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4.第三幕

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「もちろんですわよ?エイデン侯爵様」

 私は榛色の瞳をじっと見つめながら、そっと答えました。
 彼の瞳の中にまるで小さな暖炉があるようだと私はこの時ふと思いました。

「そんなに見つめられると話を続けられないんだけど……」

 暖炉のそばだから熱いのか、はたまた別の意味か、少し頬を赤らめたエイデン侯爵がぼそりと言います。

「あら?こんな小娘相手にそんな緊張なさらなくても」

 私はそう言いながらそっと、開いたシャツの隙間に手を忍び込ませます。

そして、彼のシャツの隠しポケットからペアの小さな銀の指輪を取り出しました。

 その指輪には小さな小さなルビーの宝石が埋め込まれてました。

「全く、ギルバート男爵令嬢がこんな令嬢だとは思わなかったよ……」

 彼は突然の私の行動に驚いたものの、すぐにこの状況を受け入れたのか、いつもの口調に戻っていました。

「私の推測だと、これは(仮の)婚約指輪ってとこかしら?」

 暖炉の光に小さな小さなルビーを透かして眺めながら、私はエイデン侯爵に尋ねます。

「そうだよ、君に協力してもらう以上婚約関係にあると何かと便利かと思って」

 そう言うと彼は、私の手から銀の指輪をひとつ取り、私の薬指にストンと嵌めました。

 いつの間にサイズを測ったのか、その指輪は私の指にサイズがピッタリでした。

「お父様には許可を得たの?」

 もちろん、位の高い貴族からの求婚を位の低い貴族が断ることなんて出来ないので、あくまでこの状況での父への許可は形骸化してますが、一応私は聞きました。

「もちろんだよ」

 彼はそう言うと、自信満々にパチリとウィンクして見せました。

「それで、私は何をしたらいいのかしら?」

指の間でキラキラと光る指輪を見つめながら、この指輪、なんだか既視感がある光景だなと思いつつ私はエイデン侯爵に訊ねました。

「君にはルイ王子を誘惑して欲しいんだ、少なくともリリー令嬢にプレゼントしたネックレスの毒素が効果を発揮するまで」

 ルイ王子は私にはめた銀の指輪をそっと、私の指から外しながら説明します。

「ちょっと待って、エイデン侯爵。あんな絶世の美女の婚約者がいるルイ王子に色仕掛けを私にさせるつもり?」

 (どう考えても、噛ませ犬にもなり得ないと思うんだけど)

 私はテーブルの上の新聞の中で妖艶に微笑むリリー伯爵令嬢を眺めながら言います。

「色気仕掛けをしろとは言わないよ、ルイはそんなのに引っかかるやつじゃないし。ただ、ルイに積極的に話しかけて欲しいんだ」

 エイデン侯爵は新聞を眺める私の顔を自身の方に向き直らせて言いました。

「わ、わかったわよ。それにしてもリリー伯爵令嬢を毒殺でもするつもりなの?いくら、貴方が王族の血を引くとしても、そんなこと未来の王妃にしたら貴方の首が吹っ飛ぶわよ」 

「へぇ、勝手に君のファーストキスを奪った私を心配してくれるなんて、なかなか可愛いところがあるじゃないか」

 ルイ王子は少し口元を歪ませて笑いました。

 (ファーストキスね…)

 彼のその言葉は、桜の花びら舞う中で、私に銀の指輪を渡したあと、おずおずと私の唇に掠めるほどのキスをした人影が浮かび上がったのでした。

 

 
 
 
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