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エピローグ 身代わりの花嫁は真実の花嫁に

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 セリアの説得のお陰で、エルウィンは周辺諸国への王侯貴族へ招待状を送ることは断念した。

 しかし、そのお陰で余裕が出来たシュミットは2人の結婚式の準備に時間を掛けることが出来た。
 勿論、城中の者達がシュミットの手助けをしたことは言うまでも無い。

 セリアは『アイデン』で一番の仕立屋を呼び、アリアドネの為に最上級のドレスを作らせた。
 下働きの者達は結婚式場となる教会を美しく飾り、厨房では領民達にも振舞える極上のパーティー料理を考案した。

 そして今やすっかり改心したランベールのメイド達によって、2人の為に最高の寝室が用意されたのだった――。



****
 
 そして季節は流れた。

 北に位置する『アイデン』にも温かな風が吹き始め、大地に緑の恵みが育ち始めた6月――


 雲一つない青空の元、アリアドネとエルウィンの結婚式が執り行われることとなった。


 控室では純白のドレスに身を包んだアリアドネがセリアの手により、最後の仕上げの化粧を施して貰っていた。

「フフフ……アリアドネ、とってもきれいよ」

 セリアが鏡の前に座るアリアドネに声を掛けた。

「エルウィン様もこれでまた一段とアリアドネの魅力にはまってしまうわね?」

「そ、そんな……魅力にはまるなんて……」

 頬を赤く染めながらアリアドネは改めて鏡に映る自分を見つめた。

(これが私……?でも、本当に嘘みたい……まるで別人のようだわ……)

 アリアドネは今まで自分でも見たことの無い姿に戸惑っていた。その時、扉の外で物凄い騒ぎが起こる。

『駄目ですっ!落ち着いてください!エルウィン様!』

『何故だ!?アリアドネは俺の妻になるのに、何故ドレス姿を見れないんだ!』

『大将!御存知無いのですか!?結婚式の前に花嫁を見ると不吉な目に遭うって言い伝えをまさか知らないんですか!?』

『何だって!?そんな言い伝え初めて耳にするぞ?なら、すぐに退散するぞ!アリアドネ!お前のドレス姿楽しみにしてるからな!』

 そしてバタバタと足音が遠ざかって行く。

「「‥‥…」」

 扉越しで三人のやり取りを聞いていたセリアとアリアドネは顔を見合わせ…‥クスリと笑った。

「全く……あの方達は相変わらずだわ」

 セリアが肩をすくめる。

「そう言えばセリアさんはエルウィン様達のことを昔から御存知なのですよね?」

「ええ、そうよ。子供時代から知ってるわ。本当に昔から変わりないんだから。今度昔の話を色々教えてあげるわね?」

「はい、お願いします。私、もっともっとエルウィン様のこと……知りたいので」

 そして、アリアドネはまだほとんど目立たない自分のお腹をそっと撫でた。
実はアリアドネの身体には、既にエルウィンとの間に出来た新しい命が宿っているのである。

「それじゃ、準備も出来た事だし……足元に気を付けて行きましょう?」

「はい、セリアさん」

 アリアドネは笑みを浮かべて返事をした――。


****


 厳かなパイプオルガンの演奏が鳴り響く中、教会の扉が開かれた。
祭壇の前には緊張した面持ちのエルウィンが真っ白な軍服姿でアリアドネを待っている。 
 教会のベンチには招待された領民達で埋め尽くされ、花嫁が入場してくる様子をじっと見守っている。

 そこへ、ヨゼフに手を取られてアリアドネが入場してきた。

「アリアドネ……とっても綺麗だよ」

「ありがとう、ヨゼフさん」

 頬を染めるアリアドネ。

「うん、本当に綺麗だよ!」
「僕がお嫁さんに貰いたかったな~」

アリアドネの長いヴェールを持つミカエルとウリエルも交互に自分の想いを口にする。

 そんな2人にアリアドネは優しく笑みを浮かべ…‥そして、視線を前に移す。
そこには優し気な笑みを浮かべて自分を待つエルウィンの姿。

 エルウィンはアリアドネが到着すると早速耳元に囁いてきた。

「アリアドネ……世界一綺麗だ」

「!あ、ありがとうございます‥‥‥」

 頬を真っ赤に染めるアリアドネ。そして2人はこの日の為に招かれた神父の方を振り向いた時――。

バンッ!!

 突然扉が開かれ、そこには息を切らしたスティーブが立っていた。

「た、大変ですっ!大将!『ロレイン』地域に大規模な賊が攻め入って来たそうです!大至急援軍を寄こして欲しいと、使者がやってきました!」

 その言葉に途端に周囲が騒めく。

「何!?それは本当か!?分かった!すぐに出撃の用意だ!」

「了解!」

 スティーブが走り去ると、エルウィンはアリアドネを振り向いた。

「すまない!アリアドネ!折角の二人の結婚式なのに……!」

「いいえ。どうか気になさらないで下さい。だってエルウィン様は辺境伯ではありませんか?」

「アリアドネ…‥‥」

 エルウィンはアリアドネを抱き寄せ、唇を重ねて来た。
 少しの間、二人はキスを交わすとエルウィンはアリアドネから身体を離した。

「必ず勝利して帰還してくるからな!?」

「はい、お帰りをお待ちしております」

 その言葉に頷くと、エルウィンはマントを翻し……人々に見守られながら戦場へと向かった――


 そしてその夜……。

 勝利を納めたエルウィン達は領民達から大歓声で迎えられ、祝賀パーティーが開かれた。

「お帰りなさいませ、エルウィン様」

 アリアドネが隣に座るエルウィンに労いの言葉を掛ける。

「ああ、俺の帰る場所はお前の元だと決まっているからな。だけど……すまない。俺は辺境伯だから、城を開けることが多々ある。お前には寂しい思いをこれからもさせてしまうかもしれないが……それでも側にいてくれるか?」

 真剣な眼差しでアリアドネを見つめる。

「はい。勿論です。私の居場所はエルウィン様のお傍と決めていますから。それに……」

 アリアドネは自分のお腹にそっと手を当てた。

「ここにエルウィン様との愛の証である新しい命が宿っていますから私は大丈夫です」

「アリアドネ……」
 
 エルウィンはアリアドネを抱き寄せ、キスをした。

「そうだな。俺達……これからも沢山家族を作ろう?」

「はい」


 抱き合う二人をシュミットもスティーブも遠目から温かい目で見守っている。

そこへエデルガルトが声を掛けて来た。

「お前達もそろそろ身を固めた方がいいかもしれないな?何ならこの私が口添えしてやってもいいぞ?」

「いえ、自分の相手位自分で見つけますから」

「俺は暫くは遠慮しておきますよ」

 その言葉にエデルガルトは苦笑いを浮かべた。

(どうやら、シュミットもスティーブも暫くは失恋の痛手から立ち直れないかもしれないな……)



 その後……。

 エルウィンの言葉通り、二人の間には沢山子供が生まれた。

 そして騎士として立派に成長したミカエルとウリエルと共に力を合わせ、ますますアイゼンシュタット辺境伯の名声は各国に轟くのだった。

『戦場の暴君』と呼ばれるエルウィンの名のもとに――



<完>
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