お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
55 / 90

11 使えない部屋

しおりを挟む
「こちらのお部屋がアデル様のお部屋になります」

メイドのマディーさんに連れられてやってきたアデルの部屋は壁紙やカーテン、ベッドカバーなどが全てピンク色で統一された可愛らしい子供部屋になっていた。

「ここが……私の部屋?」

アデルがマディーさんに尋ねる。

「はい、そうです。オリバー様が用意されたお部屋です。やはり小さな女の子はピンク色がいいだろうということで、この色に統一させていただきました」

「……そう、なんだ」

ポツリと呟くと、アデルは私を見上げる。
アデルが好きな色は水色だ。けれど、私の口からはそれを告げることなど出来るはずはなかった。

「アデル、後でアドニス様にお話しましょう?」

「うん、そうする」

私達の会話をどう捉えたのかは分からないが、マディーさんがアデルに声をかけた。

「お気に召して頂けたましたか? それで、シッターの方のお部屋ですが……突然の話でしたので、用意が出来ておりません。とりあえずは客室にご案内させていただきます」

「客室ですか……」

「はい、客室は別の棟になるので今から案内致します」

確かに突然の話では用意など出来るはずもないだろう。だけど……。
私は足元にいるアデルを見下ろした。
新しい場所に来たばかりで不安なのだろう、私のスカートの裾をアデルは無言で握りしめている。

「あの、アデルはまだここに来たばかりで不安そうです。今日のところは私もこのお部屋にいさせて頂けないでしょうか?」

「いえ、それは出来かねます。この棟にあるお部屋を使うことが出来るのは正式なラインハルト家の方々のみですから」

「え? でも……アデルはまだたったの5歳ですし、こんなに不安がっているのに駄目なのですか?」

「はい、それでもです。オリバー様にそう、命じられておりますから」

まさか断られるとは思わなかった。けれど、私は所詮ただのシッター。
高貴な人たちの住まう場所には、いてはいけないのだろう。

「……分かりました。アデル、部屋を案内してもらったらまた来るわね」

アデルの頭を撫でた時……。

「いや! お姉ちゃんと一緒にいる! 1人は嫌なの!」

アデルは叫んで、私にしがみついてきた。

「アデル……」

どうしよう、困ったことになってしまった。

「あ、あの……マディーさん。アデルがこんなにお願いしてくるので、今夜だけでもここに泊まっては駄目でしょうか? 別にベッドが無くても大丈夫です。私はこのソファの上で寝ても問題ありませんので」

図々しいお願いをしているのは分かっていたが、どうしてもアデルを一人ぼっちにはさせたくはなかった。

なのに、マディーさんは首を振る。

「いいえ、規則ですから。ラインハルト家意外の者は、この棟を使わせないように命じられているのです。もし破れば、私は罰を受けてしまいます」

「! そうですか……」

主の言うことは絶対なのだ。バーデン家で働いていた私には理解出来る。

「分かりました。……それなら客室にアデルを連れて行く分には構いませんか? 要は、私がここに滞在しなければアデルと一緒にいられるということですよね?」

イヤなシッターと思われてしまうかもしれない。
けれど、私はアデルの側を離れるわけにはいかないのだ。

「そ、それは……!」

すると、何故かマディーさんが慌てた様子を見せる。その様子を見た時、ピンときた。

もしかして先程の話は全て、私とアデルを引き離すための口実だったのではないだろうかと。


そして後に、何故私とアデルを引き離そうとしたか理由を知ることになる――


しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 377

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ

川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」 フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。 ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。 その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。 彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。 しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。 貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。 そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。 一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。 光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。 静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...