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10 ラインハルト侯爵家
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到着した屋敷は馬車で10分程走った高台にあった。
「こ、ここが……ラインハルト侯爵家のお屋敷……」
馬車から降りると、屋敷を見上げる。大きさはバーデン家の比では無かった。
アドニス様は御者のルイスさんと何か話をしている。
「うわ~大きいねぇ」
アデルもその大きさに目を見開く。
「ええ、そうね」
頷きながらも、アデルと繋いでいた手が思わず震えてしまう。
アデルは、正式にラインハルト家の令嬢。だけど、私はただのシッター。そして貧しい男爵令嬢なのだ。
どう見ても、自分はこの場には似つかわしくない。
「どうかしたの?」
私の手が震えていることに気付いたのか、アデルが尋ねてきた。
「な、なんでもないわ。ちょっと緊張しているだけよ」
無理に作り笑いをすると、アドニス様が声をかけてきた。
「お待たせ、二人共。今、迎えを呼んでいるから中へ入ろう。荷物はこのまま馬車の中へ置いておけばいい。後で部屋に運んでもらうから」
「はい」
「うん」
緊張する面持ちで待っていると屋敷の扉がゆっくり開かれ、初老の男性が多くの使用人たちを従えて現れた。
「アドニス様、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
初老の男性はアドニス様に笑顔で挨拶をしてきた。
「ただいま。ベネット」
するとベネットと呼ばれた男性は私に私に視線を移し、アドニス様に質問した。
「アドニス様、こちらの女性は……?」
「彼女が知らせておいた、シッターのフローネ・シュゼットさんだよ」
そこで私は自ら挨拶した。
「はじめまして、シッターのフローネ・シュゼットと申します」
「シッターの……それでは、お嬢様がアデル様ですね?」
ベネットさんは、私の足元にしがみついているアデルを見つめる。
人見知りが激しいアデルは、小さく頷いた。
「やはり、そうだったのですね……まだこちらにいらっしゃった時には赤ちゃんでしたのに……こんなに大きくなられたのですね?」
「私のこと……知ってるの?」
小さな声でアデルが尋ねる。
「ええ、勿論です。お母様のことも良く存じております。……それにしても驚きました。こんなにお若い女性がシッターだったのですね?」
ベネットさんが再び私に視線を移す。
その言葉をどのように受け取ればいいのか、分からずに黙っているとアドニス様が
代わりに答えてくれた。
「そうだよ。若いけれど、すごくアデルを良く見てくれているし、彼女によく懐いているからね」
「これは失礼致しました。では、ご案内いたしましょう。オリバー様がお待ちです」
「……そうか。分かった」
一瞬、アドニス様の表情が険しくなる。
オリバー? 初めて聞く名前だった。でも恐らく、その人物が今までアドニス様に代わり領地管理を行っていたのだろう。
「フローネ、アデル。疲れただろう? 2人は部屋で夕食時まで休むといい」
アドニス様が私達に声をかけてきた。
「あの、アドニス様……」
その言葉に一瞬ベネットさんの顔に困惑が浮かぶ。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもありません。では、お二人はメイドに案内させましょう」
「私がご案内致します」
すると、私よりは年齢が上と思われる1人のメイドが進み出てきた。
「マディーか。ではアデル様とフローネ様の案内を頼む」
「はい、かしこまりました」
マディーさんは返事をすると、私達に声をかけてきた。
「では、お二人。どうぞ、こちらへ」
「はい」
私は返事をし、アデルは黙って頷く。そんな私達を彼女はチラリと一瞥すると歩き始めた。
アデルの手を繋いだまま、ついていこうとしたとき。
「アデル、フローネ」
不意にアドニス様に名前を呼ばれて、振り向いた。
「また、後で会おう」
「はい。アドニス様」
「うん」
アドニス様は手を振ると、ベネットさんと一緒に去って行った。
「それでは私達も参りましょう」
「はい」
