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18-17 閉じられた部屋と追跡
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アリアドネの食事が終わると、マクシミリアンが笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「今日は色々あって疲れただろう?『ウルス』の村では大変な目に遭ったからね?」
「え?え、ええ……そうですね」
「それでは一緒に行こうか?」
「はい」
精神的にも肉体的にも疲れ切っていたアリアドネは何も考えなしに返事をした。
マクシミリアンが立ち上がったので、続いてアリアドネも立ち上がる。
「お前達、この後は自由にしていいぞ。出発は明朝10時だ」
『はい!!』
近衛兵達は声を揃えて返事をする。
「行こう、アリアドネ」
「はい……」
マクシミリアンはアリアドネの肩を抱き寄せると、食堂を後にした。
「……」
マクシミリアンと部屋に向かっている間も、アリアドネはずっと口を閉ざしたままだった。何故なら頭の中はエルウィンのことで一杯だったからである。
(エルウィン様……本当に大丈夫なのかしら……。折角助けてもらったのに、お礼を言うことも出来ないまま……こんなことになってしまったのだから、さぞかし私のことを怒っていらっしゃるでしょうね……)
アリアドネはまさか自分がエルウィンに愛されているとは思いもしていなかったのである。
しかも、怪我を負った身体でマクシミリアンから連れ戻す為に単身で後を追っているということも――。
「また考え事かい?」
不意に声を掛けられ、アリアドネは我に返った。気付けば部屋の前で、マクシミリアンがアリアドネの顔を覗き込んでいる。
「キャッ!も、申し訳ございません!」
「それほど辺境伯のことが心配なのかい?彼なら大丈夫だ。何しろ王家の秘薬とも言える『生命の雫』を彼に与えたのだから」
「はい……マクシミリアン様には大変感謝しております」
「そうか?ならその気持を態度で表して貰おうか?」
「え……?」
何のことを言われているのか分からなかったアリアドネは首を傾げた。そんなアリアドネの腰をマクシミリアンは抱き寄せると、目の前の扉を開けた。
その部屋は辺鄙な宿屋にしては、中々に立派なものだった。
室内はとても広く、窓際に寄せられた大きなベッドは人が2人寝ても十分過ぎるものだった。
オイルランプでオレンジ色に染まる部屋にはテーブルの上に美しい花も飾られている。
(きっと、ここはマクシミリアン様の部屋なのね)
そう思ったアリアドネはマクシミリアンに頭を下げた。
「それでは、マクシミリアン様。ゆっくりお休み下さいませ。私はこれで失礼致します」
「……」
けれど、マクシミリアンはアリアドネの腰を抱いたまま離さない。
「あ、あの……?」
すると、マクシミリアンはアリアドネの耳元で囁いた。
「何処へ行くんだい?アリアドネ。今夜はこの部屋で一緒に泊まるんだよ?」
「え……?」
次の瞬間アリアドネはマクシミリアンに強引に部屋に連れ込まれる。
バタンッ!
そして……部屋の扉は閉ざされた――。
****
一方その頃――
『ウルス』に村から1番近い『ラザール』という宿場村に到着したエルウィは辺りの光景を目の当たりにして呆然としていた。
「え……?な、何だ?一体これは……」
エルウィンが驚いたのは無理もない。
辺鄙な田舎町には似つかわしくない程に立派な鞍をつけた馬が何頭も馬繋場に繋がれていたからである。
「どうしてこんなところに……?」
背中の傷跡に耐えながら馬を降りたエルウィンは手綱を引きながら辺りを警戒しながら歩き回り……目を見開いた。
宿屋と思しき建物に、立派な黒塗りの馬車を発見したからである。とっさに物陰に隠れたエルウィンはじっと馬車を見つめた。
(間違いない……あれは王族が所有する馬車……ひょっとすると……!)
エルウィンは建物を見上げた。
「アリアドネは……あの建物の中にいるのか……?!」
その時、建物の扉が開かれ、2人の男が現れた。彼らは王宮の近衛兵の制服を着用している。
(やはりそうだったのか……。奴らは近衛兵達だ。だが……何故王太子はこんな近くの町に滞在しているのだ?俺に追いかけられるとは思っていなかったのか?一体何を考えている……?)
