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3章 5 嫉妬と非難
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一体リリスはどういうつもりなのだろう?
皆の前で私の名前を呼び、人だけ違うプレゼントを用意するなんて。
背後からは私を刺すような視線を感じる。
こんなふうに私だけ特別扱いされては、ますます反感をかってしまいそうで怖かった。
「あら? どうしたの? フローネのことを思って、この軟膏を買ってきたのに……嬉しくないの?」
「い、いえ。とても嬉しいです。ありがとうございます」
震える声を必死に押し殺して返事をすると、リリスはにっこり微笑んだ。
「良かった、そう言って貰えて。でも本当に酷いアカギレね……可哀想に。メイド長があなたに洗濯の仕事を押し付けたのでしょう? それに誰も洗濯当番を変わってくれなかったのよね? 1年間も」
リリスの言葉に周りにいたメイド達が息を呑んだ。何故、そんな言い方をするのだろう?
今の言い方では、まるで私がリリスに言いつけたように聞こえてしまう。これ以上周囲の反感を浴びないためにも、退散しよう。
「あ、あの……私なら大丈夫です。軟膏、ありがとうございました。それでは仕事が残っておりますので、失礼します」
お辞儀をして、立ち去ろうとしたとき。
「あ、待って頂戴」
リリスが不意に引き止めてきた。
「な、何でしょうか……?」
「もう洗濯の仕事は誰かに変わってもらいましょう。だって1年間もそんなきつい仕事をしてきたのでしょう? 今度は誰に引き継いでもらえばいいかしら?」
「え……?」
まさか、私に人選しろと言うのだろうか?
「フローネ。誰なら次の洗濯当番に相応しいと思う? 1年も同じ仕事をしてきたのだから、あなたになら分かるわよね?」
その言葉に、ギョッとしたのはメイドたちだ。
彼女たちは洗濯業務がどれほど大変なのか分かっている。
肉体労働だし、身体を酷使する。特に冬場の洗濯はとても辛い。中にはメイドへのお仕置きとして洗濯業務を押し付る場合もあるくらいなのだ。
だけど、私には選べない。
誰かに洗濯業務を押し付けるくらいなら、自分で続けたほうがずっとマシだ。
「いえ……私には分かりません……第一、選べるような立場にはありませんから……」
それだけ応えるのが精一杯だった。
「そう、なら私から選ぶしか無いわね。でも、誰か人選出来たら彼に伝えてね?」
リリスは隣に立つ初老の男性に視線を移すと、その人物は会釈しながら私を見つめる。
「わ、分かりました……」
「返事、待っているわ。それでは皆、仕事の合間に集まってくれてありがとう。持ち場に戻っていいわよ?」
リリスはメイド達に笑顔を向けると、男性に声をかけた。
「では行きましょう」
「はい、奥様」
2人が大ホールから出ていく姿を呆然と見送っていると、不意に背後から強い口調で声をかけられた。
「ちょっと、フローネ!」
「え……?」
振り向くと、集められたメイド達が私を睨みつけている。
声をかけてきたのはキャシーだった。
「あんた、どうやって若奥様に取り入ったのよ!」
私とリリスが幼馴染であることを知らないキャシーが非難の声をあげる。
「そ、そんな……私は別に取り入ってなんて……」
「何よ! 口答えする気なの!?」
キャシーの隣に立っていた女性……確か食堂で私を嘲笑っていたメイドだ。
その彼女が突然突き飛ばしてきた。
「キャッ!」
あまりにも突然の出来事で、そのまま床の上に倒れてしまう。
「何さ、わざとらしく転んだりして……本当に腹が立つわね」
「いい? 私達を指名したら、ただじゃすまないからね!」
「そうよ! そんなことをすれば、一生許さないわよ!」
口々にメイドたちは私に罵声を浴びせてくる。
「そんな……! 私はどなたとも交流していないし、1人きりで仕事をしていたので皆さんの名前も知らないのですよ?」
立ち上がり、必死で訴えても誰も聞く耳を持ってくれない。
「何よ! そうやって自分は孤独でしたと言って、大方若奥様に泣きついたんじゃないの?」
「本当にイヤな女ね!」
「言いつけるなんて最低よ!」
罵詈雑言を浴びせてくるメイド達。これではあんまりだ。
「お願いです、話を聞いてくださ……」
そこまで言いかけた時。
「うるさい!」
キャシーが右手を振り上げた。
パンッ!!
次の瞬間、乾いた音が大ホールに響き渡る。
一瞬何が起きたか分からなかったが、左頬に熱を感じ……平手打ちされたことに気付いた。
「あ……」
そっと左頬に手を添えると、キャシーは怒鳴りつけてきた。
「底辺メイドのくせに、口答えするんじゃないわよ!! 皆、行くわよ!」
「そうね、行きましょう」
「また言いつけられたらたまらないものね」
「愚図女!」
メイド達が次々と私に悪口を投げかけ、大ホールから出て行き……やがて私は1人、その場に残された。
「う……」
堪えていた涙がとうとう溢れ出してきた。
「う……うぅ……」
泣き止みたくても、次から次へと涙が溢れて止まらない。
何故、こんな目に遭わなければならないのだろう? 一体私が何をしたというのだろう?
