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6 二人の約束
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「アドニス。今日卒業式を終えて、ここに到着したばかりだと言うのに、もう『ソルト』に戻ると言うのか?」
「ええ、そうよ。そんなに急いで行くことは無いでしょう? 一月……いえ、せめて半月でもいいから、ここに滞在していかない?」
シュタイナー夫妻はアドニス様を説得しようと試みていた。
「いえ、お祖父様とお祖母様のお気持ちはとても嬉しいのですが……」
そこで一度言葉を切ると、アドニス様はアデルに視線を移すと話を続けた。
「アデルを4年間も見ていただいて、これ以上甘えるわけにはいきませんから」
「アドニス。まさか今までそんなことを考えていの?」
「当然のことじゃないか。アデルだって私達の可愛い孫なのだから」
「?」
アデルは自分のことが会話に上がっていることに気付いたのか、顔を上げて3人の顔を交互に見ている。
「申し訳ございません。このことはもう卒業する前から考えてたことですので。来週、アデルを連れて『ソルト』へ帰ります」
「もう、考えを変える気は無いのか?」
シュタイナー氏が尋ねるも、アドニス様はきっぱり断る。
「はい、変える気はありません。……アデル」
「……何?」
アドニス様に名前を呼ばれて、返事をするアデル。
「もうすぐ、一緒に家に帰るんだ。いいね? だから準備をしておこう」
「家? ここが家じゃないの?」
「ここも家に違いないけど、アデルの本当の家は『ソルト』という場所にあるんだよ? 来週、兄さんと一緒に帰ろう」
「お兄ちゃんと? 皆も一緒に帰るの?」
「いや、一緒に帰るのは俺とフローネだよ。お祖父様とお祖母様はここに残る」
「お姉ちゃんは一緒なの?」
アデルが私を見つめる。
「ええ、そうよ」
「それじゃどうしてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは一緒に行かないの?」
「アデル……」
「……」
夫人とシュタイナー氏がアデルの言葉を聞いて悲しげに目を伏せる。
「それはね、2人の家はここだからだよ?」
「だから、一緒には行かないの?」
「うん、そうだよ。いいね?」
アドニス様が頷く。
「……うん。分かった……」
「そうか、ありがとう。アデル、話しを聞いてくれて」
アドニス様は笑顔でアデルの頭を撫でると、再び食事は再開された……。
――夕食
荷物整理を始めるために私とアデルは早目に部屋に下がらせて貰っていた。
「偉かったわね、アデル。ちゃんとお兄様の言うことを聞いて」
アデルと一緒に荷物整理をしながら、話しかけた。
「本当は、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒に行きたいけど……我儘言ってお兄ちゃんに嫌われたくないから……」
寂しそうにポツリと呟くアデル。
「アデル……まさか、お兄様に嫌われたくなくて返事をしたの?」
「うん、そうなの」
「アデル……」
私はアデルを抱き寄せた。
「大丈夫よ、お兄様はアデルのことが大好きなの。絶対に嫌ったりしないわ、だからそんな心配しなくてもいいのよ?」
「お姉ちゃん……」
「お祖父様とお祖母様とはお別れすることになってしまうけど、アデルが望めば又会えるわ。私からもアドニス様にお願いする」
「本当? 約束してくれる?」
「ええ、約束する」
アデルが私にしがみついてきた。
「お姉ちゃんは、ずっと一緒にいてくれる?」
ずっと一緒……?
私もアデルの側にずっといたい。けれど、この子が成長すればシッターの私など不要になるだろう。
まだ先の話しとはいえ、私はいつかアデルの元を去らなければならない。
けれど、今は……。
「ええ、私はずっとアデルと一緒よ」
小さなアデルの身体をギュッと抱きしめた。
……そして、瞬く間に時は流れ、1週間後。
私とアデルが、ついにシュタイナー家を去る日が訪れた――
「ええ、そうよ。そんなに急いで行くことは無いでしょう? 一月……いえ、せめて半月でもいいから、ここに滞在していかない?」
シュタイナー夫妻はアドニス様を説得しようと試みていた。
「いえ、お祖父様とお祖母様のお気持ちはとても嬉しいのですが……」
そこで一度言葉を切ると、アドニス様はアデルに視線を移すと話を続けた。
「アデルを4年間も見ていただいて、これ以上甘えるわけにはいきませんから」
「アドニス。まさか今までそんなことを考えていの?」
「当然のことじゃないか。アデルだって私達の可愛い孫なのだから」
「?」
アデルは自分のことが会話に上がっていることに気付いたのか、顔を上げて3人の顔を交互に見ている。
「申し訳ございません。このことはもう卒業する前から考えてたことですので。来週、アデルを連れて『ソルト』へ帰ります」
「もう、考えを変える気は無いのか?」
シュタイナー氏が尋ねるも、アドニス様はきっぱり断る。
「はい、変える気はありません。……アデル」
「……何?」
アドニス様に名前を呼ばれて、返事をするアデル。
「もうすぐ、一緒に家に帰るんだ。いいね? だから準備をしておこう」
「家? ここが家じゃないの?」
「ここも家に違いないけど、アデルの本当の家は『ソルト』という場所にあるんだよ? 来週、兄さんと一緒に帰ろう」
「お兄ちゃんと? 皆も一緒に帰るの?」
「いや、一緒に帰るのは俺とフローネだよ。お祖父様とお祖母様はここに残る」
「お姉ちゃんは一緒なの?」
アデルが私を見つめる。
「ええ、そうよ」
「それじゃどうしてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは一緒に行かないの?」
「アデル……」
「……」
夫人とシュタイナー氏がアデルの言葉を聞いて悲しげに目を伏せる。
「それはね、2人の家はここだからだよ?」
「だから、一緒には行かないの?」
「うん、そうだよ。いいね?」
アドニス様が頷く。
「……うん。分かった……」
「そうか、ありがとう。アデル、話しを聞いてくれて」
アドニス様は笑顔でアデルの頭を撫でると、再び食事は再開された……。
――夕食
荷物整理を始めるために私とアデルは早目に部屋に下がらせて貰っていた。
「偉かったわね、アデル。ちゃんとお兄様の言うことを聞いて」
アデルと一緒に荷物整理をしながら、話しかけた。
「本当は、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと一緒に行きたいけど……我儘言ってお兄ちゃんに嫌われたくないから……」
寂しそうにポツリと呟くアデル。
「アデル……まさか、お兄様に嫌われたくなくて返事をしたの?」
「うん、そうなの」
「アデル……」
私はアデルを抱き寄せた。
「大丈夫よ、お兄様はアデルのことが大好きなの。絶対に嫌ったりしないわ、だからそんな心配しなくてもいいのよ?」
「お姉ちゃん……」
「お祖父様とお祖母様とはお別れすることになってしまうけど、アデルが望めば又会えるわ。私からもアドニス様にお願いする」
「本当? 約束してくれる?」
「ええ、約束する」
アデルが私にしがみついてきた。
「お姉ちゃんは、ずっと一緒にいてくれる?」
ずっと一緒……?
私もアデルの側にずっといたい。けれど、この子が成長すればシッターの私など不要になるだろう。
まだ先の話しとはいえ、私はいつかアデルの元を去らなければならない。
けれど、今は……。
「ええ、私はずっとアデルと一緒よ」
小さなアデルの身体をギュッと抱きしめた。
……そして、瞬く間に時は流れ、1週間後。
私とアデルが、ついにシュタイナー家を去る日が訪れた――
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