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1章 8 聞けない話
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リリスと、彼女の友人たちとのお土産の差を見せつけられて辛かった。
リリスが私と家族のことを考えて、このお土産にしてくれた気持ちは嬉しい。
だけど……。
周囲から贅沢品と言われてしまうかもしれないけれど、私も美しいアクセサリーが欲しかった。
綺麗な物は眺めているだけでも幸せな気持ちになれたから。なのに、私が貰えたのは食料品。
記念に残る品では無い。
もう、これ以上ここに平気な顔でいることは出来そうになかった。
椅子から立ち上がると、2人に声をかけた。
「クリフ、お土産ありがとう。リリスもここへ連れてきてくれて感謝するわ。それでは私、そろそろ帰るわね」
「え? もう帰るのかい?」
怪訝そうな顔を向けるクリフ。
「そうね。フローネは仕事が忙しいんだものね。荷物があるけれど、一人で帰れそう?」
「ええ、大丈夫よリリス。それではお先に失礼するわね」
「うん。また会おう」
「気をつけて帰って頂戴ね」
クリフとリリスに別れを告げると、足早にその場を後にした――
****
重い荷物を持って、約1時間かけて帰宅すると既にニコルは学校から帰宅していた。
「お帰りなさい、お姉様……え? その荷物、どうしたの?」
ニコルが父の部屋から出てきて、目を見開いた。
「これはね、クリフからのお土産なのよ」
すると部屋の中から父が声をかけてきた。
「お帰り、フローネ。クリフ君からどんなお土産を貰ったんだい?」
まさか父が起きていて話を聞かれているとは思わなかった。
「ただいま帰りました。お父様……」
荷物を抱えたまま室内に入ると、父が怪訝そうに尋ねてきた。
「フローネ、その大きな荷物はどうしたんだい? 買い物でもしてきたのか?」
「い、いえ。……『ソルト』から帰ってきたクリフの……お土産なの」
躊躇いがちに返事をするとニコルの目が輝く。
「え!? こんなに大きなお土産を貰ったの? 見せて!」
「あ! ニコル!」
ニコルは静止する間もなく、私の抱えている袋の中身を覗き込み……驚いた様子で私を見る。
「お姉様……これが……お土産なの?」
「ええ、そうよ。ほら、このチーズ、とても美味しそうでしょう? バターも貰えたから、今夜の食事楽しみにしていて」
わざと明るい声を出し、2人の前で袋からバターとチーズ、そして塩を取り出して見せた。
「フローネ……」
父が悲しげな目で私を見る。
「お父様、ニコル。今夜はご馳走よ。このチーズとバターでじゃがいものチーズ焼きを作りましょう? 栄養をつけなくちゃね。それじゃ、私庭の畑からじゃがいもを取ってくるから」
身体が弱い父に余計な気を使わせたくなかった私は逃げるようにその場を後にした。
その日の夕食は、クリフのくれたお土産のお陰でいつもよりも裕福な食卓となった。
けれども……いつもよりは会話も少ない食事風景となってしまった。
父もニコルも、クリフがくれたお土産に違和感を抱いているのだろう。
身体の弱い父と、まだ少年のニコルに余計な気を使わせてしまっていることが……とても心苦しかった――
****
それはクリフが『ソルト』から戻ってきて、数日後のことだった。
――9時半
「お父様、それでは仕事に行ってくるわね。お昼はテーブルの上にサンドイッチを作っておいたからそれを食べてね」
ここ数日、体調が優れずにベッドで横になっている父に声をかけた。
「……ありがとう、フローネ。苦労かけてすまないな……」
父が弱々しく返事をした。その顔色はいつになく、青白い。
「いいのよ、お父様。私、働くの好きだから。それじゃ、行ってきます」
家を出て、鍵をかけていると背後から馬車が近づいてくる音が聞こえてきた。
「?」
振り向くと、その馬車はクリフのものだった。窓からは私を見て笑顔で手をふる彼の姿が見えた。
「クリフ!?」
何故、ここに来たのだろう? もしかして私に会いに来てくれたのだろうか?
喜びで胸を高鳴らせているとクリフを乗せた馬車は私の前で止まった。
そして扉が開かれ……瞬時に自分の顔がこわばるのを感じた。
馬車にはクリフの他にリリスの姿もあったのだ。リリスは笑顔で手をふると声をかけてきた。
「おはよう、フローネ。私達用事があって町に出掛けるのよ。だから一緒に乗せてあげようと思って訪ねてきたの。今から食堂の仕事があるのでしょう?」
「え、ええ……そうなの。今から……仕事なのよ」
よく見るとクリフとリリスは同系色の服を着ている。リリスは流行のデイ・ドレス姿だし、クリフも上品なスーツ姿だ。……まるでデートにでも行くような装いだった。
自分の貧しい身なりが恥ずかしくなってくる。
こんな豪華な馬車に、高貴な2人と乗るのは気が引けた。
乗ることを躊躇っていると、2人から声をかけられた。
「どうしたの? 乗らないのかい?」
「フローネ、早く乗ったら? 遅くなるわよ?」
「そ、そうね。すぐに乗るわ」
私はすぐに馬車に乗り込むと、リリスの隣に座った。
「それじゃ、行こうか」
クリフが扉を閉めると、すぐに馬車は走り始めた。
車内で楽しそうに話をする2人。私も話に加わりながら思った。
やはり思った通り、2人は頻回に会っていたのだ。私に知られないように。
けれど、町で偶然2人が一緒にいるところを私に見られてしまったことで遠慮するのはやめることにしたのだろう。
2人はこれから一体何処へ出掛けるつもりなのだろう?
