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13−11 お目付け役の不在

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「何?今、ダンスが踊れないから夜会に参加したくないと言ったのか?」

エルウィンはアリアドネが夜会を欠席したい理由がまさかダンスが原因とは思いもしなかった。

「はい…そうです」

項垂れるアリアドネ。

「何だ……そんな理由だったのか。俺はてっきり……」

(『戦場の暴君』と呼ばれて、世間から恐れられている俺と一緒に夜会に参加したくないのが理由だとばかり思っていたが……まさかダンスが原因だったとはな……)

自分のことを嫌がっているわけでは無いことを知ったエルウィンは思わず安堵の笑みが浮かんでしまった。

一方のアリアドネは夜会を欠席したいと申し出ているのにも関わらず、エルウィンの顔が笑っていることが不思議でならなかった。

「あの……エルウィン様?それで夜会の件ですが……」

「ああ、何だそれくらいのことか。そのことなら安心しろ」

エルウィンは再びワイン瓶に手を触れると、グラスに注ぎながらアリアドネに言葉を掛けた。

「そうですか。それなら……」

(良かった……欠席させてくれるのね)

アリアドネが安堵したその時……エルウィンは予想外の言葉を口にした。

「俺も踊れないから大丈夫だ」

「え?」

あまりの突拍子もない発言にアリアドネは固まった。

「踊れないから夜会に出たくないと言うのだろう。だったらダンスなど踊らなければいいだけだ。何、ただ突っ立っていればいい。俺だって踊れないんだ。だからそれくらいの事気にするな。何も強制参加じゃないのだから」

そしてエルウィンは一気にワインを流し込むように飲んだ。

「で、ですが…もし夜会に出れば、踊りの申込みがあるのではないですか?」

アリアドネはパーティーに参加したことは無いが、ステニウス家でパーティーが開催された時にメイドとして会場で働いたことがある。
その際、参加した来賓客たちは代わる代わるパートナーを変えて踊りを楽しんでいたのを見てきたのだ。

「踊りの申込み?そんなのは断ればいいだけだ。と言うか、俺の隣に立っていれば踊りに誘ってくるような輩はいるまい。仮にそんな大胆な奴がいたら俺が始末…いや、追い払ってやるから安心しろ」

「そ、そうなのですか…?それは頼もしい…限りですが……」

なんとも物騒な物言いをするエルウィンにアリアドネは引きつった笑みを浮かべる。

「そうだ。だから夜会に一緒に参加しよう。大丈夫だ、お前に群がるような男どもがいたら俺が剣の錆…いや、蹴散らしてやるから安心しろ。何、俺が一睨するだけで大抵の奴らは震え上がるのだから」

ワインを飲みながら何処までも物騒な台詞を上機嫌で語るエルウィンを見てアリアドネは思った。

ここに、お目付け役のスティーブかシュミットがいてくれれば良かったのに…と。

(やっぱりエルウィン様が無茶な行動を取らないように見守る為にも夜会には参加したほうが良さそうね…)

アリアドネは心の中でため息をつくのだった――。
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