「だが……都合がいいな……」
エルウィンは腰に差した剣に手を伸ばした――。
「今日は色々あって疲れただろう?『ウルス』の村では大変な目に遭ったからね?」
「え?え、ええ……そうですね」
「それでは一緒に行こうか?」
「はい」
精神的にも肉体的にも疲れ切っていたアリアドネは何も考えなしに返事をした。
マクシミリアンが立ち上がったので、続いてアリアドネも立ち上がる。
「お前達、この後は自由にしていいぞ。出発は明朝10時だ」
『はい!!』
近衛兵達は声を揃えて返事をする。
「行こう、アリアドネ」
「はい……」
マクシミリアンはアリアドネの肩を抱き寄せると、食堂を後にした。
「……」
マクシミリアンと部屋に向かっている間も、アリアドネはずっと口を閉ざしたままだった。何故なら頭の中はエルウィンのことで一杯だったからである。
(エルウィン様……本当に大丈夫なのかしら……。折角助けてもらったのに、お礼を言うことも出来ないまま……こんなことになってしまったのだから、さぞかし私のことを怒っていらっしゃるでしょうね……)
アリアドネはまさか自分がエルウィンに愛されているとは思いもしていなかったのである。
しかも、怪我を負った身体でマクシミリアンから連れ戻す為に単身で後を追っているということも――。
「また考え事かい?」
不意に声を掛けられ、アリアドネは我に返った。気付けば部屋の前で、マクシミリアンがアリアドネの顔を覗き込んでいる。
「キャッ!も、申し訳ございません!」
「それほど辺境伯のことが心配なのかい?彼なら大丈夫だ。何しろ王家の秘薬とも言える『生命の雫』を彼に与えたのだから」
「はい……マクシミリアン様には大変感謝しております」
「そうか?ならその気持を態度で表して貰おうか?」
「え……?」
何のことを言われているのか分からなかったアリアドネは首を傾げた。そんなアリアドネの腰をマクシミリアンは抱き寄せると、目の前の扉を開けた。
その部屋は辺鄙な宿屋にしては、中々に立派なものだった。
室内はとても広く、窓際に寄せられた大きなベッドは人が2人寝ても十分過ぎるものだった。
オイルランプでオレンジ色に染まる部屋にはテーブルの上に美しい花も飾られている。
(きっと、ここはマクシミリアン様の部屋なのね)
そう思ったアリアドネはマクシミリアンに頭を下げた。
「それでは、マクシミリアン様。ゆっくりお休み下さいませ。私はこれで失礼致します」
「……」
けれど、マクシミリアンはアリアドネの腰を抱いたまま離さない。
「あ、あの……?」
すると、マクシミリアンはアリアドネの耳元で囁いた。
「何処へ行くんだい?アリアドネ。今夜はこの部屋で一緒に泊まるんだよ?」
「え……?」
次の瞬間アリアドネはマクシミリアンに強引に部屋に連れ込まれる。
バタンッ!
そして……部屋の扉は閉ざされた――。
****
一方その頃――
『ウルス』に村から1番近い『ラザール』という宿場村に到着したエルウィは辺りの光景を目の当たりにして呆然としていた。
「え……?な、何だ?一体これは……」
エルウィンが驚いたのは無理もない。
辺鄙な田舎町には似つかわしくない程に立派な鞍をつけた馬が何頭も馬繋場に繋がれていたからである。
「どうしてこんなところに……?」
背中の傷跡に耐えながら馬を降りたエルウィンは手綱を引きながら辺りを警戒しながら歩き回り……目を見開いた。
宿屋と思しき建物に、立派な黒塗りの馬車を発見したからである。とっさに物陰に隠れたエルウィンはじっと馬車を見つめた。
(間違いない……あれは王族が所有する馬車……ひょっとすると……!)
エルウィンは建物を見上げた。
「アリアドネは……あの建物の中にいるのか……?!」
その時、建物の扉が開かれ、2人の男が現れた。彼らは王宮の近衛兵の制服を着用している。
(やはりそうだったのか……。奴らは近衛兵達だ。だが……何故王太子はこんな近くの町に滞在しているのだ?俺に追いかけられるとは思っていなかったのか?一体何を考えている……?)
「だが……都合がいいな……」
エルウィンは腰に差した剣に手を伸ばした――。
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