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1章 3 幼なじみたち ③
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パンケーキを食べている間、クリフとリリスは最近流行の本や服のことについて楽しそうに話をしていた。
私も話に加わりたかったが、自分一人だけパンケーキを食べていることがなんだか申し訳ない気がして声をかけることが出来なかった。
第一、今の私には本や服を買うことなど出来る身分ではなかったので話についていけるはずもなかった。
「あ、そうだ。実は来月大学の研修で、『ソルト』に1週間程行くことになったんだよ」
不意にクリフが話題を変えてきた。
「まぁ、『ソルト』に? あそこは海がとても綺麗でイルカの姿を見ることも出来るのよね? 羨ましいわ。私ね、以前からお父様に『ソルト』に別荘を買ってもらいたいと頼んでるのよ」
リリスが身を乗り出してきた。
『ソルト』の州は、私達の住んでいる『マーズ』から南にある州だ。
海沿いにある美しい州は観光地として人気があり、多くの貴族たちが別荘を持っている。
……私のように貧しい身では、到底行ける場所ではない。
「僕も『ソルト』に行くのは初めてだから、今からとても楽しみだよ。それで2人に何かお土産を買ってこようかと思っているんだ」
「え? お土産?」
クリフがお土産を買ってきてくれるなんて嬉しくてたまらなかった。
「嬉しいわ、楽しみに待ってる」
リリスもとても嬉しそうだ。
「うん、それで2人にどんなものを買ってくればいいか良く分からないから希望を聞いておきたいんだけど……何か欲しいものはあるかな?」
「『ソルト』は天然石が有名で、アクセサリーに加工する伝統工芸品が有名なの。だからイヤリングやネックレスのようなものがいいわ」
リリスが要望を出してきた。
イヤリングかネックレス……どれも素敵な品だ。クリフからのプレゼントなら一生の宝物になるに違いない。
「分かったよ、それじゃ2人にアクセサリーを買ってくるよ」
「あら、待ってクリフ。フローネには違うものの方がいいわ」
突然リリスが予想もしなかった言葉を口にした。
「え? リリス……?」
何故、そんなことを言うのだろう? だけど、口に出すことは出来ない。
するとクリフが首を傾げた。
「どうして? フローネもアクセサリーのほうがいいんじゃないの?」
「だって……フローネはアクセサリーがあっても、身につける機会がないじゃない? 社交界に出ることもできないのだから。宝の持ち腐れになってしまうわ。それではあんまりよね?」
「……」
私は何も言えなかった。
日頃から私はリリスに色々お世話になっている。彼女からドレスをもらったり、馬車を出してもらうことだってある。
現に今日だって馬車に乗せてもらっているのだ。だから彼女の言葉に意見することは出来ない。
「それじゃ、どんなお土産ならいいと思うんだい?」
クリフは私にではなく、リリスに尋ねる。
「そうね、やっぱり食品が良いんじゃないかしら? 『ソルト』は観光地だから、お土産用の食品が沢山売っていると思うのよ」
そんな! 食品なんて……。 それではクリフからのプレゼントとして記念にとっておくことが出来ないのに。
「言われてみればそうだね。リリス、教えてくれてありがとう。確かに食べ物のほうがいいかもね。ごめん、フローネ。気付かなくて」
「そんな、謝らないで、クリフ。私はどんなお土産でもあなたからのなら嬉しいのだから」
そこまで言われて、私もアクセサリーが欲しいとはとてもではないが言い出せなかった。
それに、リリスの言うことも尤もだ。
我が家はとても貧しい。父は病弱だし、弟だって育ち盛り。
私には着飾って出掛けるような場所も無いのだから。
「良かったわね、フローネ」
「ええ、リリス。ありがとう」
笑顔で問いかけてくるリリスに、胸の痛みを押し殺して返事をする。
「そういえばフローネ、お父様のお薬を受け取りに来たのでしょう? パンケーキも食べ終わったことだし……そろそろ行ってきたほうがいいんじゃないかしら? あなたの帰りを待っているのでしょう?」
「そ、そうね。そろそろ行くわ」
父からはゆっくり会ってくるといいと言われているけれども、リリスの言うとおりだ。
「え? そうだったの? 少しも知らなかったよ。引き止めてごめん」
再びクリフは謝ってくる。それが申し訳なくてたまらなかった。
「いいのよ、クリフ。そんなに何度も謝らないでちょうだい。それでは薬を取りに行ってくるわ」
立ち上がると、リリスが声をかけてきた。
「フローネ、帰りは一人で大丈夫そう?」
「え? ええ。大丈夫。帰れるから」
そうだった。
リリスは迎えにこそ来てくれたけれど送って貰う約束はしていないのだった。
「フローネ、気をつけて帰るんだよ」
「気をつけてね」
クリフとリリスが笑顔で手を振ってくる。
「ええ、ありがとう。またね」
