お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
68 / 90

2 私の願い

しおりを挟む
 その日の夕食の席でのことだった。

ニコルからの手紙でクリフとリリスが私を捜していることが脳裏にこびりついて離れなかった。

重たい気持ちで食事をしていると、アドニス様が話しかけてきた。

「フローネ、どうかしたのかい? 何だか元気が無いようにみえるようだけど?」

「え? そ、そうでしょうか?」

「うん、アデルもそう思わないかい?」

アドニス様がアデルに尋ねる。

「う~ん……そうかも」

アデルがじっと私を見つめた。

「何かあったのか? 悩みがあるなら相談に乗ろう」

「アドニス様……」

どうしよう、手紙のことを相談するべきだろうか? けれど今、アドニス様は非常に忙しい立場にいる。
領主としての仕事も山積みだし、叔父の横領事件に関して訴訟も起こす準備をしているのだ。
使用人達の話によれば、睡眠時間を削って仕事をしているらしい。
それでも夕食の席には必ず私たちと同席してくれている。

なのに、私の個人的な相談に乗って貰うなんて……。

「い、いえ。大丈夫です。ただ本日久しぶりに懐かしい弟から手紙が届いたものですから」

「そうだったのか? それは良かった。でも知らなかったな……フローネには弟がいたのか。幾つなんだい?」

「13歳です。中等部に通っています」

「それじゃ、私よりもお兄ちゃんなんだね~」

「ええ、そうね。アデル」

その後は、2人にニコルの話をした。

きっと大丈夫。
ニコルにだって私の居場所を知らせていない。リリスたちが私を見つけ出せるはずは無いのだから。

私は無理に不安な気持ちを押し込めた――


****


――21時

「はい、今夜の本はここまでよ。又明日続きを読んであげるわね?」

ベッドに入っているアデルの髪をそっと撫でた。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「何?」

「もうすぐね、この町でとっても大きなお祭りが始まるんだって。おばあちゃんからのお手紙に書いてあったよ。何日も続くんだって~」

「まぁ、そうだったの?」

「お祭りが始まったら、連れて行ってくれる?」

アデルが小さな手を伸ばして、私の服の袖を掴んできた。

「ええ、そうね。連れて行ってあげるわ」

「お兄ちゃんも行けるかな?」

「どうかしらね~。アドニス様はお忙しい方だから……。でも、尋ねてみるのはいいかもしれないわね」

アドニス様は優しい方だ。アデルから直接声をかければ、ひょっとすると一緒に行くかもしれない。

「お姉ちゃんも弟に会いたい?」

「え?」

「私は会ってみたいな~」

「ええ、そうね。きっとアデルの良いお兄ちゃんになってくれるわ」

弟とも一緒にいつか暮らせれば……。
そんな願望をつい、抱いてしまった。でも、私はあくまでもアデルのシッター。
彼女が大きくなれば、必要なくなる存在なのだ。

感傷的な気持ちが込み上げてきそうになるのを、無理に振り切るとアデルに声をかけた。

「さ、もう寝ましょう? アデルが眠るまで側にいてあげるから」

「うん…‥お姉ちゃん」

もうすでにアデルは眠そうな声で返事をする。

「ふふ……おやすみなさい」

髪をそっと撫でてあげると、アデルは目を閉じ……すぐに寝息が聞こえてきた。

天使のような寝顔のアデルを見つめながら思った。
どうか今の平和な生活が、いつまでも続きますように――と。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 377

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...