上 下
1 / 34
1、序章

1-1

しおりを挟む
「おまえの言動にはほとほとあきれた。本日を持ってリリー・バロン伯爵令嬢との婚約を破棄する」

王子がそう言うと、それまで賑やかだったパーティー会場がしんと静まり返りました。頭上のシャンデリアだけが変わらず私たちをキラキラと照らします。

予想通りの展開に思わず笑いそうになった私は、
赤いビロードの絨毯の上で俯き、自分が着ている紺色のドレスの裾を見つめながら唇を噛み締めました。



「一体どういうことなんだ」

「婚約破棄だって」

「でも、もともとは王子から申し込んだんだろ?」



人々の囁き声が、さざ波のように広がっていきます。私はここへきて、顔を上げると王子に向き直りました。

「俺にはわかってるんだよ。おまえがこれまでどれだけローズをいじめてきたか、がな」

王子はそういうと、彼の後ろに隠れるようにしてこの流れを見ていたストロベリーブロンドの女性の方をちらりと見ました。

ローズと呼ばれた美しい女性は綺麗な青い瞳に涙をたくさん溜めて、

「そ、そんなにリリー様を責めないでください。私も至らない点がありましたから」と言いました。

私は自分に集まる鋭い視線に耐え切れない、といった風を装って俯きながら、この会場からいかにして逃げるかを考えていました。

そんな時、人ごみの中から颯爽とこちらに向かってくる足音がありました。

そして足音の主は私のところまで来ると、ひょいと私を抱き上げて

「そういうことでしたら、わたしくがこちらの麗しきレディを頂戴してもよろしいですよね?」

と言いました。

そして、私をお姫様だっこをしたは唖然としている王子とローズの二人を残して来た時と同じく会場内を颯爽と歩いて出ていったのでした。

◇◇◇

私はなぜかある日、目が覚めたらこの世界にいました。

私が元にいた世界では、私は残業続きで恋人ともお互い忙しくてなかなか会えませんでした。そんな私がハマったのが乙女ゲームでした。

そのゲームには、王子様ルート、騎士ルート、魔法使いルート、ハーレムエンドがありました。

ちなみに私の好きなルートは王子様ルートでした。

けれども、私の推しは王子様ではありませんでした。彼に仕える側近がたまらなく私の恋人に似てて好みだったのです。

そんな私だったので、なぜかはわかりませんが、ゲームの世界に転生した時は、

びっくりしたものの、推しの側近に会えると、ものすごく喜んだことを覚えてます。

しかしながら、喜んだのも束の間、転生後の私のポジションはゲームプレイヤーである隣国の男爵令嬢をいじめる、王子様の国の伯爵令嬢でした。

ゲームプレイヤーは、この伯爵令嬢のいじめから救ってくれた王子様と結ばれて幸せになるのですが、

いじめてた側の伯爵令嬢はその後、王子様に婚約破棄をされて、幽閉され、挙げ句の果てには魔法使いによってこの世から消されてしまうのです。

私はせめて推しとの恋は諦めて、自分の生き残りをかけて、あわよくば元の世界に戻れることを祈って、

物語がゲームのストーリー通りに進まないように奮闘はしたのですが、

なぜか私が物語を妨害しようとしても事は上手く行きませんでした。

その結果はみなさんもご存知のとおり、上記の婚約破棄が物語っているでしょう?

ただし、なぜかここにきてゲームのストーリーとは違って幽閉される前に私は何者かによってパーティ会場から連れ出されてしまいます。

果たして、私のこれからの運命はいかに…

◇◇◇



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで…… ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。 ※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。 完結感謝。後日続編投稿予定です。 ※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 表紙は、綾切なお先生にいただきました!

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...