私も手を振ると、足早にその場を後にした。
背後で楽しげに笑い合っているクリフとリリスの声を聞きながら――
私も話に加わりたかったが、自分一人だけパンケーキを食べていることがなんだか申し訳ない気がして声をかけることが出来なかった。
第一、今の私には本や服を買うことなど出来る身分ではなかったので話についていけるはずもなかった。
「あ、そうだ。実は来月大学の研修で、『ソルト』に1週間程行くことになったんだよ」
不意にクリフが話題を変えてきた。
「まぁ、『ソルト』に? あそこは海がとても綺麗でイルカの姿を見ることも出来るのよね? 羨ましいわ。私ね、以前からお父様に『ソルト』に別荘を買ってもらいたいと頼んでるのよ」
リリスが身を乗り出してきた。
『ソルト』の州は、私達の住んでいる『マーズ』から南にある州だ。
海沿いにある美しい州は観光地として人気があり、多くの貴族たちが別荘を持っている。
……私のように貧しい身では、到底行ける場所ではない。
「僕も『ソルト』に行くのは初めてだから、今からとても楽しみだよ。それで2人に何かお土産を買ってこようかと思っているんだ」
「え? お土産?」
クリフがお土産を買ってきてくれるなんて嬉しくてたまらなかった。
「嬉しいわ、楽しみに待ってる」
リリスもとても嬉しそうだ。
「うん、それで2人にどんなものを買ってくればいいか良く分からないから希望を聞いておきたいんだけど……何か欲しいものはあるかな?」
「『ソルト』は天然石が有名で、アクセサリーに加工する伝統工芸品が有名なの。だからイヤリングやネックレスのようなものがいいわ」
リリスが要望を出してきた。
イヤリングかネックレス……どれも素敵な品だ。クリフからのプレゼントなら一生の宝物になるに違いない。
「分かったよ、それじゃ2人にアクセサリーを買ってくるよ」
「あら、待ってクリフ。フローネには違うものの方がいいわ」
突然リリスが予想もしなかった言葉を口にした。
「え? リリス……?」
何故、そんなことを言うのだろう? だけど、口に出すことは出来ない。
するとクリフが首を傾げた。
「どうして? フローネもアクセサリーのほうがいいんじゃないの?」
「だって……フローネはアクセサリーがあっても、身につける機会がないじゃない? 社交界に出ることもできないのだから。宝の持ち腐れになってしまうわ。それではあんまりよね?」
「……」
私は何も言えなかった。
日頃から私はリリスに色々お世話になっている。彼女からドレスをもらったり、馬車を出してもらうことだってある。
現に今日だって馬車に乗せてもらっているのだ。だから彼女の言葉に意見することは出来ない。
「それじゃ、どんなお土産ならいいと思うんだい?」
クリフは私にではなく、リリスに尋ねる。
「そうね、やっぱり食品が良いんじゃないかしら? 『ソルト』は観光地だから、お土産用の食品が沢山売っていると思うのよ」
そんな! 食品なんて……。 それではクリフからのプレゼントとして記念にとっておくことが出来ないのに。
「言われてみればそうだね。リリス、教えてくれてありがとう。確かに食べ物のほうがいいかもね。ごめん、フローネ。気付かなくて」
「そんな、謝らないで、クリフ。私はどんなお土産でもあなたからのなら嬉しいのだから」
そこまで言われて、私もアクセサリーが欲しいとはとてもではないが言い出せなかった。
それに、リリスの言うことも尤もだ。
我が家はとても貧しい。父は病弱だし、弟だって育ち盛り。
私には着飾って出掛けるような場所も無いのだから。
「良かったわね、フローネ」
「ええ、リリス。ありがとう」
笑顔で問いかけてくるリリスに、胸の痛みを押し殺して返事をする。
「そういえばフローネ、お父様のお薬を受け取りに来たのでしょう? パンケーキも食べ終わったことだし……そろそろ行ってきたほうがいいんじゃないかしら? あなたの帰りを待っているのでしょう?」
「そ、そうね。そろそろ行くわ」
父からはゆっくり会ってくるといいと言われているけれども、リリスの言うとおりだ。
「え? そうだったの? 少しも知らなかったよ。引き止めてごめん」
再びクリフは謝ってくる。それが申し訳なくてたまらなかった。
「いいのよ、クリフ。そんなに何度も謝らないでちょうだい。それでは薬を取りに行ってくるわ」
立ち上がると、リリスが声をかけてきた。
「フローネ、帰りは一人で大丈夫そう?」
「え? ええ。大丈夫。帰れるから」
そうだった。
リリスは迎えにこそ来てくれたけれど送って貰う約束はしていないのだった。
「フローネ、気をつけて帰るんだよ」
「気をつけてね」
クリフとリリスが笑顔で手を振ってくる。
「ええ、ありがとう。またね」
私も手を振ると、足早にその場を後にした。
背後で楽しげに笑い合っているクリフとリリスの声を聞きながら――
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