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9-1 『氷の貴公子』の意外な一面

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 アリアドネがミカエルとウリエルの専属メイドになって、早いもので半月ほどが経過していた。
アイゼンシュタット城がある『アイデン』地方では今が尤も寒い寒冷期に入り、連日猛吹雪に覆われていた―。



  午前7時―

2つの洗面器に2人分のタオル。
そしてお湯のはいったポットをワゴンに乗せて運んできたアリアドネはミカエルとウリエルの部屋の扉をノックした。


コンコン


「ミカエル様、ウリエル様。お目覚めの時間です」

しかし、部屋の中からは何の反応も無い。そこで再度ノックをして呼びかけてみた。


コンコン


「ミカエル様、ウリエル様?」

けれど、やはり何も返事は無い。試しに部屋の扉に耳を押し当てて見るも、物音が動く気配すら感じられない。

「まだ眠ってらっしゃるのかしら…」

アリアドネは迷った。いくら子供といっても、相手は王家の信頼も厚いアイゼンシュタット家の高貴な血を引いているのだ。
返事も聞かずに部屋の扉を開けても良いのか迷っていると、背後から突然声を掛けられた。

「こんな所で何をしている?」

「キャアッ!」

何の前触れもなく、いきなり声を掛けられたアリアドネは驚きで悲鳴を上げてしまった。
慌てて振り向くと、そこには美しい…しかし相変わらず無表情で何を考えているのか分からないロイの姿がそこにあった。

「ロ、ロイ…驚かせないで?」

「何故、そんな大きな声を出すんだ?」

ロイは訳がわからないとでも言わんばかりに首を傾げる。

「そんな事は当然でしょう?誰だっていきなり後ろから声を掛けられれば驚くわ。まして貴方は…気配を感じないのだもの」

「当然だ。気配を消さなければ敵に自分の居場所を教えるようなものだからな」

「ロイ…だけど、ここは戦場でも無ければ敵地でも無いのよ?安全な城の中なのだから気配を消す必要は無いでしょう?」

するとロイは少しだけ表情を変えた。

「安全な城の中…?本当にそう思っているのか?」

「え?ええ…違うの?」

しかし、ロイはその質問に答えずにアリアドネを見た。

「何故部屋に入らない?」

「だって、ノックをしても返事がないから…」

「鍵でもかかっているのか?」

「いえ…多分かかってはいないと思うのだけど…」

「だったら入ればいい」

ロイはノブを掴むと、ガチャリと回して扉を開けてしまった。

「あ、ロイッ!」

アリアドネが止める間もなく、ロイはズカズカと部屋に入っていくとミカエルとウリエルのベッドに近付いていく。

「ま、待ってっ!ロイッ!」

アリアドネはワゴンを押しながら慌てて後を追った。

「…」

ベッドに近付いたロイは無言で覗き込むと、そこには気持ちよさそうに眠りについているミカエルとウリエルの姿があった。

「いつまで眠っている。起きるんだ」

ロイはあろうことか、2人が掛けていた羽毛の上掛けを一気に引き剥がしてしまった。

「うわっ!」
「な、何っ?!」

突然上掛けを剥がされたミカエルとウリエルは一瞬で目が覚め、飛び起きた。

「キャアッ!ロ、ロイッ!ミカエル様とウリエル様に何てことをするのっ?!」

アリアドネはロイのあまりの非礼さに悲鳴をあげ、ワゴンから手を離すとミカエルとウリエルの元へ駆け寄った。

「ミカエル様、ウリエル様。大変申し訳ございませんでしたっ!驚かれましたよね?」

アリアドネは頭を下げて謝罪した。

「う、うん…。かなり驚いたよ…」
「び、びっくりした…」

ミカエルとウリエルは交互に返事をする。

「ロイ、お2人に何てことをするの?謝って頂戴?」

アリアドネはロイを少しだけ睨んだ。

「何故謝る?この2人はお前が朝の支度で呼んでるのに起きなかったんだぞ?それを起こしただけだろう?」

全く悪びれた素振りも無くロイは返事をする。

「だけど…」

アリアドネがいいかけた時、ミカエルが謝ってきた。

「ごめんなさい!リアッ!ロイッ!僕達…昨夜遅くまで2人でトランプをして遊んでたんだ。だから寝るのが遅くなって起きれなかったんだ」

「ごめんなさい、リア。ロイ」

ウリエルも申し訳無さげに謝ってくる。

「ミカエル様、ウリエル様…宜しいのですよ?私に謝る必要はありません。ですが…おふたりはトランプがお好きだったのですね?」

アリアドネは笑みを浮かべながら尋ねた。

「うん!大好きだよ」

「そうだ、後でリアも一緒にやらない?」

ウリエルは嬉しそうに返事をし、ミカエルはトランプに誘ってきた。

「え…。で、でも私は…」

すると、ロイが口を挟んできた。

「俺もトランプに混ぜてくれ」

「「「ええっ?!」」」

3人が驚きの声を挙げたのは言うまでも無かった―。
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