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お姫様のキス

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「それで、何でわかったの? 俺、結構髪色とか変装に気を付けたんだけど。」セインはちらりと私の方を見ていった。

「まず、ブロンド混じりの髪の毛、ブロンドはこの国では王族の証でしょ?今の貴方はそもそもストロベリーブロンドだし、ところどころキラキラ光るブロンドが見える。加えて、瞳の色。一見すると空色だけど、よく見ると金箔のように金色が散りばめられているかのよう。目に金色が入ってるなんて、そうそう王族でもいないわ。」と私は言い切ると自慢気に胸を張ってみせた。

セインは「さすが俺の元婚約者。」と言って、ちょっとおどけたように笑った。外面だけ見ると可愛らしい女の子がからかって笑っているように見えるので、なんともいじらしい。

「元、か。」私はポツリと呟いた。そんな私の言葉なんて聞こえなかったかのように、セインは組んでいた腕をほどいて、「ここが俺ん家。寄ってく?」なんて言ってくる。

そう、私たちの寮は一つ一つがコテージのように離れているのだ。これを聞いた時はさすがだなと思ったものだ。
「そんなナチュラルに家誘わないでよ。」私はそう返すとじゃあね、と言って自分の寮の方へと歩いて行きかけた。

少なくとも行こうとしたのだ。なぜなら、後ろから腰の辺りをぐっと掴んでセインが両腕を回してきたので、私は身動きが取れなくなっていた。「ちょっと、どういうつもりなの?」私は振り向きざまに問いかけた。

振り返るとそこにはウルウルとした空色の瞳の女の子がいて、「だって、寂しいんだもん。」なんて彼氏との別れ際に彼女が呟くように訴えてくる。「あのね、こういう時だけ女の子に戻るのやめてくれない?」私はほとほとあきれた、なんて感じでそう言い放ったが、今のセインの可愛さには子犬のような愛らしさがあった。

「わかったわよ。」私は仕方なくといった感じで少し立ち寄ることにしたが、実を言うとセインの訴え以前に他の寮も自分ものと同じ構造なのかすごく興味があったのだった。

「お邪魔します。」私がそういって入ると、「適当に座ってて。」と言ったきり彼は部屋を出ていった。
部屋の中はピンクを基調として纏められていて、根本的な造りは私の寮と同じだった。

少ししてポットとティーカップを持ったセインが現れると、コポコポとお茶を注いでくれた。カモミール香る爽やかなお茶を飲んだ後、私は改めてセインに質問した。

「どうやって今の学園に潜りこんだの? 表向きは貴方は...。」そこまで言いかけたところで、皆まで言うなとばかりにセインが手を振る。そして「一応表向きは継承争いに敗れ、部屋に閉じこもってることになってるけれど、俺を支援してくれる政治家が俺を養子にしてくれたんだ。それでこの学園に身分を偽ってこれたってわけ。」とさらさらと回答した。

(そうだったんだ。)私はうなづきながら、ちらりとセインを見た。心なしか、瞳が金色に戻っている気がする。そして「ねぇ、もとに戻る魔法とかないの?」と聞いた。

彼は、少し考え込むような素振りを見せた後ー実際は可愛らしい女の子が小首を傾げているのだがーこう言った。
「おとぎ話にもあるように、王子様のキスとかいいかもしれない。」そして蠱惑的な笑みを浮かべて、「ま、俺の場合はお姫様かな。」そう言って、彼の返答にぽかんとしていた私の唇を親指でそっとなぞったのだった。

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