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12 あそこの席

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 クレアを連れて、一階にある学食にやってきた。

既に学食内は大勢の生徒達で溢れかえっている。

「まぁ、とても広いのですね。それに賑やかですし」

「そうです。実はここの学食が一番広くて、メニューも豊富にあるんですよ」

「それで、こんなに混んでいるのですね」

感心したようにクレアが頷く。けど、混んでいるのには他に理由がある。なぜならこの学食が一番安くて美味しいからだ。

「クレア様、この学食に来たこと、後悔させませんよ? きっと満足できるはずです」

「まぁ、クリフ様は面白い言い方をされるのですね」

クレアは僕の物言いが気に入ったのか、笑みを浮かべる。

「え? あ! す、すみません! 妙な言い方をしてしまって」

しまった、ついジュリオに語るような口ぶりで話してしまった。

「何故謝るのです? むしろその話し方、好ましく思いますよ。ですが……この混雑ぶりで席が空いているでしょうか?」

クレアが心配そうに辺りを見渡す。確かにこれだけ混雑していれば空いてる席を見つけるのは大変かもしれないけれど……僕は何気なくクレアを見つめた。

「クリフ様? どうされましたか?」

首を傾げるクレアを見た次の瞬間、僕の特異能力が発動した。

「クレア様、あの窓際の近くに置かれている観葉植物の近くにある席に行きましょう」

「え? でも、あそこの席には女子生徒が座っていますけど?」

「大丈夫ですって。僕にお任せ下さい」

クレアの前に立って、僕は席に向かって歩き始めた。そして到着する直前、座っていた女子生徒たちが食べ終えたトレーを持って席を立った。

「すみません、この席空きますか?」

「ええ、どうぞ」
「私達、もう食事が済んだので」

僕が尋ねると頷く二人の女子生徒たち。

「どうもありがとうございます」

礼を述べると、クレアを振り返った。

「さ、席が空きましたよ。どうぞ座って下さい、クレア様」

「は、はい……ありがとうございます……」

クレアは戸惑いながら座ったので、早速テーブルに置かれたメニュー表を差し出した。

「さ、どれがいいですか? 僕が買ってくるので選んで下さい」

「え……? いいのですか?」

「もちろんです。どれも美味しですけど、女性には本日のおすすめセットがいいかもしれません」

「本日のおすすめセットですか……」

じっとメニュー表を見つめるクレアはやがて視線を僕に移した。

「それではクリフ様の言う通り、本日のおすすめセットにします」

「はい、分かりました。ではすぐに行ってきますね」

そして僕は注文カウンターへ向かった。

何故、クレアと一緒に食事をしなければならないのだろう?

と、小さな疑問を抱きながら――
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