もしかして、叶わない相手に恋をしたから……クリフが私を選んでくれたと勘違いしたから、こんな目に遭ってしまったのだろうか?
私は、誰もいない大ホールで涙が止まるまで泣き続けた。
その様子を……あの人に見られていたということにも気付かずに――
皆の前で私の名前を呼び、人だけ違うプレゼントを用意するなんて。
背後からは私を刺すような視線を感じる。
こんなふうに私だけ特別扱いされては、ますます反感をかってしまいそうで怖かった。
「あら? どうしたの? フローネのことを思って、この軟膏を買ってきたのに……嬉しくないの?」
「い、いえ。とても嬉しいです。ありがとうございます」
震える声を必死に押し殺して返事をすると、リリスはにっこり微笑んだ。
「良かった、そう言って貰えて。でも本当に酷いアカギレね……可哀想に。メイド長があなたに洗濯の仕事を押し付けたのでしょう? それに誰も洗濯当番を変わってくれなかったのよね? 1年間も」
リリスの言葉に周りにいたメイド達が息を呑んだ。何故、そんな言い方をするのだろう?
今の言い方では、まるで私がリリスに言いつけたように聞こえてしまう。これ以上周囲の反感を浴びないためにも、退散しよう。
「あ、あの……私なら大丈夫です。軟膏、ありがとうございました。それでは仕事が残っておりますので、失礼します」
お辞儀をして、立ち去ろうとしたとき。
「あ、待って頂戴」
リリスが不意に引き止めてきた。
「な、何でしょうか……?」
「もう洗濯の仕事は誰かに変わってもらいましょう。だって1年間もそんなきつい仕事をしてきたのでしょう? 今度は誰に引き継いでもらえばいいかしら?」
「え……?」
まさか、私に人選しろと言うのだろうか?
「フローネ。誰なら次の洗濯当番に相応しいと思う? 1年も同じ仕事をしてきたのだから、あなたになら分かるわよね?」
その言葉に、ギョッとしたのはメイドたちだ。
彼女たちは洗濯業務がどれほど大変なのか分かっている。
肉体労働だし、身体を酷使する。特に冬場の洗濯はとても辛い。中にはメイドへのお仕置きとして洗濯業務を押し付る場合もあるくらいなのだ。
だけど、私には選べない。
誰かに洗濯業務を押し付けるくらいなら、自分で続けたほうがずっとマシだ。
「いえ……私には分かりません……第一、選べるような立場にはありませんから……」
それだけ応えるのが精一杯だった。
「そう、なら私から選ぶしか無いわね。でも、誰か人選出来たら彼に伝えてね?」
リリスは隣に立つ初老の男性に視線を移すと、その人物は会釈しながら私を見つめる。
「わ、分かりました……」
「返事、待っているわ。それでは皆、仕事の合間に集まってくれてありがとう。持ち場に戻っていいわよ?」
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「では行きましょう」
「はい、奥様」
2人が大ホールから出ていく姿を呆然と見送っていると、不意に背後から強い口調で声をかけられた。
「ちょっと、フローネ!」
「え……?」
振り向くと、集められたメイド達が私を睨みつけている。
声をかけてきたのはキャシーだった。
「あんた、どうやって若奥様に取り入ったのよ!」
私とリリスが幼馴染であることを知らないキャシーが非難の声をあげる。
「そ、そんな……私は別に取り入ってなんて……」
「何よ! 口答えする気なの!?」
キャシーの隣に立っていた女性……確か食堂で私を嘲笑っていたメイドだ。
その彼女が突然突き飛ばしてきた。
「キャッ!」
あまりにも突然の出来事で、そのまま床の上に倒れてしまう。
「何さ、わざとらしく転んだりして……本当に腹が立つわね」
「いい? 私達を指名したら、ただじゃすまないからね!」
「そうよ! そんなことをすれば、一生許さないわよ!」
口々にメイドたちは私に罵声を浴びせてくる。
「そんな……! 私はどなたとも交流していないし、1人きりで仕事をしていたので皆さんの名前も知らないのですよ?」
立ち上がり、必死で訴えても誰も聞く耳を持ってくれない。
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「本当にイヤな女ね!」
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「お願いです、話を聞いてくださ……」
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「うるさい!」
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一瞬何が起きたか分からなかったが、左頬に熱を感じ……平手打ちされたことに気付いた。
「あ……」
そっと左頬に手を添えると、キャシーは怒鳴りつけてきた。
「底辺メイドのくせに、口答えするんじゃないわよ!! 皆、行くわよ!」
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「う……」
堪えていた涙がとうとう溢れ出してきた。
「う……うぅ……」
泣き止みたくても、次から次へと涙が溢れて止まらない。
何故、こんな目に遭わなければならないのだろう? 一体私が何をしたというのだろう?
もしかして、叶わない相手に恋をしたから……クリフが私を選んでくれたと勘違いしたから、こんな目に遭ってしまったのだろうか?
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