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2.第一幕

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私は身体が気だるいのも気にせずに慌てて身を起こそうとしました。

 しかしながら、魔法使いはそんな私をみて慌ててこちらに駆け寄ってきて

 「そんな急に起き上がられると、身体に悪いですよ」と

 私をそっと制止します。せっかく塁に会えたのに、なんだか塁の他人行儀な言い方に

 「ちょっと、塁、せっかく会えたのにそんな言い方ないでしょう?」

 と思わず言いました。そんな私のセリフを聞いた魔法使いは、きょとんとした顔をして

 「リリー様、私の名前はカイですよ。もしかして、また高熱がでてきたのでしょうか」

 そう言って、大真面目な顔をして、私の体温を確かめようと私の額に触れます。

 ひんやりと冷たい手が額に当てられるのを感じながら、私はここで考えました。

 私が、ゲームの世界から現実の世界に戻った時、私と塁の関係性は変わっていました。

 となると、再度ゲームの世界に入った場合も、もしかしたら、塁の役柄は変わっているのかもしれないと。

 そう思っていると、扉をノックする音が聞こえました。

 私がどうぞ、と扉の向こうにいる相手に声をかけると、

 失礼します、と言い入ってきたのは、私がこのゲームで一番好きなキャラクターの近衛騎士でした。

 近衛騎士は、入ってくるなり魔法使いに私の容態を尋ね、

 容態が安定していることを確認すると、魔法使いに少し席を外すように伝えました。

 魔法使いが私に一礼して、部屋を出て行くのを見届けてから、私は騎士に向き直りました。

 このシーンは、何度もゲームをしたからもう既視感満載です。

 この後、騎士は私に明日の舞踏会に出席するように伝えるのです。

 そして、私はそこで王子からプロポーズされるのです。

 ただし、今回はなんだか騎士の様子が違いました。

 私のことをじっと見つめると、

 「ゆり、戻ってくるなと言ったのに」

 そう言いながら、突然私を抱きしめたのです。

 「でも、こうして会えて嬉しい」

 そう言いながら、驚きで固まった私に優しく口付けを落としました。

 「る、塁?」

 私が呟くと、騎士はうんうんと頷いてさらに私を強く抱きしめます。

 「その指輪をみて、君が帰ってきたんだと気付いたよ」

 そう言いながら、私から離れると私の指をとって優しく指輪を撫でます。

 「本物のリリーは、この指輪を持ってないからね」

 そう言うと、

 「今度は、僕に刻印なんかしないでよ」

 と口を尖らせて言いました。

 私はごめんなさいと謝ると、塁にずっと聞きたかったことを聞きました。

 「私が向こうの世界に戻った後、貴方はどうなったの?」
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