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4 知らせと誘い
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シュタイナー家にニコル宛ての手紙を送って、1週間が経過していた。
アデルをお昼寝させてすぐのこと、部屋にサラが現れた。
「フローネさん、アドニス様がお呼びですよ」
「え? そうなの? それではサラ、アデルを見ていてくれるかしら? たった今お昼寝したばかりなのよ」
「ええ、大丈夫です。アデル様は私が見ておりますので、書斎へお越しください」
「分かったわ、それではアデルをお願いね」
最近のアデルはサラにも慣れて人見知りしなくなっていたので、彼女に任せてアドニス様の元へ向かった。
**
アドニス様がいる書斎に到着すると、早速私は扉をノックした。
――コンコン
「アドニス様、フローネです。お呼びでしょうか?」
『フローネかい? 入って来てくれるかな?』
「はい、失礼します」
扉を開けると、書斎机に向かってこちらを見ているアドニス様が笑顔で出迎えてくれた。
「ごめん、呼び出したりして。ところで、アデルは……?」
「実は、お昼寝したばかりだったのでサラにお願いしてきました」
「そうだったのか……だったら、俺から部屋に行った方が良かったかな?」
申し訳なさそうな表情を浮かべるアドニス様。
「いいえ、それには及びません。アドニス様はお忙しい方ですし、最近のアデルはサラにも人見知りしなくなりましたので」
「そうか。それなら安心だな」
「はい、そうですね」
アデルの成長が嬉しい反面、寂しくもあった。こうして徐々にアデルは私の手を離れていき……いつかはシッターの私は存在する必要性は無くなるだろう。
そのときが来たら、私はここを去らなければならないのだから。
「フローネ? どうかしたのかい?」
私の表情の一瞬の陰りに気付いたのか、アドニス様が尋ねてきた。
「いいえ、何でもありません。ところで、どのようなご用件だったのでしょうか?」
「うん、実は祖父母から電報が届いたんだよ。7月6日に、『ソルト』へ来るって。それだけじゃない。フローネの弟も連れてくるそうだ」
「え!? ニコルも一緒にですか!?」
あまりにも意外過ぎて、驚いてしまった。
「そうだよ。やっぱり、フローネの弟を1人でここに向かわせるのは心配だったから、実は俺から手紙で頼んでおいたんだ」
「そうだったのですか? 少しも知りませんでした……お気遣い、ありがとうございます」
アドニス様に心から感謝の言葉を述べた。まさか、そこまで気に掛けてくれるとは思ってもいなかった。
「何しろここ『ソルト』はリゾート地でもあるからね。別荘も沢山あるから、多くの旅行客も集まって来る。仮に出迎えに行って、もし会えなければ大変なことになるだろう? だから祖父母にお願いしたんだよ」
「言われて見れば、確かにそうですね。ニコルは、旅行などしたこともありませんから。汽車にも乗り慣れておりませんし。実は正直に申し上げますと、1人で来させるのは少々不安だったのです。本当にありがとうございます」
本来なら、姉である私が『マリ』まで迎えに行けば良かったのかもしれない。けれど、あの場所には私の行方を捜しているリリスとクリフがいる。もし、万一2人に見つかってしまえば……。
けれど、そのことはアドニス様には告げられない。
私のことで、余計な心配をかけさせるわけにはいかない。
だって……私はただのシッターなのだから。
「でも、アデルがお昼寝したばかりで丁度良かった」
アドニス様が不意に話題を変えてきた。
「何が良かったのですか?」
「フローネ、今から2時間程一緒に出掛けないかい?」
「え?」
それは、アドニス様からの意外な誘いだった――
アデルをお昼寝させてすぐのこと、部屋にサラが現れた。
「フローネさん、アドニス様がお呼びですよ」
「え? そうなの? それではサラ、アデルを見ていてくれるかしら? たった今お昼寝したばかりなのよ」
「ええ、大丈夫です。アデル様は私が見ておりますので、書斎へお越しください」
「分かったわ、それではアデルをお願いね」
最近のアデルはサラにも慣れて人見知りしなくなっていたので、彼女に任せてアドニス様の元へ向かった。
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アドニス様がいる書斎に到着すると、早速私は扉をノックした。
――コンコン
「アドニス様、フローネです。お呼びでしょうか?」
『フローネかい? 入って来てくれるかな?』
「はい、失礼します」
扉を開けると、書斎机に向かってこちらを見ているアドニス様が笑顔で出迎えてくれた。
「ごめん、呼び出したりして。ところで、アデルは……?」
「実は、お昼寝したばかりだったのでサラにお願いしてきました」
「そうだったのか……だったら、俺から部屋に行った方が良かったかな?」
申し訳なさそうな表情を浮かべるアドニス様。
「いいえ、それには及びません。アドニス様はお忙しい方ですし、最近のアデルはサラにも人見知りしなくなりましたので」
「そうか。それなら安心だな」
「はい、そうですね」
アデルの成長が嬉しい反面、寂しくもあった。こうして徐々にアデルは私の手を離れていき……いつかはシッターの私は存在する必要性は無くなるだろう。
そのときが来たら、私はここを去らなければならないのだから。
「フローネ? どうかしたのかい?」
私の表情の一瞬の陰りに気付いたのか、アドニス様が尋ねてきた。
「いいえ、何でもありません。ところで、どのようなご用件だったのでしょうか?」
「うん、実は祖父母から電報が届いたんだよ。7月6日に、『ソルト』へ来るって。それだけじゃない。フローネの弟も連れてくるそうだ」
「え!? ニコルも一緒にですか!?」
あまりにも意外過ぎて、驚いてしまった。
「そうだよ。やっぱり、フローネの弟を1人でここに向かわせるのは心配だったから、実は俺から手紙で頼んでおいたんだ」
「そうだったのですか? 少しも知りませんでした……お気遣い、ありがとうございます」
アドニス様に心から感謝の言葉を述べた。まさか、そこまで気に掛けてくれるとは思ってもいなかった。
「何しろここ『ソルト』はリゾート地でもあるからね。別荘も沢山あるから、多くの旅行客も集まって来る。仮に出迎えに行って、もし会えなければ大変なことになるだろう? だから祖父母にお願いしたんだよ」
「言われて見れば、確かにそうですね。ニコルは、旅行などしたこともありませんから。汽車にも乗り慣れておりませんし。実は正直に申し上げますと、1人で来させるのは少々不安だったのです。本当にありがとうございます」
本来なら、姉である私が『マリ』まで迎えに行けば良かったのかもしれない。けれど、あの場所には私の行方を捜しているリリスとクリフがいる。もし、万一2人に見つかってしまえば……。
けれど、そのことはアドニス様には告げられない。
私のことで、余計な心配をかけさせるわけにはいかない。
だって……私はただのシッターなのだから。
「でも、アデルがお昼寝したばかりで丁度良かった」
アドニス様が不意に話題を変えてきた。
「何が良かったのですか?」
「フローネ、今から2時間程一緒に出掛けないかい?」
「え?」
それは、アドニス様からの意外な誘いだった――
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