26 / 34
4.第三幕
1-16
しおりを挟む
「もちろんですわよ?エイデン侯爵様」
私は榛色の瞳をじっと見つめながら、そっと答えました。
彼の瞳の中にまるで小さな暖炉があるようだと私はこの時ふと思いました。
「そんなに見つめられると話を続けられないんだけど……」
暖炉のそばだから熱いのか、はたまた別の意味か、少し頬を赤らめたエイデン侯爵がぼそりと言います。
「あら?こんな小娘相手にそんな緊張なさらなくても」
私はそう言いながらそっと、開いたシャツの隙間に手を忍び込ませます。
そして、彼のシャツの隠しポケットからペアの小さな銀の指輪を取り出しました。
その指輪には小さな小さなルビーの宝石が埋め込まれてました。
「全く、ギルバート男爵令嬢がこんな令嬢だとは思わなかったよ……」
彼は突然の私の行動に驚いたものの、すぐにこの状況を受け入れたのか、いつもの口調に戻っていました。
「私の推測だと、これは(仮の)婚約指輪ってとこかしら?」
暖炉の光に小さな小さなルビーを透かして眺めながら、私はエイデン侯爵に尋ねます。
「そうだよ、君に協力してもらう以上婚約関係にあると何かと便利かと思って」
そう言うと彼は、私の手から銀の指輪をひとつ取り、私の薬指にストンと嵌めました。
いつの間にサイズを測ったのか、その指輪は私の指にサイズがピッタリでした。
「お父様には許可を得たの?」
もちろん、位の高い貴族からの求婚を位の低い貴族が断ることなんて出来ないので、あくまでこの状況での父への許可は形骸化してますが、一応私は聞きました。
「もちろんだよ」
彼はそう言うと、自信満々にパチリとウィンクして見せました。
「それで、私は何をしたらいいのかしら?」
指の間でキラキラと光る指輪を見つめながら、この指輪、なんだか既視感がある光景だなと思いつつ私はエイデン侯爵に訊ねました。
「君にはルイ王子を誘惑して欲しいんだ、少なくともリリー令嬢にプレゼントしたネックレスの毒素が効果を発揮するまで」
ルイ王子は私にはめた銀の指輪をそっと、私の指から外しながら説明します。
「ちょっと待って、エイデン侯爵。あんな絶世の美女の婚約者がいるルイ王子に色仕掛けを私にさせるつもり?」
(どう考えても、噛ませ犬にもなり得ないと思うんだけど)
私はテーブルの上の新聞の中で妖艶に微笑むリリー伯爵令嬢を眺めながら言います。
「色気仕掛けをしろとは言わないよ、ルイはそんなのに引っかかるやつじゃないし。ただ、ルイに積極的に話しかけて欲しいんだ」
エイデン侯爵は新聞を眺める私の顔を自身の方に向き直らせて言いました。
「わ、わかったわよ。それにしてもリリー伯爵令嬢を毒殺でもするつもりなの?いくら、貴方が王族の血を引くとしても、そんなこと未来の王妃にしたら貴方の首が吹っ飛ぶわよ」
「へぇ、勝手に君のファーストキスを奪った私を心配してくれるなんて、なかなか可愛いところがあるじゃないか」
ルイ王子は少し口元を歪ませて笑いました。
(ファーストキスね…)
彼のその言葉は、桜の花びら舞う中で、私に銀の指輪を渡したあと、おずおずと私の唇に掠めるほどのキスをした人影が浮かび上がったのでした。
私は榛色の瞳をじっと見つめながら、そっと答えました。
彼の瞳の中にまるで小さな暖炉があるようだと私はこの時ふと思いました。
「そんなに見つめられると話を続けられないんだけど……」
暖炉のそばだから熱いのか、はたまた別の意味か、少し頬を赤らめたエイデン侯爵がぼそりと言います。
「あら?こんな小娘相手にそんな緊張なさらなくても」
私はそう言いながらそっと、開いたシャツの隙間に手を忍び込ませます。
そして、彼のシャツの隠しポケットからペアの小さな銀の指輪を取り出しました。
その指輪には小さな小さなルビーの宝石が埋め込まれてました。
「全く、ギルバート男爵令嬢がこんな令嬢だとは思わなかったよ……」
彼は突然の私の行動に驚いたものの、すぐにこの状況を受け入れたのか、いつもの口調に戻っていました。
「私の推測だと、これは(仮の)婚約指輪ってとこかしら?」
暖炉の光に小さな小さなルビーを透かして眺めながら、私はエイデン侯爵に尋ねます。
「そうだよ、君に協力してもらう以上婚約関係にあると何かと便利かと思って」
そう言うと彼は、私の手から銀の指輪をひとつ取り、私の薬指にストンと嵌めました。
いつの間にサイズを測ったのか、その指輪は私の指にサイズがピッタリでした。
「お父様には許可を得たの?」
もちろん、位の高い貴族からの求婚を位の低い貴族が断ることなんて出来ないので、あくまでこの状況での父への許可は形骸化してますが、一応私は聞きました。
「もちろんだよ」
彼はそう言うと、自信満々にパチリとウィンクして見せました。
「それで、私は何をしたらいいのかしら?」
指の間でキラキラと光る指輪を見つめながら、この指輪、なんだか既視感がある光景だなと思いつつ私はエイデン侯爵に訊ねました。
「君にはルイ王子を誘惑して欲しいんだ、少なくともリリー令嬢にプレゼントしたネックレスの毒素が効果を発揮するまで」
ルイ王子は私にはめた銀の指輪をそっと、私の指から外しながら説明します。
「ちょっと待って、エイデン侯爵。あんな絶世の美女の婚約者がいるルイ王子に色仕掛けを私にさせるつもり?」
(どう考えても、噛ませ犬にもなり得ないと思うんだけど)
私はテーブルの上の新聞の中で妖艶に微笑むリリー伯爵令嬢を眺めながら言います。
「色気仕掛けをしろとは言わないよ、ルイはそんなのに引っかかるやつじゃないし。ただ、ルイに積極的に話しかけて欲しいんだ」
エイデン侯爵は新聞を眺める私の顔を自身の方に向き直らせて言いました。
「わ、わかったわよ。それにしてもリリー伯爵令嬢を毒殺でもするつもりなの?いくら、貴方が王族の血を引くとしても、そんなこと未来の王妃にしたら貴方の首が吹っ飛ぶわよ」
「へぇ、勝手に君のファーストキスを奪った私を心配してくれるなんて、なかなか可愛いところがあるじゃないか」
ルイ王子は少し口元を歪ませて笑いました。
(ファーストキスね…)
彼のその言葉は、桜の花びら舞う中で、私に銀の指輪を渡したあと、おずおずと私の唇に掠めるほどのキスをした人影が浮かび上がったのでした。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる