77 / 90
11 リリス 2
しおりを挟む
リリスの様子がおかしい。
肩で激しく息をし、身体は小刻みに震えている。
「リリス様、大丈夫ですか?」
「私のことを…‥心配してくれるのね……?」
リリスは顔をこちらに向けた。
「そ、それは勿論です」
「そう? 心配してくれているのなら……勝手に私の前からいなくならないでちょうだい。フローネさえ側にいてくれれば私は何もいらないのだから」
怖い。
リリスの目は狂気に満ちていた。本当にリリスは私のことを……?
言葉を無くす私を前に、リリスはまるで独り言のように話を続ける。
「フローネは男なんか好きになってはいけないわ。他に友人を作ることだって許さない。フローネには私だけいればいいのよ。だから周りから孤立させるようにしたのに……それなのに、私と言う者がありながらクリフを好きになるなんて……許せるはずないでしょう!?」
再びリリスは叫んだ。
「だから、クリフにバーデン家のメイドとしてフローネを雇ってもらうように頼んだのよ。あてつける為に好きでも何でもないクリフと結婚したのよ! 私がこんなことをしたのは……全てはフローネ、あなたのせいよ! あなたを傷つけて私に依存させるために、いやいやクリフに近付いた私の気持ちが分かるの!?」
「そんな……私のせいだなんて……!」
リリスに理不尽な怒りをぶつけられ、どうすれば良いのか分からない。それ以前に、リリスが好きな相手が私だったと言う事実は、あまりに衝撃的だった。
「そうよ。私の思いに気付かない、フローネがいけないのよ。だから、私は今もこんなに苦労しているのだから……」
リリスの美しい顔が苦しそうに歪む。苦労だなんて……何もかも恵まれた環境で暮らしているのに、どんな苦労があるというのだろう?
「私の何処が苦労しているのだと言いたげな顔をしているわね?」
「は、はい……」
恐る恐る頷くと、リリスはクスクスと笑ってソファに座った。
「結婚した限りは、義務が生じるでしょう?」
「義務……?」
「ええ、そうよ。夫婦生活という義務がね」
「あ……」
もしかして、リリスは……?
「新婚旅行先では、月の物が来ているからと言ってずっと断ってきたわ。新婚旅行から戻れば、クリフは寮生活に入るから離れ離れになれるし」
「ま、まさか……あの日、私を寝室に招いたのは……?」
「そうよ、クリフと夫婦の営みをしたくなかったからフローネを部屋に招き入れたに決まっているでしょう! フローネに私をクリフから守って貰いたかったのよ! もう……あんな恐ろしい目には二度とあいたくないのよ!」
リリスの顔が一瞬泣いているように見えた。その表情に、何故か私は何か肝心なことを忘れていたような気持ちになってくる。
「リリス……恐ろしい目って一体何のこと?」
自分でも気づかないうちに、言葉遣いが以前に戻っていた。
「覚えている? 10年前に私が行方不明になった事件があったこと」
「あ……」
そうだ、思い出した。
まだ私たちが子供だった頃、学校帰りにリリスが行方不明になった事件があった。
リリスは丸1日行方が分からなくなってしまったが、翌日馬小屋で発見された。
誘拐した人物はリリスを迎えに行った御者だった。
御者は自分の家にリリスを監禁し……翌日、彼女をクレイマー家が所有する馬小屋で発見したのだったが‥‥‥。
「ま、まさか……リリス……?」
「ええ、そうよ……私は、その男に汚されたのよ? まだ10歳だったのに…‥‥何度も、何度も……す、すごく怖くて……辛くて……」
そして、リリスは目に大粒の涙を浮かべた――
肩で激しく息をし、身体は小刻みに震えている。
「リリス様、大丈夫ですか?」
「私のことを…‥心配してくれるのね……?」
リリスは顔をこちらに向けた。
「そ、それは勿論です」
「そう? 心配してくれているのなら……勝手に私の前からいなくならないでちょうだい。フローネさえ側にいてくれれば私は何もいらないのだから」
怖い。
リリスの目は狂気に満ちていた。本当にリリスは私のことを……?
言葉を無くす私を前に、リリスはまるで独り言のように話を続ける。
「フローネは男なんか好きになってはいけないわ。他に友人を作ることだって許さない。フローネには私だけいればいいのよ。だから周りから孤立させるようにしたのに……それなのに、私と言う者がありながらクリフを好きになるなんて……許せるはずないでしょう!?」
再びリリスは叫んだ。
「だから、クリフにバーデン家のメイドとしてフローネを雇ってもらうように頼んだのよ。あてつける為に好きでも何でもないクリフと結婚したのよ! 私がこんなことをしたのは……全てはフローネ、あなたのせいよ! あなたを傷つけて私に依存させるために、いやいやクリフに近付いた私の気持ちが分かるの!?」
「そんな……私のせいだなんて……!」
リリスに理不尽な怒りをぶつけられ、どうすれば良いのか分からない。それ以前に、リリスが好きな相手が私だったと言う事実は、あまりに衝撃的だった。
「そうよ。私の思いに気付かない、フローネがいけないのよ。だから、私は今もこんなに苦労しているのだから……」
リリスの美しい顔が苦しそうに歪む。苦労だなんて……何もかも恵まれた環境で暮らしているのに、どんな苦労があるというのだろう?
「私の何処が苦労しているのだと言いたげな顔をしているわね?」
「は、はい……」
恐る恐る頷くと、リリスはクスクスと笑ってソファに座った。
「結婚した限りは、義務が生じるでしょう?」
「義務……?」
「ええ、そうよ。夫婦生活という義務がね」
「あ……」
もしかして、リリスは……?
「新婚旅行先では、月の物が来ているからと言ってずっと断ってきたわ。新婚旅行から戻れば、クリフは寮生活に入るから離れ離れになれるし」
「ま、まさか……あの日、私を寝室に招いたのは……?」
「そうよ、クリフと夫婦の営みをしたくなかったからフローネを部屋に招き入れたに決まっているでしょう! フローネに私をクリフから守って貰いたかったのよ! もう……あんな恐ろしい目には二度とあいたくないのよ!」
リリスの顔が一瞬泣いているように見えた。その表情に、何故か私は何か肝心なことを忘れていたような気持ちになってくる。
「リリス……恐ろしい目って一体何のこと?」
自分でも気づかないうちに、言葉遣いが以前に戻っていた。
「覚えている? 10年前に私が行方不明になった事件があったこと」
「あ……」
そうだ、思い出した。
まだ私たちが子供だった頃、学校帰りにリリスが行方不明になった事件があった。
リリスは丸1日行方が分からなくなってしまったが、翌日馬小屋で発見された。
誘拐した人物はリリスを迎えに行った御者だった。
御者は自分の家にリリスを監禁し……翌日、彼女をクレイマー家が所有する馬小屋で発見したのだったが‥‥‥。
「ま、まさか……リリス……?」
「ええ、そうよ……私は、その男に汚されたのよ? まだ10歳だったのに…‥‥何度も、何度も……す、すごく怖くて……辛くて……」
そして、リリスは目に大粒の涙を浮かべた――
650
お気に入りに追加
3,382
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる