56 / 90
12 私の決意
しおりを挟む
バーデン家でメイドとして仕えていた時、私はずっと弱気だった。
自分一人が我慢すれば良いことだからと、どんな仕打ちにも耐えてきた。けれど、今は違う。
私は……シッターとして、大切なアデルを守らなければならない。
「もう一度尋ねます。この部屋を私が使用してはいけないのであれば、客室を2人で使わせて下さい。私はシッターとして、大切なアデルと離れるわけにはいきません」
そしてアデルを抱きしめた。
「お姉ちゃん……」
アデルが驚いた目で私を見る。
「……っ。わ、分かりました……。それではお二人を客室にご案内させていただきます……。こちらへどうぞ」
マディーさんは唇を一度噛みしめると、私達の前に立って歩き出した。
「行きましょう、アデル」
アデルの小さな手をキュッと握りしめると、アデルは安心したような笑顔を見せる。
「……うん」
そして私とアデルは離れにある客室へと案内された――
****
「さっきの人……何だか怖かった」
客室に案内され、マディーさんがいなくなるとアデルは私に抱きついてきた。
「ええ、そうね。でも心配しないで、私がついているわ。それに心強いお兄様がいるのだから大丈夫よ」
アデルを抱き上げて、ソファに座ると柔らかな髪をそっと撫でた。
何と言っても、アデルにはアドニス様がいる。
きっとアデルの為なら、真っ先に行動して守ってくれるだろう。
そう、例え私がアデルのシッターを辞めなければならない事態になったとしても……。
「お姉ちゃん……あのお部屋、私あんまり好きじゃない」
「アデルは水色が好きなんだものね。お兄様に言えば大丈夫よ、きっと水色の部屋に変えてくれるわ」
その時――
『アデル! フローネ! ここにいるのか!?』
アドニス様の声が扉越しに聞こえてきた。
「はい! います!」
大きな声で返事をすると扉が開き、慌てた様子のアドニス様が部屋に入ってきた。
「アデル……フローネ……一体これはどういうことなんだ? 何故客室に2人が……」
「だって、怖い女の人がお姉ちゃんと同じ部屋にいちゃ駄目って言うんだもの」
私が説明するよりも早く、アデルが口を開いた。
「……何だって?」
アドニス様の表情がこわばる。
「一体、だれがそんなことを決めたんだ……」
「ご存じなかったのですか? オリバー様に命じられたそうですけど?」
もしかして、アドニス様は何も聞かされていないのだろうか?
「え? 叔父上が?」
「はい、そうです。私の部屋は急なことだったので、用意できていないと言われました。そこで今日はアデルの部屋にいさせてもらいたいとお願いしたのですが、あの棟は正当なラインハルト家の血筋の者しか使用出来ないと言われて客室に泊まるように勧められたのです。けれど、アデルは私と離れるのを嫌がりました。なので、二人で客室に泊まることにしました」
余計な波風を立てたくは無かった。
けれど、アデルの為に強くならなければ……私は変わらなければならないのだ。
そうしなければ、アデルのシッターとして今後彼女を守れなくなってしまう。
「何だって……そんな話が……」
アドニス様の顔色が変わる。
「俺は叔父上に事前に手紙で知らせておいた。アデルのシッターが一緒に行くので、隣室に部屋を用意しておくようにと。それに、あの棟がラインハルト家の血筋を引く者しか使用出来ないなんて、決まり事など無かった」
「……そうですか」
やはり、私の考えたとおりだった。
アドニス様は自分の叔父に不信を抱いていたのだ。だから、一刻も早く『ソルト』に戻る必要があったのだ。
アデルを連れて……。
「ごめん、アデル。部屋に戻ろう。勿論フローネ、君も一緒に」
すると、アデルが再び口を開いた。
「……お兄ちゃん、私ね……水色が好きなの」
「水色? ……ああ、そうか。そういえば、あの部屋はピンク色だったな。分かった、すぐにでも水色の部屋に変えてあげるよ」
「本当?」
「勿論、本当だよ。さ、それじゃ二人共……戻ろう?」
アドニス様が笑顔で私達に手を差し伸べた――
自分一人が我慢すれば良いことだからと、どんな仕打ちにも耐えてきた。けれど、今は違う。
私は……シッターとして、大切なアデルを守らなければならない。
「もう一度尋ねます。この部屋を私が使用してはいけないのであれば、客室を2人で使わせて下さい。私はシッターとして、大切なアデルと離れるわけにはいきません」
そしてアデルを抱きしめた。
「お姉ちゃん……」
アデルが驚いた目で私を見る。
「……っ。わ、分かりました……。それではお二人を客室にご案内させていただきます……。こちらへどうぞ」
マディーさんは唇を一度噛みしめると、私達の前に立って歩き出した。
「行きましょう、アデル」
アデルの小さな手をキュッと握りしめると、アデルは安心したような笑顔を見せる。
「……うん」
そして私とアデルは離れにある客室へと案内された――
****
「さっきの人……何だか怖かった」
客室に案内され、マディーさんがいなくなるとアデルは私に抱きついてきた。
「ええ、そうね。でも心配しないで、私がついているわ。それに心強いお兄様がいるのだから大丈夫よ」
アデルを抱き上げて、ソファに座ると柔らかな髪をそっと撫でた。
何と言っても、アデルにはアドニス様がいる。
きっとアデルの為なら、真っ先に行動して守ってくれるだろう。
そう、例え私がアデルのシッターを辞めなければならない事態になったとしても……。
「お姉ちゃん……あのお部屋、私あんまり好きじゃない」
「アデルは水色が好きなんだものね。お兄様に言えば大丈夫よ、きっと水色の部屋に変えてくれるわ」
その時――
『アデル! フローネ! ここにいるのか!?』
アドニス様の声が扉越しに聞こえてきた。
「はい! います!」
大きな声で返事をすると扉が開き、慌てた様子のアドニス様が部屋に入ってきた。
「アデル……フローネ……一体これはどういうことなんだ? 何故客室に2人が……」
「だって、怖い女の人がお姉ちゃんと同じ部屋にいちゃ駄目って言うんだもの」
私が説明するよりも早く、アデルが口を開いた。
「……何だって?」
アドニス様の表情がこわばる。
「一体、だれがそんなことを決めたんだ……」
「ご存じなかったのですか? オリバー様に命じられたそうですけど?」
もしかして、アドニス様は何も聞かされていないのだろうか?
「え? 叔父上が?」
「はい、そうです。私の部屋は急なことだったので、用意できていないと言われました。そこで今日はアデルの部屋にいさせてもらいたいとお願いしたのですが、あの棟は正当なラインハルト家の血筋の者しか使用出来ないと言われて客室に泊まるように勧められたのです。けれど、アデルは私と離れるのを嫌がりました。なので、二人で客室に泊まることにしました」
余計な波風を立てたくは無かった。
けれど、アデルの為に強くならなければ……私は変わらなければならないのだ。
そうしなければ、アデルのシッターとして今後彼女を守れなくなってしまう。
「何だって……そんな話が……」
アドニス様の顔色が変わる。
「俺は叔父上に事前に手紙で知らせておいた。アデルのシッターが一緒に行くので、隣室に部屋を用意しておくようにと。それに、あの棟がラインハルト家の血筋を引く者しか使用出来ないなんて、決まり事など無かった」
「……そうですか」
やはり、私の考えたとおりだった。
アドニス様は自分の叔父に不信を抱いていたのだ。だから、一刻も早く『ソルト』に戻る必要があったのだ。
アデルを連れて……。
「ごめん、アデル。部屋に戻ろう。勿論フローネ、君も一緒に」
すると、アデルが再び口を開いた。
「……お兄ちゃん、私ね……水色が好きなの」
「水色? ……ああ、そうか。そういえば、あの部屋はピンク色だったな。分かった、すぐにでも水色の部屋に変えてあげるよ」
「本当?」
「勿論、本当だよ。さ、それじゃ二人共……戻ろう?」
アドニス様が笑顔で私達に手を差し伸べた――
186
お気に入りに追加
3,382
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる