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2.第一幕

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「だから、このまま僕と逃げてくれないか?」

 塁はわたしの手を握って、訴えかけてきました。

「でも、どうやって?」

 私はそもそもどうやって、王子から、そしてこの世界から逃げたらいいんだろうと考えて呟きました。

 というのも、前は塁が魔法使いという役柄だったから私を現実世界に戻すことができて、

指輪の刻印のために、彼自身も現実世界に戻ることができたのです。

「もしかして、魔法使いを買収して魔法でもかけてもらうつもり……?」

 ふと、思いつきで言った私の言葉に塁は頷きました。

「もうその方法に掛けるしかない」

 彼はそういうと、懐からたんまりと金貨が入った布袋を取り出しました。

「手持ちの宝飾品を売り捌いて、なんとかこれだけ工面したんだ」

 そして、塁は私に侍女と服装を交換することを提案しました。

 わたしは侍女には街に少し遊びに行ってくると伝えて、

服装を取り替えてもらい、代わりに彼女には私の自室にいるように伝えました。

 そして、私のには、侍女の格好をした私から母の部屋の扉越しに、

 お嬢様が再度発熱したことを伝え、再度眠られたということを伝えるのを忘れずに。

 しかしながら、私がフードを被って塁とともに屋敷を出ようとした時、

「おい、王子様がこられたぞ」

 使用人の中の誰かが叫ぶ声が聞こえて、屋敷中が王子を迎える準備で、突然騒がしくなりました。

 その騒動に近衛騎士はしばし考える素振りをした後、

「このままじゃまずい、君は自室に戻るんだ」

 そう言って塁は近衛騎士として王子を迎えるために、正面玄関に、私は慌てて自室へと引き返しました。

 ただし、自室のドアを開けてもそこには侍女の姿はなく、

代わりに彼女に着せていた私のドレスがベットの上に転がっていました。

 不審に思った侍女の行方を確かめるため、部屋に入った途端、突然後ろから口を塞がれて、

「大人しくしててね、リリー」

 そう私の口を塞いだ相手は、私の耳元でそっと囁きました。

 びくりとした私に、相手は

「怖がることなんてないさ。大切な未来の僕の花嫁を傷つけなんてしないからね」

 そう言いながら、彼はなんとか彼の腕から逃れようともがく私をベットの方へと引きずっていきます。

「それにしても、この世界の魔法はなんて便利なんだろうね?誰にでも化けられる」

 そう言いながら、男性はわたしをベットに座らせると素早く私の指から指輪を抜き取り、両手首をスカーフで縛ると私と向き直ったのでした。

 ここにきて、初めて私は相手の顔を確認して、相手が王子だということに気づいたのですが、

果たして彼は本当にこの世界の王子なのでしょうか……?
 

 
  
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