だけど、聞きたくても聞けなかった。
結局……食堂前で馬車から降ろしてもらっても、2人が何処へ出掛けるのか尋ねることは出来なかった――
リリスが私と家族のことを考えて、このお土産にしてくれた気持ちは嬉しい。
だけど……。
周囲から贅沢品と言われてしまうかもしれないけれど、私も美しいアクセサリーが欲しかった。
綺麗な物は眺めているだけでも幸せな気持ちになれたから。なのに、私が貰えたのは食料品。
記念に残る品では無い。
もう、これ以上ここに平気な顔でいることは出来そうになかった。
椅子から立ち上がると、2人に声をかけた。
「クリフ、お土産ありがとう。リリスもここへ連れてきてくれて感謝するわ。それでは私、そろそろ帰るわね」
「え? もう帰るのかい?」
怪訝そうな顔を向けるクリフ。
「そうね。フローネは仕事が忙しいんだものね。荷物があるけれど、一人で帰れそう?」
「ええ、大丈夫よリリス。それではお先に失礼するわね」
「うん。また会おう」
「気をつけて帰って頂戴ね」
クリフとリリスに別れを告げると、足早にその場を後にした――
****
重い荷物を持って、約1時間かけて帰宅すると既にニコルは学校から帰宅していた。
「お帰りなさい、お姉様……え? その荷物、どうしたの?」
ニコルが父の部屋から出てきて、目を見開いた。
「これはね、クリフからのお土産なのよ」
すると部屋の中から父が声をかけてきた。
「お帰り、フローネ。クリフ君からどんなお土産を貰ったんだい?」
まさか父が起きていて話を聞かれているとは思わなかった。
「ただいま帰りました。お父様……」
荷物を抱えたまま室内に入ると、父が怪訝そうに尋ねてきた。
「フローネ、その大きな荷物はどうしたんだい? 買い物でもしてきたのか?」
「い、いえ。……『ソルト』から帰ってきたクリフの……お土産なの」
躊躇いがちに返事をするとニコルの目が輝く。
「え!? こんなに大きなお土産を貰ったの? 見せて!」
「あ! ニコル!」
ニコルは静止する間もなく、私の抱えている袋の中身を覗き込み……驚いた様子で私を見る。
「お姉様……これが……お土産なの?」
「ええ、そうよ。ほら、このチーズ、とても美味しそうでしょう? バターも貰えたから、今夜の食事楽しみにしていて」
わざと明るい声を出し、2人の前で袋からバターとチーズ、そして塩を取り出して見せた。
「フローネ……」
父が悲しげな目で私を見る。
「お父様、ニコル。今夜はご馳走よ。このチーズとバターでじゃがいものチーズ焼きを作りましょう? 栄養をつけなくちゃね。それじゃ、私庭の畑からじゃがいもを取ってくるから」
身体が弱い父に余計な気を使わせたくなかった私は逃げるようにその場を後にした。
その日の夕食は、クリフのくれたお土産のお陰でいつもよりも裕福な食卓となった。
けれども……いつもよりは会話も少ない食事風景となってしまった。
父もニコルも、クリフがくれたお土産に違和感を抱いているのだろう。
身体の弱い父と、まだ少年のニコルに余計な気を使わせてしまっていることが……とても心苦しかった――
****
それはクリフが『ソルト』から戻ってきて、数日後のことだった。
――9時半
「お父様、それでは仕事に行ってくるわね。お昼はテーブルの上にサンドイッチを作っておいたからそれを食べてね」
ここ数日、体調が優れずにベッドで横になっている父に声をかけた。
「……ありがとう、フローネ。苦労かけてすまないな……」
父が弱々しく返事をした。その顔色はいつになく、青白い。
「いいのよ、お父様。私、働くの好きだから。それじゃ、行ってきます」
家を出て、鍵をかけていると背後から馬車が近づいてくる音が聞こえてきた。
「?」
振り向くと、その馬車はクリフのものだった。窓からは私を見て笑顔で手をふる彼の姿が見えた。
「クリフ!?」
何故、ここに来たのだろう? もしかして私に会いに来てくれたのだろうか?
喜びで胸を高鳴らせているとクリフを乗せた馬車は私の前で止まった。
そして扉が開かれ……瞬時に自分の顔がこわばるのを感じた。
馬車にはクリフの他にリリスの姿もあったのだ。リリスは笑顔で手をふると声をかけてきた。
「おはよう、フローネ。私達用事があって町に出掛けるのよ。だから一緒に乗せてあげようと思って訪ねてきたの。今から食堂の仕事があるのでしょう?」
「え、ええ……そうなの。今から……仕事なのよ」
よく見るとクリフとリリスは同系色の服を着ている。リリスは流行のデイ・ドレス姿だし、クリフも上品なスーツ姿だ。……まるでデートにでも行くような装いだった。
自分の貧しい身なりが恥ずかしくなってくる。
こんな豪華な馬車に、高貴な2人と乗るのは気が引けた。
乗ることを躊躇っていると、2人から声をかけられた。
「どうしたの? 乗らないのかい?」
「フローネ、早く乗ったら? 遅くなるわよ?」
「そ、そうね。すぐに乗るわ」
私はすぐに馬車に乗り込むと、リリスの隣に座った。
「それじゃ、行こうか」
クリフが扉を閉めると、すぐに馬車は走り始めた。
車内で楽しそうに話をする2人。私も話に加わりながら思った。
やはり思った通り、2人は頻回に会っていたのだ。私に知られないように。
けれど、町で偶然2人が一緒にいるところを私に見られてしまったことで遠慮するのはやめることにしたのだろう。
2人はこれから一体何処へ出掛けるつもりなのだろう?
だけど、聞きたくても聞けなかった。
結局……食堂前で馬車から降ろしてもらっても、2人が何処へ出掛けるのか尋ねることは出来なかった――
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