奴隷女と冷徹貴族が、夫婦になるまでの物語

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4章

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 本当に幸せだった。
 ノア様も、ルーカスさんも、ケアラさんも、優しくて暖かかった。
 でも、私はそこにはいられない。居続けてはならない。疫病神で、哀れな女で、彼らの将来を潰してしまうから。
(これだけは、外せなかったけど……)
 左手の薬指に嵌められた指輪を、そっと撫でる。リングが特殊なのか、どれだけ引っ張っても抜けそうになかった。鍵もおそらくノアの部屋で、探すのも無理だった。
(どうか私に、勇気を、ください)
 指輪と、それからノアの色をしたハンカチ。
 その二点だけを大事に持って、カオルはその身を奮い立たせる。
 イルミナ家の豪奢な屋敷の前だった。

    ◇

「おかえりなさい、欠陥品」

 二人きりの執務室。対面した当主ヘレナから妙に甘い声をかけられて、カオルは頭を下げる。

「……ただいま、戻りました」
「その様子だと、案の定捨てられたのね。可哀想。まあ安心なさい、私はちゃんと貴女を使ってあげるから。傷もつけず、食事も与えて」
「…………」
「返事は?」
「……ありがとう、ございます」

 反論したいことなんて山ほどあった。それらを全て堪えて、頭を下げる。
 ヘレナの目が、すいっと下に落ちた。

「良いものを掠めてきたじゃない。でも、『展示品』には不要よね」

 指輪のことを言っているのだ。そう気づいても、カオルは動かなかった。

「この指輪は、取れません」

 鍵を持っていないから取りようがない。
 きっとこれは、ノアの気遣いだ。無理やり奪われないように、鍵付きのリングを選んでくれた。
 そっと指輪を撫でて口元を緩ませるカオルに、ヘレナはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「まあ良いわ。それも含めて調べるから。……体の隅々まで、どう変わったのかね」

 その言葉に呼応するように、召使いたちがカオルを囲んだ。

    ◇

 展示のための部屋には、大量のカメラと、拘束具と、女を責めるための器具が並んでいる。カオルが悪夢に見る場所だった。
 服を奪われ、広げられた四肢のそれぞれにゴム手袋を嵌めた召使いが付く。
 そのうちの一人、最も年配の女が、平坦な声で言った。名前は確か、ウィタだったか。

「楽になさっていてください。どうせ逃げられません」
「こんな状況で、楽になんて……っ」
「まあ、楽にというよりは、好きにしてください、ですかね。抵抗したいならどうぞ。鳴かせたいときは、こちらでそうさせますので」

 太腿と肩口にぴとりと手が添えられて、ぴくりと身体が揺らいだ。

「……、…………」
「続けます」

 巧みな指遣いが、皮膚を撫でる。
 腕の方では、二の腕のあたりから腋、胸の膨らみに沿うように繰り返しなぞられる。
 足の方では、太腿を包むように両手を押し当てられて、内腿のあたりを掠めるような動きをされる。
 官能への期待を高める愛撫に、眉根を寄せた。

「……っ、……ぅ」
「我慢を、するようになりましたね。前は諦めたように喘いでいましたけど。指輪の方のお陰でしょうか」

 ウィタが指輪をつつく。カオルは精一杯睨みつけた。

「……っ、触ら、ないで」
「これは失礼。……じゃあ、代わりに」
「……っ、や、あ……っ」

 ぐい、と鼠蹊部を外側に広げられた。
 膣口に空気が触れる。陰唇が開いて、とろとろと愛液が漏れているのが、お尻の冷たさからわかる。
 ぴん、と陰核を弾かれた。

「……っ! ~~ーーっ!」
「これも我慢しますか。すごいですね。でも、中は丸見え、期待してるのもバレバレですよ。ほら、すごいにおい」
「……ん、ぅ……っ、ぅ」
「中は……。ああ、旦那さんとしたんですか。処女膜は無くなっている、と。良かったですね」

 ウィタの指が、陰核と膣口の手前でぴたりと止まる。 
 はあ、はあっ、と熱い息を漏らすカオルに、問いかける。

「前みたいに、全部諦めてみっともなく喘ぐなら、緩めにして差し上げます。いかがしますか」

 二人の手が乳輪を挟むようにセットされ、もう二人の手で陰核と膣口を狙われる。
 あからさまな脅迫だった。
 でも。

「……好きに、したら、いい」

 がたがたと震えながらも、カオルは言い切った。
 濡れた青い目を鋭くして、召使い達と、カメラを見る。

「私は……、抵抗するって、決めて、帰ってきたんです」
「……そうですか」

 沈黙は、一瞬だった。
 カオルに伸びた何本もの魔手が、一斉に責め立てる動きに変わった。

「……っ! ん、ああ……っんあ、――――っ!」

 暴力的な快楽が全ての性感帯で爆発した。
 決意は強くても、身体を取り替えることはできない。敏感な突起を弾かれて、カオルは胸で果て、陰核で果てる。

「あああっ! ……っい、ああ……んっ!」
「感度は前と変わらずですね。はい、じゃあ淫らにイくと叫んでください」
「……いやですっ! んあ、っううああ……っ!」

(耐えられない……っ。また……イ、くっ! ……で、も、負けな、い……)
 絶対口に出すものか、と唇を噛む。握った手に感じる指輪を拠り所に、調教に抗う。

「また、イってください」
「――――っ! んううあああっ!」

 愛液を開いた股からしぶかせながらも、屈服の言葉は飲み込んだまま。
 検査という名目の責めに、カオルは懸命に耐え続ける。
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