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3章 3 突然の呼び出し

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 2人の結婚式から1週間が経過していた。

私は相変わらず、洗濯場での仕事を続ける変わらない日々を過ごしていた。
当然のことながら、クリフとリリスに会うこともなく……。

いつものように使用人専用の食堂で私は1人で食事をしていたときのことだった。
他のテーブルで楽しげに話をしている数人のメイドたちの会話が聞こえてきた。

「そういえば、知っている? クリフ様と奥様は今、新婚旅行に行ってるんですって。それで今日帰ってくるらしいわ」

「まぁ、そうだったのね。どうりで結婚式以来一度もお会いしていないと思っていたわ」

「それで、何処へ行ったのか誰か知ってる?」

「私は知ってるわよ。何でも『ソルト』に行ったそうよ。以前から奥様が行ってみたい場所だったのですって」

「貴族の観光地として有名なところよね? 羨ましいわ……私も一度でいいから行ってみたい」


彼女たちの会話を耳にし、食事をしていた手が一瞬止まる。
2人が新婚旅行へ行っているなんて知らなかった。しかも、行き先が『ソルト』だなんて……。

脳裏に暗い記憶が蘇ってくる。

リリスと彼女の友人たちには美しいアクセサリーをクリフからお土産に貰い……私は塩とバター、そしてチーズだった。
あの時は酷く自分の心が傷ついたし、父もニコルも何かを察したのか悲しげな目で私を見た。

病気だった父をとても心配させてしまったことが今も悔やんでならない。


その時、部屋の扉が開かれ、メイド長の大きな声が突然響き渡った

「集まっているメイド達、よくお聞き! 先程クリフ様と奥様が屋敷にお帰りになられたわ。奥様から私達メイドに重要な話があるらしい。17時になったら、全員大ホールに集まるように! いいね!」

そして、ふとメイド長が私に視線を移す。

「おや? 洗濯メイド……あんたもいたのかい?」

その呼び名に、周囲にいたメイドたちはクスクスと笑いながら私を見る

洗濯女……。
私が2人の結婚式に参加して以来、ますますメイド長の私に対する当たりが強くなった。
今では名前すら呼んでもらえず『洗濯メイド』というあだ名で呼ばれるようになってしまった。

「あんたは来なくていいよ。呼び出しに集まったら、また仕事が遅くなってしまうだろうからね? 感謝しなさい」

「……はい、分かりました」

余計な言葉を口にせず、返事をした。
リリスと顔を合わせても辛いだけ、自分に与えられた仕事をしている方が良いに決まっている。

「それじゃ、皆! 時間に遅れるんじゃないよ!」

メイド長はそれだけ言い残すと、足早に食堂を去っていった。
途端に騒ぎが始まる。

「本当に相変わらず横柄な態度ね」

「そうよ、ただ単に年功序列でメイド長になったくせに」

「しかもガサツで男みたいよね」

彼女たちは堂々とメイド長の悪口を言っているも……その会話の内容はどれも私には全く関係ない話だった。

食事を終えてトレーを持って立ち上がると、次に彼女たちは聞こえよがしに私の話を始めた。

「聞いた? 洗濯メイドですって」

「なかなかうまいアダ名をつけたわね」

「ほんと。でも一日洗濯しているのだもの」

クスクス笑いながら私を見る彼女たちの視線が絶えられず、私は急いで食堂をあとにした――


****


――17時

「うう……冷たいわ……それに、寒い……」

 私は冷たい水に耐えながら洗濯をしていた。

きっと今頃他のメイドたちは大ホールでリリスの話を聞いているのだろう……。
そんなことを考えていると、ドスドスと大きな音を立てながら足音がこちらに近づいていることに気付いた。

次の瞬間。

「フローネ!」

怒りの形相を浮かべたメイド長が洗濯場に現れた。またしても私に激怒している。

「は、はい、メイド長」

「早く大ホールに来るんだよ! 奥様がお呼びだ!」

「え!?」

リリスが私を名指しで呼んでいる……?

「何、ボサッとしてるんだい! あんたのせいで私が注意されてしまったじゃないか! 何故、フローネがこの場にいないのかって。ちゃんと連絡したのかって責められてしまったんだよ!」

「で、でもそれは……」

そんな……! メイド長が来なくていいと言ったのに?

「口答えするんじゃないよ! ほら! さっさと来るんだよ!」

「分かりました」

メイド長がすぐに部屋を出たので、私もすぐに後に続いた。
リリスは何故私のことも呼んだのだろう?

一抹の不安を抱きながら、メイド長の背中を追った――
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