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15-14 波乱の夜会 12

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「あの女、飲み物を探していた俺にあろうことか声を掛けてきたのだ。しかも自分のことをアリアドネだと名乗って来た」

「え……?」

その言葉にアリアドネは耳を疑った。

「自分の評判が悪いことを知っていたのだろう?だからお前の名を名乗って俺に声を掛けてきたのだ。そしてバルコニーへ誘われた。俺はあの女の真意を聞き出そうと思ってついて行ったんだ……お前を連れていたのを忘れて……すまなかった」

嘘をつけないエルウィンは正直に話して項垂れた。

「エルウィン様……」

「本当にお前には悪いことをしてしまったと思っている。俺が目を離したばかりに、あんな訳の分からない仮面をつけた男に目をつけられてしまったのだろう?しかも酒に酔わされて」

「え……?あ!」

(そうだったわ。私はあの方の差し出したお酒を飲んで、その後は意識が朦朧として……)

アリアドネはすっかり記憶を無くしていた。覚えているのは青年からお酒を勧められて、口にしたところまでだった。

(私ったら……なんて迂闊な真似を……!)

「そして俺がここでミレーユと話していたら、あの男がお前を連れて現れたのだ。だから追い払ってやった。お前は俺の婚約者だと言ってな」

「婚約者……」

途端にアリアドネの顔が曇る。
エルウィンの婚約者を名乗れるような資格は無いのに、そのように呼ばれるのが心苦しくてならなかったのだ。

一方のエルウィンもアリアドネの困惑した表情を見逃さなかった。

(なんだ?その表情は?そ、そんなに俺の婚約者になるのがイヤなのか?やはり『戦場の暴君』と呼ばれる俺のことが……それほどまでに……)

けれど女性のことを苦手としていたエルウィンにとって、アリアドネは唯一傍にいて貰いたいと思える存在だった。
手放したくない、他の誰にも渡したくないと思える唯一無二の……。

「アリアドネ、俺は……」

エルウィンが口を開きかけた時――。

「クシュン!」

冷たい夜風に晒されていたアリアドネが小さなくしゃみをした。
極寒の地に慣れていたエルウィンにとって、今いる場所がどれ程寒いのか気付かなかったのだ。

「す、すまない!アリアドネ!寒いだろう?とにかく酔いも冷めたようだし、中へ入ろう」

そしてアリアドネに近付くと肩を抱き寄せた。

「!」

一瞬、驚いたアリアドネはピクリと身体をこわばらせたが……頷いた。

「はい、エルウィン様。中へ戻りましょう」


そしてエルウィンはアリアドネの肩を抱き、会場へと入って行った。



 エルウィンがアリアドネを伴って会場に戻ってくると、人々は一斉に大扉の方向を向いて拍手をしている。

「何だ?この騒ぎは?」

「さ、さぁ……何事なのでしょうか?」

アリアドネは首傾げる。
すると大扉が開かれ、拍手がやんだ。
何者かの声が響き渡り、扉の奥から2人の人物が現れた。

「国王陛下と、マクシミリアン王太子殿下の御入場です!」

何者かの声が会場内に響きわたり……エルウィンとアリアドネは目を見開いた。

国王陛下の隣に立つ男性は、先程アリアドネを抱きかかえていた青年だった――。
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