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8 アデルの母親

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「アデル……眠ったようですね」

私の膝の上で泣きながら眠りについた、アデルの髪をそっと撫でながらアドニス様に話しかけた。

「そうだね……。ずっと膝の上に乗せていたら疲れるだろう? アデルを俺に渡してくれるかい? 変わるよ」

「よろしいのですか?」

「勿論だよ。アデルは俺の妹だからね」

別に私としてはアデルを膝の上に乗せておいても良かったのだが、折角の申し出なのでお願いすることにした。

「すみません、それではよろしくお願いします」

するとアドニス様は立ち上がってアデルを抱き上げると、席に座った。

「……ごめん。アデル……」

眠っているアデルにそっと謝ると、私に話しかけてきた。

「本当に、フローネに一緒に来て貰えて感謝しているよ。ありがとう」

「いいえ。元々私はシュタイナー御夫妻に、アデルのシッターとして雇われたのですから当然です」

「祖父母には、前から話していたんだ。大学を卒業後は、アデルを連れて『ソルト』へ戻るって。だから、一生懸命シッターを捜してくれていたんだろうな。……それにしても驚いたよ」

アドニス様が私を見て笑みを浮かべる。その笑顔があまりにも素敵で、思わず胸が高鳴る。

「な、何が驚いたのでしょうか?」

「フローネが、アデルの亡くなった母親に良く似ているからさ」

「え……? そ、そうだったのですか?」

そんな話は初めて聞いた。シュタイナー夫妻からはアデルの母親について何も聞かされたことは無かったからだ。
するとアドニス様は私が何を考えているのか、気付いたのだろう。

「祖父母は、アデルの母親のことは殆ど知らない。何しろ、接点が無いからね」

「そうだったのですか……」

「そうだ、写真があるから見せてあげるよ」

アドニス様は座席に置いたカバンから手帳をとりだしてページを開くと1枚の写真を差し出してきた。

「この女性がアデルの母親、ミシェルだよ。父より大分年が若くてね……むしろ俺のほうが年が近かったくらいなんだ。だから、初めて引き合わせあれた時は正直驚いたよ」

「この方が……アデルのお母様ですか?」

じっと写真を見た。
写真の人物は笑顔で椅子に座っている。白黒なので髪の色は分からないものの、確かに雰囲気は似ているように見えた。

「お写真、ありがとうございます」

返却すると、アドニス様が教えてくれた。

「アデルには、つい最近この写真を見せたばかりなんだ。……何となく祖父母の手前、見せるのが気が引けてね」

「そうだったのですか……色々気を使われていたのですね」

「祖父母しか、頼れる人がいなかったからね。だけどアデルとは血の繋がりが無かったから確かに気は使ったよ」

「それで卒業とほぼ同時期にアデルを連れて『ソルト』へ戻ることにしたのですね」

「それもあったし……自分の都合もあったからね。いつまでも叔父に領地を任せておくわけにはいかないんだ」

その瞳には、どこか強い意思のようなものを感じられた。もしかすると、領地で何か問題でも起きているのだろうか?

けれど、私はただのシッター。踏み込んだ話を聞ける立場には無い。

「そうなのですね。それでは『ソルト』に戻られましたら、どうぞアドニス様は領主の仕事に専念して下さい。アデルのことはお任せ下さい。私が責任を持ってお世話させていただきますので」

それだけ告げるのが精一杯だった。

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。これからもアデルのことを頼めるかな?」

「ええ。もちろんです」

私は笑顔で返事をした――


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