お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
81 / 90

15 救出劇の終わり

しおりを挟む
「え……?」

クリフは自分が怒鳴られたことが余程不思議だったのだろう。唖然とした顔を見せる。

「いいか? クリフ・バーデン。フローネは俺の大切な婚約者だ。それなのに、俺の前から彼女を誘拐して監禁した。その罪は重いぞ?」

「な、なんですって!? この女がラインハルト様の婚約者だっていうのですか!?」

クリフは驚きの目を私に向ける。

アドニス様の「婚約者」という言葉に私自身も驚いたが、きっとこれはクリフを脅すための演技なのだろう。

だとしたら……その演技に乗らせてもらおう。

「聞いて下さい、アドニス様。それだけではありません。クリフは泣いて嫌がるリリスを助けようとした私を突き飛ばし、挙げ句に部屋に閉じ込める際に蹴ってきたのです」

「フローネッ!! お前……!」

クリフが憎悪の目を私に向ける。

「何だって!? クリフにそんな酷い目に遭わされたのか? 可哀想に……」

アドニス様が私を見つめ、手を握りしめてくる。

「はい。思い切り強く蹴られました。そのとき床に倒れ込んで背中を強く打ち付け、激しく咳き込んでしまいました」

「黙れ! フローネッ! それ以上余計なことを言うな!」

「黙るのは、お前だ!」

アドニス様はクリフを怒鳴りつけると、冷たい口調で続けた。

「お前は侯爵である俺の婚約者を誘拐し、暴力を振るって拉致監禁した。そしていくら自分の妻とはいえ、相手の合意を得ずに強引に関係を結んで精神を崩壊させてしまった。これほどまでの罪を犯したお前を裁判にかけてやるからな。それ相応の罪を償って貰うから、覚悟をしておけ」

「そ、そんな……」

この言葉に、クリフは初めて顔色を青ざめさせた――



****


――20時

私はリリスと一緒に馬車の中にいた。リリスは私にしがみついたまま、離れようとはしない。

「アドニス様、本当によろしいのですか?」

馬車の外で、馬にまたがっているアドニス様に声をかけた。

「勿論だよ。今夜はラインハルト家で彼女を預かろう」

アドニス様は笑顔で答える。

「ありがとうございます」

クリフのいる屋敷にリリスを置いていくわけにはいかなかった。そこで、アドニス様の提案で、今夜はリリスを預かることにしたのだ。

「それに……私達だけ、馬車を使ってしまって……」

私はしがみついたまま離れないリリスを見つめた。

「気にすることはないよ。俺は馬に乗って帰るから大丈夫だ。第一、男の俺が一緒の馬車では彼女が怖がってしまうだろう?」

「……はい。そうです……」

クリフによって強引に身体を奪われてしまったリリスは、完全に精神が壊れてしまい、男性を見ると怯えて叫ぶようになってしまったのだ。

「それじゃ、屋敷に帰ろう。アデルが待っているから、俺は先に馬で帰っているよ」

アドニス様はそれだけ告げると、馬を駆けさせて去って行った。

「私達も帰りましょう。馬車を出して下さい」

御者に声をかけ、馬車がゆっくり走り出すとリリスが尋ねてきた。

「ねぇフローネ、何処へ帰るの?」

精神が壊れてしまったリリスは、すっかり幼児化してしまった。

「私達の家に帰るのよ?」

そっとリリスの髪を撫でる、

「フローネも一緒に?」

「ええ、勿論一緒よ」

「本当? 嬉しいわ」

「私もリリスが一緒で嬉しいわ」

私は悲しい気持ちで、無邪気に笑うリリスの髪をそっと撫でるのだった――
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 377

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...