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5.第四幕

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「エイデン侯爵、もうルイ王子とリリー伯爵令嬢の婚約妨害なんて出来ないんじゃないかしら?」

 バタリと閉まった扉を見つめながら、私はエイデン侯爵に話しかけます。

 エイデン侯爵はというと、ルイ王子が残していったネックレスとハンカチを手に取っていました。

 そして、躊躇なくハンカチに傍にあった紅茶を垂らします。

 すると、ハンカチには

 ――バロン伯爵家には関わるな――

 との文字が浮かび上がりました。

「ルイ王子って、なんだか、回りくどいのは嫌いとか言いながらこんなメッセージの伝え方する人なのね」

 エイデン侯爵と肩を並べてその文字を読んだ私に向かって、エイデン侯爵はぽつりと

「宮廷にはどこに敵が潜んでいるかわからないからさ」

 そう呟いたのでした。

 なるほど、と頷いた私をみて、彼は私の手を取り宮廷を後にしたのでした。

――――――――

「リリー様、ルイ王子がお見えですよ」

 これまで各所から集めた宝石を眺めていると、侍女が少し浮き足だったように私の部屋へとやってきました。

 私は慌てて広げていたジュエリーを片付けると、ルイ王子を出迎えるために門の方へと向かいます。

「リリー、体調は良くなったかい?」

 ルイ王子は到着するやいなや、私の元へ駆け寄って私の頬をそっと撫でながら尋ねます。

「えぇ、お陰様で」

 彼の優しい指使いを感じながら、私は嬉しさが込み上げるのを我慢して、極めて落ち着いて返事をしました。

 (ルイは私が咳を少ししたと聞いただけで、すぐにわざわざ私の元を訪ねてくれる。結婚式はもう目前、ようやくこれまでの悲願が叶うわ)

 私の手を取り、屋敷に入るルイの背中を見つめながら私はそっと心の中でそう思ったのでした。

 私の自室に入ると、ルイは懐から綺麗に装飾された箱を取り出しました。

「前に言っていたネックレス、きちんと修理してもらったからね」

 そういうと、箱をあけるように私を促します。

私がそっと箱を開けると、そこには大粒のルビーが光り輝くネックレスが納められていました。

「まぁ、素敵ね。ありがとう」

 私がお礼を言うと、ルイは用事があるから今日はこれで、と少し名残惜しそうな顔をして去っていきました。

 ルイが屋敷を去った後、私は再び先程広げていた手持ちのジュエリーが入っていたジュエリーボックスを開けます。

 そして、ルイが修理してくれたネックレスと、以前にエイデン侯爵から貰ったネックレスを並べてしまったのでした。

 ――――――――――

「おまえの言動にはほとほとあきれた。本日を持ってリリー・バロン伯爵令嬢との婚約を破棄する」

王子がそう言うと、それまで賑やかだったパーティー会場がしんと静まり返りました。頭上のシャンデリアだけが変わらず私たちをキラキラと照らします。

(私の名前はリリーじゃないわ!私の名前は……)

私が王子に叫びそうになった時、
 
「ギルバート男爵令嬢?」

 私は肩を誰かにそっと揺さぶられてハッと目を覚ましました。

 どうやら、ルイ王子に謁見してからの帰り道、エイデン侯爵がいるのにも関わらず、馬車の中で私はうたた寝してしまっていたようでした。

「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

 心配そうなエイデン侯爵が私を覗き込みます。

 
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