21 / 90
2章 11 残酷な再会と発表
しおりを挟む
私がようやく開放されたのは、それから2時間後のことだった。
クリフとリリスが町へ買い物に行くことに話が決まったからだ。
仲良さそうに腕を組んでガゼボを後にする2人を悲しい気分で見送り、涙をこらえながら後片付けをすると厨房へ戻った。
厨房へ戻ると、いつまで仕事もせずにサボっていたのだとメイド長から叱責を受け、この日は食事を貰うことが出来なかった――
――23時
「ふぅ……やっと……一日が終わったわ……」
2時間クリフとリリスの話の場に居合わせていたせいで洗濯の仕事が出来なかった私は、結局残業する羽目になってしまった。
「疲れたわ……」
明かりを消し、ベッドに倒れ込むように横になると今日の出来事を思い出した。
「リリス……とても綺麗になっていたわ……」
4ヶ月ぶりに再会したリリスは、以前にも増してとても美しくなっていた。
「それにしても……どうして今まで気付かなかったのかしら……」
まさかクリフがリリスの意見で、私をメイドとして雇用したなんて。
でも、考えてみればクリフはいつもリリスの意見を尊重していた。小さい子供の頃からずっと。
昨年、『ソルト』へ行くときのお土産だってリリスが決めたものを買ってきたほどなのだから。
「もう……リリスと婚約するのだから、クリフが私を気にかけてくれることは二度と無いでしょうね……」
2人でガゼボを後にした時、クリフは私を振り返ることもなく去って行った。
リリスの手を取り、彼女を優しげな眼差しで見つめながら……。
「クリフ……」
今まで、ほんの少しでも持っていた希望の糸がプツリと切れてしまった。
いつかクリフが私に救いの手を差し伸べてくれるのではないかと、愚かな夢を抱いていた。
それが今日、完全に眼の前で絶たれてしまったのだ。
「馬鹿ね……私ったら……クリフと私では……身分が違いすぎるのに……初めから期待なんてしてはいけなかったのに……」
もう夢も希望も何もかも失ってしまった。ここにいるのが辛い……。
だけど私には屋敷を出ても行き先が無い。
「お父様……ニコル……会いたいわ……」
お父様が生きていたら、今の私を見てどう思うだろう?
ニコルは幸せに暮らしているのだろうか……?
この夜、私は久しぶりに枕を涙で濡らしながら眠りに就いた――
****
――翌日、午前10時
バーデン家で働く使用人たち全員が本館の大ホールに集められていた。
この屋敷で働く使用人達はランク付けされており、地位が低い使用人は出入り禁止の場所がある。
その場所が、今集められている大ホールなのだ。
「一体私達に何の用事かしら……」
「俺たち下っ端の使用人たちまで、ここに呼ばれるなんて……」
当然地位が低い使用人たちは戸惑い、ヒソヒソと話をしている。
他の使用人たちは何故、自分たちが呼び集められているのか分かっていない。
でも私には想像がついていた。
恐らく、この場に全員が集められたのはクリフが婚約したことを報告する為なのだろう。
私は誰とも口をきく相手がいない。
そこで静かに待っていると、思った通りにクリフが両親と共に大ホールに現れた。
上品なスーツ姿に身を包んだクリフの隣には懐かしい彼の両親が立っている。
3人とも、この上ないくらいの笑顔を浮かべている。
「おじ様……おば様……お元気そうだわ……」
誰にも聞かれないように、口の中でそっと呟く。
こうやって2人に会うのは10年ぶり以上だ。
この屋敷でメイドとして働き始めて4ヶ月にもなるのに……。
子供の頃は良くこの屋敷に遊びに来て歓迎してもらっていたのに、今では遠い夢のように感じる。
おじ様は全員を見渡すと、案の定私の考え通りの内容を口にした。
クリフが、リリス・クレイマーと婚約したという話を。
集められた使用人たちは一斉に拍手をし、辺りはお祝いムードに包まれた。
笑顔で皆の拍手に応えるクリフと、両親。
もう、私は完全にあの人達と並んで立つ資格を失ってしまったのだということを感じずにはいられない。
今の私は……絶望的な気持ちで、その場に立っているのがやっとだった――
