく、快楽に溺れ歪む顔を梓に正面から見つめられて、かあ、と体温が上がった。
「蛍ちゃん、可愛い」
「あ、ずさ………っ! だ、め。もうっ!」
「うん、いいよ」
 こくりと頷かれて、ちゅ、と触れるだけのキスを落とされる。
 そして、子宮口とGスポットを苛んでいた梓の指が陰核をもくりくりと刺激しだして、蛍の体は一気に決壊へと向かっていった。
「あ、だめ、そんなっ、一気に、されたらぁっ!」
「我慢しなくていいよ、蛍ちゃん」
 自分の陰部から鳴るぐちゅぐちゅという音に、より一層体を熱くさせて、引き結んでいた口が開く。唇の端からとろりと唾液を垂らし、蛍はぎゅっ、と目をつぶった。
「イって」
 その言葉を最後に、聴覚が途絶えた。
 今まで貯められていた分の絶頂が体中を暴れまわり、出口を見つけて一斉に解放される。
 折れんばかりに背筋を反らして、引き締まった尻肉をきゅっと引き結び、M字にぱっくりと開いた股から尿のように潮を噴いて。
「イ、っく、イぐ! イっくぅぅぅっ―――~~~~っ!」
 蛍は全てのプライドをかなぐり捨てて大絶頂に呑み込まれた。
 
■■■
 
 そして、寸止めを中断させて何度も蛍をイかせた後。
 自室に帰ってきた梓は、真壁沙羅からの返信に、自分の懸念が当たっていたことを悟る。
「寸止めさせてるって言ったら、あのクソは嬉々としてイかせまくってただろうからなあ……。まあ、しょうがない」
 
■■■

(土曜日、午前9時47分送信)
『真壁沙羅様
お世話になっております。野茨梓です。
被験体の性能試験のためのスパーリング相手を引き受けていただきたくご連絡差し上げました。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
野茨梓』

(土曜日、午後4時21分送信)
『野茨梓様
忙しい身の上だが、可愛い私の猫の頼みだ。
12時間、私にその子を預けてくれるなら許諾しよう。
封殺した後は、楽しませてもらうぞ。
真壁沙羅』
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