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9-2 複雑な気持ち

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 午後3時―

 エルウィンとシュミットは執務室で仕事をしていた。

「ふ~…やっと今日の仕事が一段落ついたな…」

エルウィンは万年筆を置くと、息を吐いた。

「ええ、そうですね。よく頑張られました」

トントンと書類の束を束ねながらシュミットは笑顔でエルウィンを見る。

「何だ?その言い方は…まるで人の事を子供をあやすような言い方をして」

ジロリとエルウィンはシュミットを睨みつけた。

「いいえ、とんでもありません。本当に感心しているのですよ?」

シュミットは肩をすくめた。

「よし…それじゃ、久しぶりにあいつ等の顔でも見に行ってみるか…」

どことなく、ウキウキした様子のエルウィンを見てシュミットは思った。

(やはりここ最近、必死になって仕事を頑張られたのはミカエル様達やアリアドネ様の様子を見に行きたかったからだろうか…?)

生活の時間帯が違う為、エルウィンとミカエルたちは食事時間もずれていた。
2人の歓迎会以来、まともに顔を合わせてはいなかったのである。

「では行ってくるか…ん?何故お前まで立ち上がる?」

エルウィンは席を立ち…怪訝そうにシュミットを見た。

「はい、私もお2人のお顔を拝見しに伺おうかと思っておりまして」

「…そうか?まぁ…別に構わないが…」

「ええ、では早速伺いましょう」

「そうだな、では行くか」

こうしてエルウィンとシュミットは連れ立ってミカエルとウリエルの様子を見に行く為に部屋へと向った―。



****

ガチャッ!

「ミカエル、ウリエルッ!元気にしていたかっ?!」

エルウィンは2人の部屋に到着すると、ノックもせずに扉を開き…その瞬間、目を見開いた。

「ミカエル様、ウリエル様。御機嫌如何でしょうか…え…?」

後から部屋に入って来たシュミットも驚きの余り口が開いたままになってしまった。

何故なら部屋の中ではミカエルとウリエル、それにアリアドネとロイが丸テーブルに向かい合い、トランプをしていたからである。

「あ…!エルウィン様、シュミット様!ご、ご機嫌麗しゅうございます!」

アリアドネは手にしていたカードを慌ててテーブルの上に置くと、立ち上がって挨拶をした。

「こんにちは、エルウィン様、シュミット」
「こんにちは」

ミカエルとウリエルは笑顔で2人に挨拶をする。

「…」

一方のロイは立ち上がりはしたものの、無言で会釈をした。


「い、一体…お前たちはここで何をしていたのだ?」

エルウィンは彼等に…と言うか、アリアドネに視線を向けたまま尋ねた。

「はい、ミカエル様とウリエル様と一緒に…トランプで遊んでおりました。仕事もせずに…申し訳ございません!」

アリアドネは頭を下げた。

「ごめんなさい!僕達がリアを誘ったんです!」

「どうかリアを怒らないであげて!」

ミカエルとウリエルは必死になってエルウィンに懇願する。

「い、いや…。別に謝る必要など全く無いが…」

エルウィンはチラリとロイに視線を向けた。何故、ロイまで一緒になってトランプをしていたのか気になったからだ。

「所で、何故お前まで…」

エルウィンが言いかけた時、シュミットが口を開いた。

「ロイ、何故貴方がここにいるのです?」

その声はどことなく冷たい響きに聞こえた。

実はシュミットはスティーブから報告を受けていたのだ。
最近ロイはずっとミカエルとウリエルの部屋にいるようだ…と。

すると無表情のまま、ロイは答えた。

「俺はミカエル様とウリエル様…それにリアの専属騎士だからです」

その言葉にシュミットの眉がピクリと動く。
ロイの言葉が、何処か自分に対する挑戦の様に聞き取れてしまったからである。

「確かに君は専属護衛騎士ではあるが、一緒になってトランプで遊ぶのはどうかと思うが?」

シュミットは冷淡な表情でロイを見た。

「3人の近くにいた方が護衛しやすいからです。トランプはついでに過ぎません」

「え…?一体何を言っているのです?」

その言葉にシュミットは眉をひそめる。

「…」

一方、エルウィンはシュミットとロイのやり取りを驚いた様子で眺めていた。
何故ならロイの寡黙なことは騎士たちの間では有名な話だからである。
それなのに、今はシュミットと会話をしている。

「…分かったロイ。では今後も引き続き3人の護衛を頼む、…邪魔したな。戻るぞ、シュミット」

エルウィンはそれだけ告げると踵を返した。

「え?あ…では失礼します」

シュミットは戸惑いながらも慌ててエルウィンの後を追った―。



「エルウィン様、何故すぐに部屋を出ていかれてしまったのですか?」


前を歩くエルウィンに追いすがりながら、シュミットは尋ねた。

「…」

しかし、エルウィンはそれには答えない。

4人が仲よさげにトランプをしている姿を目にした時、居心地の悪さを感じたからだ…とは、とても口に出せなかったからである―。

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