クリフとリリスが町へ買い物に行くことに話が決まったからだ。
仲良さそうに腕を組んでガゼボを後にする2人を悲しい気分で見送り、涙をこらえながら後片付けをすると厨房へ戻った。
厨房へ戻ると、いつまで仕事もせずにサボっていたのだとメイド長から叱責を受け、この日は食事を貰うことが出来なかった――
――23時
「ふぅ……やっと……一日が終わったわ……」
2時間クリフとリリスの話の場に居合わせていたせいで洗濯の仕事が出来なかった私は、結局残業する羽目になってしまった。
「疲れたわ……」
明かりを消し、ベッドに倒れ込むように横になると今日の出来事を思い出した。
「リリス……とても綺麗になっていたわ……」
4ヶ月ぶりに再会したリリスは、以前にも増してとても美しくなっていた。
「それにしても……どうして今まで気付かなかったのかしら……」
まさかクリフがリリスの意見で、私をメイドとして雇用したなんて。
でも、考えてみればクリフはいつもリリスの意見を尊重していた。小さい子供の頃からずっと。
昨年、『ソルト』へ行くときのお土産だってリリスが決めたものを買ってきたほどなのだから。
「もう……リリスと婚約するのだから、クリフが私を気にかけてくれることは二度と無いでしょうね……」
2人でガゼボを後にした時、クリフは私を振り返ることもなく去って行った。
リリスの手を取り、彼女を優しげな眼差しで見つめながら……。
「クリフ……」
今まで、ほんの少しでも持っていた希望の糸がプツリと切れてしまった。
いつかクリフが私に救いの手を差し伸べてくれるのではないかと、愚かな夢を抱いていた。
それが今日、完全に眼の前で絶たれてしまったのだ。
「馬鹿ね……私ったら……クリフと私では……身分が違いすぎるのに……初めから期待なんてしてはいけなかったのに……」
もう夢も希望も何もかも失ってしまった。ここにいるのが辛い……。
だけど私には屋敷を出ても行き先が無い。
「お父様……ニコル……会いたいわ……」
お父様が生きていたら、今の私を見てどう思うだろう?
ニコルは幸せに暮らしているのだろうか……?
この夜、私は久しぶりに枕を涙で濡らしながら眠りに就いた――
****
――翌日、午前10時
バーデン家で働く使用人たち全員が本館の大ホールに集められていた。
この屋敷で働く使用人達はランク付けされており、地位が低い使用人は出入り禁止の場所がある。
その場所が、今集められている大ホールなのだ。
「一体私達に何の用事かしら……」
「俺たち下っ端の使用人たちまで、ここに呼ばれるなんて……」
当然地位が低い使用人たちは戸惑い、ヒソヒソと話をしている。
他の使用人たちは何故、自分たちが呼び集められているのか分かっていない。
でも私には想像がついていた。
恐らく、この場に全員が集められたのはクリフが婚約したことを報告する為なのだろう。
私は誰とも口をきく相手がいない。
そこで静かに待っていると、思った通りにクリフが両親と共に大ホールに現れた。
上品なスーツ姿に身を包んだクリフの隣には懐かしい彼の両親が立っている。
3人とも、この上ないくらいの笑顔を浮かべている。
「おじ様……おば様……お元気そうだわ……」
誰にも聞かれないように、口の中でそっと呟く。
こうやって2人に会うのは10年ぶり以上だ。
この屋敷でメイドとして働き始めて4ヶ月にもなるのに……。
子供の頃は良くこの屋敷に遊びに来て歓迎してもらっていたのに、今では遠い夢のように感じる。
おじ様は全員を見渡すと、案の定私の考え通りの内容を口にした。
クリフが、リリス・クレイマーと婚約したという話を。
集められた使用人たちは一斉に拍手をし、辺りはお祝いムードに包まれた。
笑顔で皆の拍手に応えるクリフと、両親。
もう、私は完全にあの人達と並んで立つ資格を失ってしまったのだということを感じずにはいられない。
今の私は……絶望的な気持ちで、その場に立っているのがやっとだった――
125
お気に入りに追加
3,382
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる