82 / 90
16 リリスとアデル
しおりを挟む
屋敷に到着すると、ラインハルト家のメイドたちが出迎えてくれた。
屋敷内の何処にも男性の姿が見当たらない。恐らく、先に屋敷に戻ったアドニス様の計らいなのだろう。
初めて訪れた屋敷のためか、リリスは始終落ち着かない様子で私の手をしっかり繋いで離れようとはしなかった。
アデルの様子が心配で様子を見に行きたかった。けれどもリリスが離れようとしないので、仕方なく彼女を連れてアデルの部屋へと向かった。
「ここがフローネのお部屋なの?」
アデルの部屋の前に到着するとリリスが尋ねてきた。
「いいえ、ここはアデルのお部屋なのよ」
「アデル? フローネのお友達なの?」
「ちがうわ。でも妹のような存在よ」
扉をノックすると少しの間の後に扉が開かれ、サラが姿を現した。彼女は私を見ると目を見開く。
「まぁ! フローネさん! とても心配しました! 無事に帰ってきてくれて本当に良かったです!」
「お姉ちゃんが帰ってきたの!?」
すると、ネグリジェを着たアデルがこちらへ駆け寄ってきて足を止めた。
「え……? 誰? このお姉ちゃん……」
アデルは手を繋いでいるリリスを見て首を傾げる。
「彼女はリリスっていうの。私のお友達なのよ」
「私はリリス。あなたの名前は?」
リリスはアデルに尋ねた。
「アデル……。ねぇ、お姉ちゃん……」
アデルが私の空いている左手を握りしめてくると、リリスがアデルに文句を言ってきた。
「ちょっと、私のフローネに勝手に触らないで」
「リ、リリス。何を言うの?」
まさかアデルにそんなことを言うなんて。けれど、アデルも負けていない。
「違うよ、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ。そうだよね?」
「ア、アデル……」
2人に挟まれて困っていると、サラが笑った。
「フローネさん。お2人に人気がありますね」
「そうだよ」
「そうよ」
アデルとリリスの声が重なる。そこで私は2人に言い聞かせることにした。
「アデル、リリス。私は2人が大好きよ。だから、2人にも仲良くしてもらいたいの。分かる? 2人が仲良くなってくれると私も嬉しいわ」
「うん……」
「フローネがそう言うなら……」
アデルとリリスが頷く。
「良かった。それじゃ仲良くしてね? アデル、もう夜も遅いから寝ましょう?」
「うん。それじゃいつものように絵本読んで」
「私も聞きたい!」
アデルがおねだりしてくると、リリスも話に加わってきた。
「リリス……」
リリスはじっと私を見つめてくる。……本当に、リリスの心は子供に戻ってしまったのだ。
その事実に胸がチクリと痛むも、私は笑顔で返事をした。
「ええ、勿論よ」
****
――22時
「おふたりとも、お休みになられましたね」
サラがベッドの上で並んで眠るリリスとアデルを見つめて笑みを浮かべる。
「ええ、そうね……。ごめんなさい、サラ。驚いたでしょう?」
リリスの髪にそっと触れながら、サラを見た。
「……はい、確かに驚きましたが……フローネさんの幼馴染の方なのですよね?」
「そうなの。男の人が原因で、心が壊れてしまったの」
「だからだったのですね。アドニス様が屋敷に戻られたとき、命じられたのです。これからフローネさんが客人を連れてくるので男性使用人は姿を隠しておくようにって」
「やっぱりアドニス様の計らいだったのね」
アドニス様に今直ぐお礼を言いたい。
「サラ、アドニス様は今どちらにいらっしゃるか分かる?」
「はい、多分この時間なら書斎にいらっしゃると思います」
「なら、今からちょっと行ってくるわ」
「私がその間、お2人を見ていましょうか?」
アデルはいつも以上に夜ふかししてしまったし、リリスもあんなことがあったのだ。途中で目を覚ますことは無いだろう。
「大丈夫よ。サラも、もう休んでちょうだい」
「はい、ではもう少しお2人の様子を見てから下がらせていただきます」
こうして、私はサラに見送られてアドニス様の元へ向かった。
そして……アドニス様から意外な話を聞かされることになる――
屋敷内の何処にも男性の姿が見当たらない。恐らく、先に屋敷に戻ったアドニス様の計らいなのだろう。
初めて訪れた屋敷のためか、リリスは始終落ち着かない様子で私の手をしっかり繋いで離れようとはしなかった。
アデルの様子が心配で様子を見に行きたかった。けれどもリリスが離れようとしないので、仕方なく彼女を連れてアデルの部屋へと向かった。
「ここがフローネのお部屋なの?」
アデルの部屋の前に到着するとリリスが尋ねてきた。
「いいえ、ここはアデルのお部屋なのよ」
「アデル? フローネのお友達なの?」
「ちがうわ。でも妹のような存在よ」
扉をノックすると少しの間の後に扉が開かれ、サラが姿を現した。彼女は私を見ると目を見開く。
