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18-6 やり場のない思い
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エルウィンが毒矢に倒れてから、既に6時間あまりが経過していた――。
「エルウィン様……頑張って下さい!今、城では薬士達が毒の成分を調べている最中ですから!」
城から駆けつけてきたエデルガルトが意識の無いエルウィンに必死になって呼びかけている。
「そうです!エルウィン様はアイゼンシュタット城の城主なのですよ?!貴方が倒れられたら誰がこの国を守るのですか?!」
シュミットもエルウィンに声を掛け続ける。
「……」
ベッドにうつ伏せになって意識を無くし、横たわったままのエルウィン。アリアドネはその様子を震えながら見守っていたが……そっと部屋を抜け出した。
(ここにいても私は役に立たないわ……。それにエルウィン様が毒矢に倒れたのは私を庇ったせいよ。どうして私なんかを助けたのですか?私の命よりもエルウィン様の命のほうが余程尊いのに……!)
アリアドネはいたたまれなかった。
皆口には出さないが、自分のことを責めているのでは無いかと思っていたのだ。
幼い頃から、妾腹の娘としてステニウス家で虐げられていた日々を送っていたアリアドネ。自分を卑下したり、責めたりするような性格になってしまったのはある意味、仕方のないことであった。
アリアドネが宿屋から出てくると外で待機していた数人の騎士たちが駆け寄ってきた。
「アリアドネ様、どうされたのですか?」
「エルウィン様のことで何かあったのですか?!」
「ひょっとして意識が戻られたのですか?」
「いいえ……エルウィン様は、変わらず意識を失ったままです……」
絶望的な気持ちでアリアドネは首を振る。
「そうですか……」
「エルウィン様……」
騎士たちの間に重苦しい空気が流れる。
「ところでアリアドネ様。一体何方へ行かれるのですか?そろそろ日も暮れて夜になりますよ?」
1人の騎士が声を掛けてきた。
「はい。今から教会に行って、エルウィン様の為に祈りを捧げようかと思ったのです。私は……あの場にいても何のお役にも立てませんから……」
悲しげに目を伏せながらアリアドネは返事をする。
「何を仰るのですか?!アリアドネ様!」
「そうですよ!そのようなことは絶対にありません!」
口々に騎士たちは口々に声を掛けるも、アリアドネは寂しげに首を振った。
「いいえ、私を庇いさえしなければエルウィン様が毒矢に射られる事は無かったのです。それだけではありません。私がカルタン族に捕まりさえしなければ……!」
アリアドネは唇を噛んで下を向く。
その言葉に、集まった騎士たちは何も言えなくなってしまった。
「申し訳ございません……。私、教会に行ってきますね」
騎士たちに頭を下げると、アリアドネは夕暮れの中トボトボと重い足取りで教会へ向かった。
遠ざかるアリアドネの後ろ姿を黙って見守る騎士たち。
もう彼らは掛ける言葉が見つからずにいたのだった――。
****
一方、その頃アイゼンシュタット城では――。
「何だって?!毒の種類が特定出来ないだって?!一体どういうことなんだ!!」
城にある研究室にスティーブの怒声が響き渡る。
「はい、どうやらこの毒は植物由来の毒と生物由来の毒を何通りも掛け合わせて作られた毒のようです……そうなると、もう解毒薬の作りようが……」
まだ年若い、研究室の責任者の青年が項垂れる。
「貴様、ふざけるな!それではこのまま大将に死ねと言っているようなものではないか!!」
激怒したスティーブは青年の胸ぐらを掴んだ。
「そ、そんなことを言われても!わ、我々だって必死になって頑張ったのですよ!!もはや毒を作った本人から聞き出す以外……」
「黙れ!」
スティーブは青年を突き飛ばすと怒鳴り散らした。
「そんなこと出来ればとっくにしている!!毒を作った奴は服毒自殺したのだ!自分の作り上げた毒でな!四の五の言わずに、とにかく解毒薬を作り上げろ!」
「そ、そんな……!」
倒れ込む青年の前に別の青年が現れた。
「スティーブ様。我々では毒の解析にまで至りませんが……方法はあります」
「何だ?その方法とは?」
「はい。『レビアス』国には王族が所有する『生命の雫』と呼ばれる貴重な液体が保管されています。これは体内に溜まった毒素を吐き出させる効果のある液体で、解熱や解毒の効果があるそうです」
「何だと?まさかその『生命の雫』を王族に分けて貰えというのか?」
スティーブが凄む。
「はい、そうです」
「ふざけるな!!王都までどれだけの距離が有ると思う?!行って帰ってくるまでに大将の命が持つと思っているのか?!」
「ですが、他に方法はありません。引き続き我々も毒の解析を試みますが……」
「……くそっ!!」
スティーブはマントを翻し、乱暴な足取りで部屋を出て行った――。
「エルウィン様……頑張って下さい!今、城では薬士達が毒の成分を調べている最中ですから!」
城から駆けつけてきたエデルガルトが意識の無いエルウィンに必死になって呼びかけている。
「そうです!エルウィン様はアイゼンシュタット城の城主なのですよ?!貴方が倒れられたら誰がこの国を守るのですか?!」
シュミットもエルウィンに声を掛け続ける。
「……」
ベッドにうつ伏せになって意識を無くし、横たわったままのエルウィン。アリアドネはその様子を震えながら見守っていたが……そっと部屋を抜け出した。
(ここにいても私は役に立たないわ……。それにエルウィン様が毒矢に倒れたのは私を庇ったせいよ。どうして私なんかを助けたのですか?私の命よりもエルウィン様の命のほうが余程尊いのに……!)