そして私とアデルは、マディーさんの後に続いた。
少しの不安を胸に抱きつつ――
「こ、ここが……ラインハルト侯爵家のお屋敷……」
馬車から降りると、屋敷を見上げる。大きさはバーデン家の比では無かった。
アドニス様は御者のルイスさんと何か話をしている。
「うわ~大きいねぇ」
アデルもその大きさに目を見開く。
「ええ、そうね」
頷きながらも、アデルと繋いでいた手が思わず震えてしまう。
アデルは、正式にラインハルト家の令嬢。だけど、私はただのシッター。そして貧しい男爵令嬢なのだ。
どう見ても、自分はこの場には似つかわしくない。
「どうかしたの?」
私の手が震えていることに気付いたのか、アデルが尋ねてきた。
「な、なんでもないわ。ちょっと緊張しているだけよ」
無理に作り笑いをすると、アドニス様が声をかけてきた。
「お待たせ、二人共。今、迎えを呼んでいるから中へ入ろう。荷物はこのまま馬車の中へ置いておけばいい。後で部屋に運んでもらうから」
「はい」
「うん」
緊張する面持ちで待っていると屋敷の扉がゆっくり開かれ、初老の男性が多くの使用人たちを従えて現れた。
「アドニス様、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
初老の男性はアドニス様に笑顔で挨拶をしてきた。
「ただいま。ベネット」
するとベネットと呼ばれた男性は私に私に視線を移し、アドニス様に質問した。
「アドニス様、こちらの女性は……?」
「彼女が知らせておいた、シッターのフローネ・シュゼットさんだよ」
そこで私は自ら挨拶した。
「はじめまして、シッターのフローネ・シュゼットと申します」
「シッターの……それでは、お嬢様がアデル様ですね?」
ベネットさんは、私の足元にしがみついているアデルを見つめる。
人見知りが激しいアデルは、小さく頷いた。
「やはり、そうだったのですね……まだこちらにいらっしゃった時には赤ちゃんでしたのに……こんなに大きくなられたのですね?」
「私のこと……知ってるの?」
小さな声でアデルが尋ねる。
「ええ、勿論です。お母様のことも良く存じております。……それにしても驚きました。こんなにお若い女性がシッターだったのですね?」
ベネットさんが再び私に視線を移す。
その言葉をどのように受け取ればいいのか、分からずに黙っているとアドニス様が
代わりに答えてくれた。
「そうだよ。若いけれど、すごくアデルを良く見てくれているし、彼女によく懐いているからね」
「これは失礼致しました。では、ご案内いたしましょう。オリバー様がお待ちです」
「……そうか。分かった」
一瞬、アドニス様の表情が険しくなる。
オリバー? 初めて聞く名前だった。でも恐らく、その人物が今までアドニス様に代わり領地管理を行っていたのだろう。
「フローネ、アデル。疲れただろう? 2人は部屋で夕食時まで休むといい」
アドニス様が私達に声をかけてきた。
「あの、アドニス様……」
その言葉に一瞬ベネットさんの顔に困惑が浮かぶ。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもありません。では、お二人はメイドに案内させましょう」
「私がご案内致します」
すると、私よりは年齢が上と思われる1人のメイドが進み出てきた。
「マディーか。ではアデル様とフローネ様の案内を頼む」
「はい、かしこまりました」
マディーさんは返事をすると、私達に声をかけてきた。
「では、お二人。どうぞ、こちらへ」
「はい」
私は返事をし、アデルは黙って頷く。そんな私達を彼女はチラリと一瞥すると歩き始めた。
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「アデル、フローネ」
不意にアドニス様に名前を呼ばれて、振り向いた。
「また、後で会おう」
「はい。アドニス様」
「うん」
アドニス様は手を振ると、ベネットさんと一緒に去って行った。
「それでは私達も参りましょう」
「はい」
そして私とアデルは、マディーさんの後に続いた。
少しの不安を胸に抱きつつ――
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