お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
26 / 90

3章 5 嫉妬と非難

しおりを挟む
 一体リリスはどういうつもりなのだろう?

皆の前で私の名前を呼び、人だけ違うプレゼントを用意するなんて。
背後からは私を刺すような視線を感じる。

こんなふうに私だけ特別扱いされては、ますます反感をかってしまいそうで怖かった。

「あら? どうしたの? フローネのことを思って、この軟膏を買ってきたのに……嬉しくないの?」

「い、いえ。とても嬉しいです。ありがとうございます」

震える声を必死に押し殺して返事をすると、リリスはにっこり微笑んだ。

「良かった、そう言って貰えて。でも本当に酷いアカギレね……可哀想に。メイド長があなたに洗濯の仕事を押し付けたのでしょう? それに誰も洗濯当番を変わってくれなかったのよね? 1年間も」

リリスの言葉に周りにいたメイド達が息を呑んだ。何故、そんな言い方をするのだろう?
今の言い方では、まるで私がリリスに言いつけたように聞こえてしまう。これ以上周囲の反感を浴びないためにも、退散しよう。

「あ、あの……私なら大丈夫です。軟膏、ありがとうございました。それでは仕事が残っておりますので、失礼します」

お辞儀をして、立ち去ろうとしたとき。

「あ、待って頂戴」

リリスが不意に引き止めてきた。

「な、何でしょうか……?」

「もう洗濯の仕事は誰かに変わってもらいましょう。だって1年間もそんなきつい仕事をしてきたのでしょう? 今度は誰に引き継いでもらえばいいかしら?」

「え……?」

まさか、私に人選しろと言うのだろうか?

「フローネ。誰なら次の洗濯当番に相応しいと思う? 1年も同じ仕事をしてきたのだから、あなたになら分かるわよね?」

その言葉に、ギョッとしたのはメイドたちだ。

彼女たちは洗濯業務がどれほど大変なのか分かっている。
肉体労働だし、身体を酷使する。特に冬場の洗濯はとても辛い。中にはメイドへのお仕置きとして洗濯業務を押し付る場合もあるくらいなのだ。

だけど、私には選べない。
誰かに洗濯業務を押し付けるくらいなら、自分で続けたほうがずっとマシだ。

「いえ……私には分かりません……第一、選べるような立場にはありませんから……」

それだけ応えるのが精一杯だった。

「そう、なら私から選ぶしか無いわね。でも、誰か人選出来たら彼に伝えてね?」

リリスは隣に立つ初老の男性に視線を移すと、その人物は会釈しながら私を見つめる。

「わ、分かりました……」

「返事、待っているわ。それでは皆、仕事の合間に集まってくれてありがとう。持ち場に戻っていいわよ?」

リリスはメイド達に笑顔を向けると、男性に声をかけた。

「では行きましょう」

「はい、奥様」

2人が大ホールから出ていく姿を呆然と見送っていると、不意に背後から強い口調で声をかけられた。

「ちょっと、フローネ!」

「え……?」

振り向くと、集められたメイド達が私を睨みつけている。
声をかけてきたのはキャシーだった。

「あんた、どうやって若奥様に取り入ったのよ!」

私とリリスが幼馴染であることを知らないキャシーが非難の声をあげる。

「そ、そんな……私は別に取り入ってなんて……」

「何よ! 口答えする気なの!?」

キャシーの隣に立っていた女性……確か食堂で私を嘲笑っていたメイドだ。
その彼女が突然突き飛ばしてきた。

「キャッ!」

あまりにも突然の出来事で、そのまま床の上に倒れてしまう。

「何さ、わざとらしく転んだりして……本当に腹が立つわね」

「いい? 私達を指名したら、ただじゃすまないからね!」

「そうよ! そんなことをすれば、一生許さないわよ!」

口々にメイドたちは私に罵声を浴びせてくる。

「そんな……! 私はどなたとも交流していないし、1人きりで仕事をしていたので皆さんの名前も知らないのですよ?」

立ち上がり、必死で訴えても誰も聞く耳を持ってくれない。

「何よ! そうやって自分は孤独でしたと言って、大方若奥様に泣きついたんじゃないの?」

「本当にイヤな女ね!」

「言いつけるなんて最低よ!」

罵詈雑言を浴びせてくるメイド達。これではあんまりだ。

「お願いです、話を聞いてくださ……」

そこまで言いかけた時。

「うるさい!」

キャシーが右手を振り上げた。

パンッ!!

次の瞬間、乾いた音が大ホールに響き渡る。
一瞬何が起きたか分からなかったが、左頬に熱を感じ……平手打ちされたことに気付いた。

「あ……」

そっと左頬に手を添えると、キャシーは怒鳴りつけてきた。

「底辺メイドのくせに、口答えするんじゃないわよ!! 皆、行くわよ!」

「そうね、行きましょう」

「また言いつけられたらたまらないものね」

「愚図女!」

メイド達が次々と私に悪口を投げかけ、大ホールから出て行き……やがて私は1人、その場に残された。

「う……」

堪えていた涙がとうとう溢れ出してきた。

「う……うぅ……」

泣き止みたくても、次から次へと涙が溢れて止まらない。

何故、こんな目に遭わなければならないのだろう? 一体私が何をしたというのだろう?

もしかして、叶わない相手に恋をしたから……クリフが私を選んでくれたと勘違いしたから、こんな目に遭ってしまったのだろうか?

私は、誰もいない大ホールで涙が止まるまで泣き続けた。


その様子を……あの人に見られていたということにも気付かずに――



しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 377

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

処理中です...