転生令嬢の推しは王子様の側近ですが、なぜか王子様が私を誘惑してきます…

雪入凛子

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4.第三幕

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早朝に宮廷でルイに会った後、俺はルクス王国のギルバート男爵令嬢の家に向かいました。

 彼女の屋敷は国境近くにあるため、ノクタム王国から近かったが、ノクタム王国よりも寒い地域にあるため彼女の屋敷に近づくほどに、雪景色が一面に広がっていきました。

 (これが到底貴族の屋敷と言えるのか)

 自身の屋敷と比較すると掘立小屋のように見えるギルバート家の屋敷につくと、俺は使用人に要件を伝えました。

 (令嬢が出迎えもしないなんて、俺も舐められたもんだな)

 そんなふうに思いながら、使用人に案内された彼女の部屋の扉を俺はノックしました。

「どうぞ」

 部屋の中から、落ち着いたギルバート男爵令嬢の声が聞こえます。

 部屋を開けると簡素なベットに、飾り気のないテーブルに広げられた新聞に目を通すギルバート男爵令嬢がいました。

 暖炉に照らされたルクス王国平民特有の髪色は、ゆらゆらと輝き緩やかに後ろで纏められています。

 淡い空色の瞳が俺を一瞥すると、再び手元の新聞に向けられました。

 (これまで、どんな令嬢でも俺が訪ねると喜んで自分から寄ってきたものなのに)

 そう思った俺は、思わず

「全く出迎えもしてくれないなんて、つれないお嬢様だな」

 と言ってしまったのでした。

 俺は外套についていた雪をさっと払うと控えていた侍女に渡しました。

 そして、俺に関心を示さないギルバート男爵令嬢に近づくと、新聞を読む手を取りました。

  「急にどうなさったので?」

 手を取っても顔色一つ変えず、彼女は俺に向き直りました。

「そのつれない態度、ほんとにギルバート男爵令嬢はお堅いねぇ」

 思わず皮肉が口を出ます。

 すると、あろうことかギルバート男爵令嬢は俺に近寄ってきて、俺の膝の上に腰掛けたのでした。

 (ほんとにこれまで社交界デビューはしたことないんだよな……)

 ギルバート男爵令嬢の積極的な行動や挑発的な発言に、

「き、君って社交界デビューしたばかり、、だよね?」

 俺の中の心の声が漏れて出ます。

「もちろんですわよ?エイデン侯爵様」 

 そういう彼女の瞳は暖炉の光を反射して、まるで小さな炎が瞳の中に灯っているようでした。

 その炎をよく見ようと彼女を見つめると、向こうも臆することなくこちらを見つめ返します。
 
「そんなに見つめられると話を続けられないんだけど……」

 あまりにまじまじと見つめられて俺は慌てて顔を逸らしました。

「あら?こんな小娘相手にそんな緊張なさらなくても」

 くすりとギルバート男爵令嬢は笑うと、俺が隠し持ってきたペアのリングの在処を見事に探り当てます。

(結構入り組んだ服なのに、よく隠し場所がわかったな)

 
「全く、ギルバート男爵令嬢がこんな令嬢だとは思わなかったよ……」

 どうやら、彼女を見くびりすぎたようだと思い俺はそう呟きます。

「私の推測だと、これは(仮の)婚約指輪ってとこかしら?」

 指輪のルビーが本物かどうか確かめるように暖炉の炎に透かして眺めながらギルバート男爵令嬢は呟きます。

「そうだよ、君に協力してもらう以上婚約関係にあると何かと便利かと思って」

 ギルバート男爵令嬢に協力依頼する以上、彼女を一定の地位に引き上げないとそもそもすぐにバロン伯爵家に一族もろとも消されてしまいます。

 そのためにも婚約は協力と引き換えの身の保証として必要だと俺は考えていたのでした。

「お父様には許可を得たの?」

 俺が彼女にはめた指輪を眺めながら、ギルバート男爵令嬢は質問します。

 もちろんギルバート男爵は嬉し涙を流して、この婚約に賛成でした。

「もちろんだよ」

「それで、私は何をしたらいいのかしら?」

 ギルバート男爵令嬢は真剣な顔で俺に尋ねます。
 
「君にはルイ王子を誘惑して欲しいんだ、少なくともリリー令嬢にプレゼントしたネックレスの毒素が効果を発揮するまで」

 (詳しく言えば、リリー令嬢から刻印の指輪を外させる時までの婚約阻止の役割だけどな)
 
「ちょっと待って、エイデン侯爵。あんな絶世の美女の婚約者がいるルイ王子に色仕掛けを私にさせるつもり?」

 ギルバート男爵令嬢は困り果てたような顔をして俺を問い詰めます。

 (ま、確かにリリーに並ぶ美女なんてそうそういないよな。でも、ルイはなぜか地位も絶世の美女でもないお前に興味あるみたいに見えるぞ)

 思わず出かかった本音を押さえ込んで、

「色気仕掛けをしろとは言わないよ、ルイはそんなのに引っかかるやつじゃないし。ただ、ルイに積極的に話しかけて欲しいんだ」

 俺が彼女を宥めるように言うと、
 
「わ、わかったわよ。それにしてもリリー伯爵令嬢を毒殺でもするつもりなの?いくら、貴方が王族の血を引くとしても、そんなこと未来の王妃にしたら貴方の首が吹っ飛ぶわよ」

 と俺の思いもよらない答えが返ってきたのでした。

「へぇ、勝手に君のファーストキスを奪った私を心配してくれるなんて、なかなか可愛いところがあるじゃないか」

 俺はそう言いながら、ふと

 (ノクタム王国にしても、ルクス王国にしても女というものは皆、ファーストキスは貞操観念くらい大切にするのに考えてみたら、この令嬢はそれに全然こだわりがないな)

 と感じたのでした。

 

 
  
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