「まぁ! フローネさん! とても心配しました! 無事に帰ってきてくれて本当に良かったです!」
「お姉ちゃんが帰ってきたの!?」
すると、ネグリジェを着たアデルがこちらへ駆け寄ってきて足を止めた。
「え……? 誰? このお姉ちゃん……」
アデルは手を繋いでいるリリスを見て首を傾げる。
「彼女はリリスっていうの。私のお友達なのよ」
「私はリリス。あなたの名前は?」
リリスはアデルに尋ねた。
「アデル……。ねぇ、お姉ちゃん……」
アデルが私の空いている左手を握りしめてくると、リリスがアデルに文句を言ってきた。
「ちょっと、私のフローネに勝手に触らないで」
「リ、リリス。何を言うの?」
まさかアデルにそんなことを言うなんて。けれど、アデルも負けていない。
「違うよ、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ。そうだよね?」
「ア、アデル……」
2人に挟まれて困っていると、サラが笑った。
「フローネさん。お2人に人気がありますね」
「そうだよ」
「そうよ」
アデルとリリスの声が重なる。そこで私は2人に言い聞かせることにした。
「アデル、リリス。私は2人が大好きよ。だから、2人にも仲良くしてもらいたいの。分かる? 2人が仲良くなってくれると私も嬉しいわ」
「うん……」
「フローネがそう言うなら……」
アデルとリリスが頷く。
「良かった。それじゃ仲良くしてね? アデル、もう夜も遅いから寝ましょう?」
「うん。それじゃいつものように絵本読んで」
「私も聞きたい!」
アデルがおねだりしてくると、リリスも話に加わってきた。
「リリス……」
リリスはじっと私を見つめてくる。……本当に、リリスの心は子供に戻ってしまったのだ。
その事実に胸がチクリと痛むも、私は笑顔で返事をした。
「ええ、勿論よ」
****
――22時
「おふたりとも、お休みになられましたね」
サラがベッドの上で並んで眠るリリスとアデルを見つめて笑みを浮かべる。
「ええ、そうね……。ごめんなさい、サラ。驚いたでしょう?」
リリスの髪にそっと触れながら、サラを見た。
「……はい、確かに驚きましたが……フローネさんの幼馴染の方なのですよね?」
「そうなの。男の人が原因で、心が壊れてしまったの」
「だからだったのですね。アドニス様が屋敷に戻られたとき、命じられたのです。これからフローネさんが客人を連れてくるので男性使用人は姿を隠しておくようにって」
「やっぱりアドニス様の計らいだったのね」
アドニス様に今直ぐお礼を言いたい。
「サラ、アドニス様は今どちらにいらっしゃるか分かる?」
「はい、多分この時間なら書斎にいらっしゃると思います」
「なら、今からちょっと行ってくるわ」
「私がその間、お2人を見ていましょうか?」
アデルはいつも以上に夜ふかししてしまったし、リリスもあんなことがあったのだ。途中で目を覚ますことは無いだろう。
「大丈夫よ。サラも、もう休んでちょうだい」
「はい、ではもう少しお2人の様子を見てから下がらせていただきます」
こうして、私はサラに見送られてアドニス様の元へ向かった。
そして……アドニス様から意外な話を聞かされることになる――
1,390
お気に入りに追加
3,382
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ
川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」
フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。
ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。
その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。
彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。
しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。
貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。
そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。
一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。
光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。
静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる