お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
28 / 90

3章 7 専属メイドとして

しおりを挟む
 リリスの専属メイドとなった私に与えられた部屋は、彼女の自室の隣にある衣装室を改装したものだった。

しかし衣装室と言っても窓はあるし、使用人の部屋よりも広くて内装も立派だった。
この部屋に以前使用していた粗末な木のベッドとクローゼットが運び込まれ、1日中リリスの専属メイドとして私は管理されることになったのだった……。


****

 リリスとクリフは結婚したにも関わらず別居婚をしていた。
何故ならクリフは遠方の大学に通う大学生で、寮生活をしていたからだ。

執事さんの話によると、クリフはリリスと一緒に暮らすことを望んでいた。そこで大学の近隣に家を購入し、彼が卒業するまで暮らそうと提案したのだが、何故かリリスが拒否したのだ。理由はここの生活に一刻も早く慣れたいからだというものだった。

クリフはそのことをあまり良く思わなかったけれども、彼の両親は快くリリスの考えを受け入れた。
そこでクリフはやむなく従い……週末だけはバーデン家に帰って2人で過ごすことになったそうだ。

私にはリリスの考えが不思議でならなかった。
新婚なら少しでも一緒に過ごしたいと普通は思うのではないだろうか?

私だったら……大好きなクリフの側で暮らすことを望むのに――


****


 ――チリンチリン


真夜中、眠りについていると隣の部屋からリリスが私を呼ぶベルの音が聞こえてきた。
慌ててカーデガンを羽織り、リリスの部屋へ続く扉を開ける。

ベルで呼ばれた時はノックをせずに室内に入るように命じられていたからだ。

「お呼びでしょうか……リリス様」

するとベッドから身体を起こしているリリスの姿が目に入った。

「ええ、呼んだわ。ベッドに入ったものの今夜は一向に眠くならないのよ。だからブランデー煎りの紅茶を淹れてきて頂戴」

「え? こんな真夜中にですか……?」

時計の針は午前3時を少し過ぎた頃だった。

「何よ、私の専属メイドのくせに逆らうつもり?」

私を睨みつけるリリス。

「い、いえ。そういうわけではありません。ただ、こんな真夜中にお酒を召し上がってお身体に差し支えないかと思っただけです」

「そう、つまりそれは私を心配してということね?」

するとリリスは何故か嬉しそうな素振りを見せる。

「ええ、勿論です」

「確かにあなたの言うことも一理あるけど……メイドは黙って言う事聞きなさい! 誰のお陰で、あの生意気なメイド長から助けてあげたと思っているの? 辛い洗濯業務を免れて、アカギレを作らなくて済むようになったのは?」

「は、はい……全て……リリス様のおかげ……です……」

俯きながら返事をする。

「そうよ、分かればいいのよ。なら15分以内に紅茶入りブランデーを持ってきなさい。もし遅れたら、休暇の申請を取り下げるわよ」

「え!? そ、それだけはお許し下さい。15分以内に必ずお持ちしますから!」

実は、3日後に弟のニコルとメイドとして働き始めてから初めて面会する日だったのだ。
以前からニコルと手紙のやり取りをしており、ようやく弟と会えることが決まって休暇届を申請していたのだ。

「なら早く持ってきて頂戴」

「は、はい!」

「ちょっと待ちなさい、フローネ」

慌てて部屋を出ようとすると呼び止められた。

「何でしょうか?」

「廊下は寒いわ。そこにある私のガウンを羽織っていきなさい」

リリスが指さした先に、暖かそうなガウンがテーブルの上に置かれている。

「そ、そんな! リリス様のガウンを羽織るなんて、恐れ多くて出来ません!」

「あなたに風邪でも引かれたら、迷惑なのよ! 私の専属メイドはフローネしかいないのだから。それともわざと風邪を引いて仕事をサボろうって魂胆なのかしら?」

「いいえ……決してそんなつもりではありません……」

この時間でも夜勤で働いている使用人はいる。もし彼らに私がリリスのガウンを羽織っている姿を見られたら……何を言われるか分かったものではない。
けれど、私はリリスに逆らえない。

「分かりました……ありがたくお借りします」

リリスのガウンに袖を通すと、すぐに厨房へ向かった。
幸いなことにリリスに指定された15分以内にブランデー入りの紅茶を用意することが出来たが……

結局、休暇の申請届は受理されることは無かった。

理由は、クリフがバーデン家に一時帰宅する日と重なってしまったからだ――

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 377

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。

待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。 しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。 ※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

処理中です...