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5.第四幕

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「エイデン侯爵様、これからルイ王子のところに向かうので?」

 ガタガタと雪道を走る馬車の中で私は目の前に座る、金髪の侯爵に尋ねました。

 慌てて彼に王都に向かう準備をさせられたせいか、私は簡素な身なりのままです。

「あぁ、そろそろルビーのネックレスの仕組みがバレそうな頃合だからな」

 エイデン侯爵は外一面の雪景色を見つめながら、呟きます。

「ちょっと、次期王妃の暗殺計画が露呈して婚約者諸共道ずれにするつもり!?」

 そんなことは、真っ平御免と思いながら私は彼に尋ねました。

「まぁ、そうカリカリしないで」

 彼はふっと笑うと懐から小瓶を取り出しました。

「この中には、ルビーのネックレスに含まれる毒素を解毒する解毒剤が入っている」

 彼はそういうと青色の液体が入った小瓶を投げて私に寄越します。

 受け取った私を見ると、彼は榛色の瞳でじっと私を見つめて

「それを飲んでくれないか」

 と真剣な顔をして言いました。

「ちょっと、解毒剤かなんか分からないけど、こんな意味不明な液体を飲めるわけないでしょ」

 私が彼に投げて返そうとすると、エイデン侯爵はまぁまぁと言って私を宥めます。

「なら、俺も飲めばいいんだろう?」

 彼はそういうと、私の指から小瓶を抜き取り、蓋を開けると躊躇なくゴクリと瓶の中の液体を飲みました。

 そして、残りの液体が入った瓶を私に渡します。

「まるで婚礼の儀式みたいね」

 ルクス王国伝統の婚礼の儀式では、一つのグラスに注がれた祝い酒を花婿と花嫁が飲む風習があります。

「婚約したんだし、結婚したも同然さ」

 彼は口元の液体を拭いながら、私にも飲むように進めます。瓶を傾けて飲んだ青色液体は、無味無臭でした。

 ――――――――

 宮廷に到着し、案内された部屋にいると、遠くで臣下がルイ王子の名前を呼ぶ声が聞こえました。

 しばらくすると、部屋の扉が開きルイ王子が入ってきます。

「待たせたね、レオ」

 ルイ王子は穏やかな声で、跪くレオと私を手で合図して近くのソファに座らせました。

「まずは、婚約おめでとう、レオ」

 柔らかい声で私とレオを交互に見ながら、ルイ王子はお祝いの言葉をくれます。

 そして、控えていた侍従を下がらせると、自身の胸ポケットからハンカチに包まれたネックレスを取り出しました。

「回りくどいのは、苦手でね」

 彼はそういうと、そのネックレスのルビーの部分を目の前に置かれていた、私たちに出されていた紅茶につけました。

 すると、たちまち紅茶から煙があがりシュワシュワとそのルビーは溶けてなくなりました。

 (あの時と同じだわ)

 私がじっとその様子を見つめていると、

「どういうことか、説明してもらおうか」

 ルイ王子は淡々と言い放ったのでした。

 
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