アリアドネはいたたまれなかった。
皆口には出さないが、自分のことを責めているのでは無いかと思っていたのだ。
幼い頃から、妾腹の娘としてステニウス家で虐げられていた日々を送っていたアリアドネ。自分を卑下したり、責めたりするような性格になってしまったのはある意味、仕方のないことであった。
アリアドネが宿屋から出てくると外で待機していた数人の騎士たちが駆け寄ってきた。
「アリアドネ様、どうされたのですか?」
「エルウィン様のことで何かあったのですか?!」
「ひょっとして意識が戻られたのですか?」
「いいえ……エルウィン様は、変わらず意識を失ったままです……」
絶望的な気持ちでアリアドネは首を振る。
「そうですか……」
「エルウィン様……」
騎士たちの間に重苦しい空気が流れる。
「ところでアリアドネ様。一体何方へ行かれるのですか?そろそろ日も暮れて夜になりますよ?」
1人の騎士が声を掛けてきた。
「はい。今から教会に行って、エルウィン様の為に祈りを捧げようかと思ったのです。私は……あの場にいても何のお役にも立てませんから……」
悲しげに目を伏せながらアリアドネは返事をする。
「何を仰るのですか?!アリアドネ様!」
「そうですよ!そのようなことは絶対にありません!」
口々に騎士たちは口々に声を掛けるも、アリアドネは寂しげに首を振った。
「いいえ、私を庇いさえしなければエルウィン様が毒矢に射られる事は無かったのです。それだけではありません。私がカルタン族に捕まりさえしなければ……!」
アリアドネは唇を噛んで下を向く。
その言葉に、集まった騎士たちは何も言えなくなってしまった。
「申し訳ございません……。私、教会に行ってきますね」
騎士たちに頭を下げると、アリアドネは夕暮れの中トボトボと重い足取りで教会へ向かった。
遠ざかるアリアドネの後ろ姿を黙って見守る騎士たち。
もう彼らは掛ける言葉が見つからずにいたのだった――。
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一方、その頃アイゼンシュタット城では――。
「何だって?!毒の種類が特定出来ないだって?!一体どういうことなんだ!!」
城にある研究室にスティーブの怒声が響き渡る。
「はい、どうやらこの毒は植物由来の毒と生物由来の毒を何通りも掛け合わせて作られた毒のようです……そうなると、もう解毒薬の作りようが……」
まだ年若い、研究室の責任者の青年が項垂れる。
「貴様、ふざけるな!それではこのまま大将に死ねと言っているようなものではないか!!」
激怒したスティーブは青年の胸ぐらを掴んだ。
「そ、そんなことを言われても!わ、我々だって必死になって頑張ったのですよ!!もはや毒を作った本人から聞き出す以外……」
「黙れ!」
スティーブは青年を突き飛ばすと怒鳴り散らした。
「そんなこと出来ればとっくにしている!!毒を作った奴は服毒自殺したのだ!自分の作り上げた毒でな!四の五の言わずに、とにかく解毒薬を作り上げろ!」
「そ、そんな……!」
倒れ込む青年の前に別の青年が現れた。
「スティーブ様。我々では毒の解析にまで至りませんが……方法はあります」
「何だ?その方法とは?」
「はい。『レビアス』国には王族が所有する『生命の雫』と呼ばれる貴重な液体が保管されています。これは体内に溜まった毒素を吐き出させる効果のある液体で、解熱や解毒の効果があるそうです」
「何だと?まさかその『生命の雫』を王族に分けて貰えというのか?」
スティーブが凄む。
「はい、そうです」
「ふざけるな!!王都までどれだけの距離が有ると思う?!行って帰ってくるまでに大将の命が持つと思っているのか?!」
「ですが、他に方法はありません。引き続き我々も毒の解析を試みますが……」
「……くそっ!!」
スティーブはマントを翻し、乱暴な足取りで部屋を出て行った――。
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