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22 追い出される人々
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この日の夕食にはアドニス様が現れることは無く、私とアデル2人きりの食事となった。
――21時
アデルの寝かせつけが丁度終わった頃、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「アドニス様……!」
扉を開けると、アドニス様が笑顔で立っている。
「こんばんは、アデルはまだ起きているかな?」
「いいえ、たった今お休みになられたところです」
「そうか……お休みと伝えたかったんだけど、仕方ないか。ところで、フローネ。少し話があるのだけれど……今、いいかな?」
遠慮がちにアドニス様が尋ねてくる。
「ええ、もちろんです。どうぞ、お入り下さい」
「ありがとう」
2人で向かい合わせにソファに座ると、早速アドニス様が口を開いた。
「今日、叔父上とビアンカにラインハルト家を出て行ってもらったよ。多くの使用人達も一緒にね」
「え!? そうなのですか!?」
あまりにも突然の話に驚いた。
「……元々、叔父上には横領の疑惑がかかっていたんだ。だから秘密裏で弁護士を雇っていたんだよ。両親を亡くしたとき、俺はまだ成人年齢に達していなかったので叔父上が領主代理をしていたんだ。20歳になったとき叔父上に、代理領主の座を降りて貰おうとした。けれど残りの大学生活に集中するように言われたんだ」
「それで、卒業までずっと領主代理をされていたのですね?」
私の言葉に頷くアドニス様。
「叔父上は離婚して、ビアンカは父親側についたんだ。だから、必然的に彼女もここに暮らすようになって……散々叔父上から娘と結婚するようにと勧められたよ」
「そ、う……だったのですか?」
結婚という言葉に、何故か胸がズキリと痛んだ。
「ビアンカのことは好きでも嫌いでもなかった。アデルを大切にしてくれるなら……少しは考える余地があってもいいと思った。だから、アデルと一緒に戻ってくることにしたんだ。それなのに……」
ギュッと両手を握りしめるアドニス様。
「ビアンカは、本当に自分勝手で我儘な女性だった。アデルにも、フローネやサラにも平気で酷いことをするなんて……。だから領主として追い出したんだ。もう二度と俺たちの前に現れないように誓約書を書かせたよ。何より、この屋敷でアデルとフローネが心穏やかに暮らせることが一番の願いだからね」
「アドニス様…‥‥」
その心遣いに胸が熱くなる。
「フローネ、君には本当に感謝している。いつもアデルのことを第一優先に考えてくれてありがとう」
「そ、そんな当然のことですから、お礼なんて結構です。私にとって、アデルはとても大切な存在だからです」
その言葉に、一瞬ぽかんと口を開けるアドニス様の顔に……やがて笑みが浮かぶ。
「そうか。俺にとってもアデルは大切な妹だ。……とても好きだよ」
好き……。
言葉に頬が思わず熱くなる。
でも、その言葉は私に向けられたものではない。アデルのことを言っているのだ。
「はい、私もアデルのことが大好きです」
バーデン家を出た時に、もう二度と勘違いしないと心に決めたのだから。
動揺する心を悟られないように、私はテーブルの下で両手を強く握りしめた――
――21時
アデルの寝かせつけが丁度終わった頃、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「アドニス様……!」
扉を開けると、アドニス様が笑顔で立っている。
「こんばんは、アデルはまだ起きているかな?」
「いいえ、たった今お休みになられたところです」
「そうか……お休みと伝えたかったんだけど、仕方ないか。ところで、フローネ。少し話があるのだけれど……今、いいかな?」
遠慮がちにアドニス様が尋ねてくる。
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「ありがとう」
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「今日、叔父上とビアンカにラインハルト家を出て行ってもらったよ。多くの使用人達も一緒にね」
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「ビアンカのことは好きでも嫌いでもなかった。アデルを大切にしてくれるなら……少しは考える余地があってもいいと思った。だから、アデルと一緒に戻ってくることにしたんだ。それなのに……」
ギュッと両手を握りしめるアドニス様。
「ビアンカは、本当に自分勝手で我儘な女性だった。アデルにも、フローネやサラにも平気で酷いことをするなんて……。だから領主として追い出したんだ。もう二度と俺たちの前に現れないように誓約書を書かせたよ。何より、この屋敷でアデルとフローネが心穏やかに暮らせることが一番の願いだからね」
「アドニス様…‥‥」
その心遣いに胸が熱くなる。
「フローネ、君には本当に感謝している。いつもアデルのことを第一優先に考えてくれてありがとう」
「そ、そんな当然のことですから、お礼なんて結構です。私にとって、アデルはとても大切な存在だからです」
その言葉に、一瞬ぽかんと口を開けるアドニス様の顔に……やがて笑みが浮かぶ。
「そうか。俺にとってもアデルは大切な妹だ。……とても好きだよ」
好き……。
言葉に頬が思わず熱くなる。
でも、その言葉は私に向けられたものではない。アデルのことを言っているのだ。
「はい、私もアデルのことが大好きです」
バーデン家を出た時に、もう二度と勘違いしないと心に決めたのだから。
動揺する心を悟られないように、私はテーブルの下で両手を強く握りしめた――
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