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第1話 届いた手紙
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それは7月のある夏の出来事だった――。
僕はガゼボの中で読書をしながら許嫁のシェリルを待っていた。
今日は月に2度の親同士に決められた『デート』と言う名目の顔合わせの日だったからだ。
「はぁ……それにしても気が重いな…。最近は特に会話が弾むわけでも無いのに…」
ため息をつきながら頁をめくる。
子供の頃は顔を合わせれば、それなりに会話が成立したものの、お互い19歳になってからは共通の話題も無くなっていた。
第一、通っている大学だって違うのだ。
僕は王立学院大学の2年生、そしてシェリルは王立女子学園大学の2年制で敷地は同じでも校舎が違うにで顔を合わせることも殆んど無いのだから。
「……」
向かい側の空いている席をチラリと見た。
2人が会う約束の時間13時半。
そして僕の腕時計は13時40分を過ぎている。
「珍しいな……いつもなら話すことだって無いのに、約束時間の10分前には現れているんだけどな……」
いつもシェリルは約束の時間、10分前には現れた。
しかも子供の頃からかわいがっている小型の真っ白な愛犬、ベスを連れて。
そしてシェリルは僕をそっちのけでベスに話しかけ、可愛がり……約束の時間まで僕と?過ごし、帰っていく。
それが僕とシェリルのデートという名目の顔合わせだった。
「本当に…一体、今日のシェリルはどうしたのだろう?」
読みかけの本を閉じて青空を眺めていると、専属フットマンのトニーがこちらへ駆け寄ってくる姿が目に入った。
「ローレンス様ーっ!」
トニーはハアハア息をきらせながら駆け寄ってきた。右手には白い封筒が握りしめられている。
「どうしたんだ?トニー。そんなに急いで…何かあったのか?」
声を掛けるとトニーは手紙を差し出してきた。
「は、はい……。じ、実はたった今…シェリル様の使いと言う女性がやってきて…この手紙を…ローレンス様に手渡して貰いたいと…ハァハァ…持ってきたのです……」
息も絶え絶え?のトニーから手紙を受け取った。
「シェリルから手紙……?」
シェリルと許嫁の関係になって15年。
その間、一度たりとも僕は彼女から手紙を受け取ったことなど無かった。
「一体、何だって言うんだろう……?」
何か手紙に細工でもしてあるのだろうか?
封筒を太陽にかざしてみたり、ひっくり返してみたりした。
「あの…ローレンス様…」
すると、トニーが遠慮がちに声を掛けてくる。
「何?」
「中を…あらためないのですか?」
「あ、ああ……そうだね。見てみようかな?」
何故だろう?
シェリルから一度も貰ったことない手紙を開封するのがためらわれた。
何だか言い知れぬ嫌な予感がする。
けれどトニーは好奇心に満ちた目で僕を見ているし、手紙を読めばシェリルが現れない理由も明らかになるだろう。
仕方ない……。
手紙には丁寧に封蝋がしてある。
「トニー」
傍らに立つトニーに声を掛けた。
「はい」
「ペーパーナイフ、持ってるかな?」
「はい、勿論でございます!」
何故か嬉しそうにトニーはジャケットの懐に手を入れると、ペーパーナイフを取り出した。
「どうぞ、お使い下さい!」
「ありがとう」
妙に迫力のあるトニーからペーパーナイフを預かり、早速封筒を開封した。
さて…我が許嫁殿は一体、手紙で何と言ってきているのだろう?
封筒の中には二つ折りの手紙が入れられている。
早速、広げて目を通し…真っ先に僕の目に最初の一文が飛び込んできた。
『拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした』
え……?
僕は目を見開いた。
そして次の瞬間、叫んでしまった。
「何だって~っ?!」
僕の叫び声が7月の青い空に響き渡った――。
僕はガゼボの中で読書をしながら許嫁のシェリルを待っていた。
今日は月に2度の親同士に決められた『デート』と言う名目の顔合わせの日だったからだ。
「はぁ……それにしても気が重いな…。最近は特に会話が弾むわけでも無いのに…」
ため息をつきながら頁をめくる。
子供の頃は顔を合わせれば、それなりに会話が成立したものの、お互い19歳になってからは共通の話題も無くなっていた。
第一、通っている大学だって違うのだ。
僕は王立学院大学の2年生、そしてシェリルは王立女子学園大学の2年制で敷地は同じでも校舎が違うにで顔を合わせることも殆んど無いのだから。
「……」
向かい側の空いている席をチラリと見た。
2人が会う約束の時間13時半。
そして僕の腕時計は13時40分を過ぎている。
「珍しいな……いつもなら話すことだって無いのに、約束時間の10分前には現れているんだけどな……」
いつもシェリルは約束の時間、10分前には現れた。
しかも子供の頃からかわいがっている小型の真っ白な愛犬、ベスを連れて。
そしてシェリルは僕をそっちのけでベスに話しかけ、可愛がり……約束の時間まで僕と?過ごし、帰っていく。
それが僕とシェリルのデートという名目の顔合わせだった。
「本当に…一体、今日のシェリルはどうしたのだろう?」
読みかけの本を閉じて青空を眺めていると、専属フットマンのトニーがこちらへ駆け寄ってくる姿が目に入った。
「ローレンス様ーっ!」
トニーはハアハア息をきらせながら駆け寄ってきた。右手には白い封筒が握りしめられている。
「どうしたんだ?トニー。そんなに急いで…何かあったのか?」
声を掛けるとトニーは手紙を差し出してきた。
「は、はい……。じ、実はたった今…シェリル様の使いと言う女性がやってきて…この手紙を…ローレンス様に手渡して貰いたいと…ハァハァ…持ってきたのです……」
息も絶え絶え?のトニーから手紙を受け取った。
「シェリルから手紙……?」
シェリルと許嫁の関係になって15年。
その間、一度たりとも僕は彼女から手紙を受け取ったことなど無かった。
「一体、何だって言うんだろう……?」
何か手紙に細工でもしてあるのだろうか?
封筒を太陽にかざしてみたり、ひっくり返してみたりした。
「あの…ローレンス様…」
すると、トニーが遠慮がちに声を掛けてくる。
「何?」
「中を…あらためないのですか?」
「あ、ああ……そうだね。見てみようかな?」
何故だろう?
シェリルから一度も貰ったことない手紙を開封するのがためらわれた。
何だか言い知れぬ嫌な予感がする。
けれどトニーは好奇心に満ちた目で僕を見ているし、手紙を読めばシェリルが現れない理由も明らかになるだろう。
仕方ない……。
手紙には丁寧に封蝋がしてある。
「トニー」
傍らに立つトニーに声を掛けた。
「はい」
「ペーパーナイフ、持ってるかな?」
「はい、勿論でございます!」
何故か嬉しそうにトニーはジャケットの懐に手を入れると、ペーパーナイフを取り出した。
「どうぞ、お使い下さい!」
「ありがとう」
妙に迫力のあるトニーからペーパーナイフを預かり、早速封筒を開封した。
さて…我が許嫁殿は一体、手紙で何と言ってきているのだろう?
封筒の中には二つ折りの手紙が入れられている。
早速、広げて目を通し…真っ先に僕の目に最初の一文が飛び込んできた。
『拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした』
え……?
僕は目を見開いた。
そして次の瞬間、叫んでしまった。
「何だって~っ?!」
僕の叫び声が7月の青い空に響き渡った――。
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