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17-5 形見の品
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ミカエルとウリエルの食事を運び終えたアリアドネは緊張する面持ちでエルウィンのいる執務室の扉をノックした。
コンコン
すぐに扉が開かれてシュミットが笑顔でアリアドネを迎えた。
「お待ちしておりました、アリアドネ様」
「はい。エルウィン様に呼ばれて参りました」
「アリアドネか?中へ入れ」
部屋の奥からエルウィンの声が聞こえてくる。
「どうぞ、お入り下さい」
「はい。それでは失礼致します」
シュミットに促され、部屋に入ると執務室の机の前にエルウィンが座っていた。机の上には革製のベルトの付いたバッグが置かれている。
ベージュ色のバッグには薔薇模様の刺繍がされており、それはとても美しいデザインだった。
「アリアドネ、これを受け取ってくれ」
エルウィンは笑顔でアリアドネにバッグを指し示した。
「あの……これは……?」
「ああ。俺の母の形見のバッグだ。母はこのバッグをとても大事にしていた」
「え……ええっ?!エルウィン様のお母様のですかっ?!そ、そのような大切な品物受け取るわけにはいきません!」
慌ててアリアドネは拒否した。
(私なんかがエルウィン様のお母様が大切にしていたバッグを受け取るなんて恐れおおいことだわ!)
一方のエルウィンはてっきりアリアドネが喜ぶと思っていただけに、怪訝そうな表情を浮かべた。
「何故だ?このバッグが気に入らないのか?これはここ『アイデン』で有名なバッグ職人が手掛けた唯一の物だぞ?」
「い、いえ。こんなに素敵なバッグを見るのは初めてです。ですがエルウィン様のお母様の形見のバッグなのですよね?尚更受け取るわけには参りません」
「俺は褒美としてこのバッグもやろうと思っているのだが?」
エルウィンとアリアドネの会話は平行線を辿っている。そんな2人をシュミットは、ハラハラしながら見守っていた。
(エルウィン様は、なんて人の心に無頓着な方なのだ。ここは一つアドバイスをするしかない)
そこでシュミットは咳払いすると、エルウィンに声を掛けた。
「エルウィン様、アリアドネ様は遠慮なさっているのですよ。エルウィン様の母君の形見の品となれば、重く受け止めても無理はありません」
「何だってっ?!俺は……アリアドネにとって重たい男なのかっ?!」
目を見開くエルウィン。
「ち、違います!そのようなことは思っておりません!」
「そうですよ、そのような意味合いで私も言ったわけではありませんから!」
必死で弁明するアリアドネとシュミット。
「そうか?では……俺はアリアドネにとって、重たい男では無い…ということだな?」
「は、はい……そ、そうですね……」
何と返事をすれば良いか分からなかったアリアドネは曖昧に返事をする。それを見ながらシュミットは心の中でため息をついた。
(駄目だ……エルウィン様はすっかりアリアドネ様にとって、重たい存在になっているのかもしれない)
そんな2人の気持ちに気づくこと無く、エルウィンは続けた。
「なら受け取ってくれるな?どのみち俺には使い道のないバッグだ。母上だってきっとアリアドネに使ってもらえれば喜んでくれるに違いない。これはその……今迄の褒美なのだから、どうか受け取ってくれ」
「は、はい……では、ありがたく受け取らせて頂きます」
「ああ、是非使ってくれ。そうだ、この中には300万レニーも入っている。これでお前も自由に出来るだろう?」
その言葉にアリアドネが反応したのは言うまでもない。
(とうとう、私はお払い箱になるのね……)
「はい、本当に……ありがとうございます」
アリアドネは悲しい気持ちを押し殺し、エルウィンにお礼を述べた――。
コンコン
すぐに扉が開かれてシュミットが笑顔でアリアドネを迎えた。
「お待ちしておりました、アリアドネ様」
「はい。エルウィン様に呼ばれて参りました」
「アリアドネか?中へ入れ」
部屋の奥からエルウィンの声が聞こえてくる。
「どうぞ、お入り下さい」
「はい。それでは失礼致します」
シュミットに促され、部屋に入ると執務室の机の前にエルウィンが座っていた。机の上には革製のベルトの付いたバッグが置かれている。
ベージュ色のバッグには薔薇模様の刺繍がされており、それはとても美しいデザインだった。
「アリアドネ、これを受け取ってくれ」
エルウィンは笑顔でアリアドネにバッグを指し示した。
「あの……これは……?」
「ああ。俺の母の形見のバッグだ。母はこのバッグをとても大事にしていた」
「え……ええっ?!エルウィン様のお母様のですかっ?!そ、そのような大切な品物受け取るわけにはいきません!」
慌ててアリアドネは拒否した。
(私なんかがエルウィン様のお母様が大切にしていたバッグを受け取るなんて恐れおおいことだわ!)
一方のエルウィンはてっきりアリアドネが喜ぶと思っていただけに、怪訝そうな表情を浮かべた。
「何故だ?このバッグが気に入らないのか?これはここ『アイデン』で有名なバッグ職人が手掛けた唯一の物だぞ?」
「い、いえ。こんなに素敵なバッグを見るのは初めてです。ですがエルウィン様のお母様の形見のバッグなのですよね?尚更受け取るわけには参りません」
「俺は褒美としてこのバッグもやろうと思っているのだが?」
エルウィンとアリアドネの会話は平行線を辿っている。そんな2人をシュミットは、ハラハラしながら見守っていた。
(エルウィン様は、なんて人の心に無頓着な方なのだ。ここは一つアドバイスをするしかない)
そこでシュミットは咳払いすると、エルウィンに声を掛けた。
「エルウィン様、アリアドネ様は遠慮なさっているのですよ。エルウィン様の母君の形見の品となれば、重く受け止めても無理はありません」
「何だってっ?!俺は……アリアドネにとって重たい男なのかっ?!」
目を見開くエルウィン。
「ち、違います!そのようなことは思っておりません!」
「そうですよ、そのような意味合いで私も言ったわけではありませんから!」
必死で弁明するアリアドネとシュミット。
「そうか?では……俺はアリアドネにとって、重たい男では無い…ということだな?」
「は、はい……そ、そうですね……」
何と返事をすれば良いか分からなかったアリアドネは曖昧に返事をする。それを見ながらシュミットは心の中でため息をついた。
(駄目だ……エルウィン様はすっかりアリアドネ様にとって、重たい存在になっているのかもしれない)
そんな2人の気持ちに気づくこと無く、エルウィンは続けた。
「なら受け取ってくれるな?どのみち俺には使い道のないバッグだ。母上だってきっとアリアドネに使ってもらえれば喜んでくれるに違いない。これはその……今迄の褒美なのだから、どうか受け取ってくれ」
「は、はい……では、ありがたく受け取らせて頂きます」
「ああ、是非使ってくれ。そうだ、この中には300万レニーも入っている。これでお前も自由に出来るだろう?」
その言葉にアリアドネが反応したのは言うまでもない。
(とうとう、私はお払い箱になるのね……)
「はい、本当に……ありがとうございます」
アリアドネは悲しい気持ちを押し殺し、エルウィンにお礼を述べた――。
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