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5-6 不機嫌なエルウィン
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ガチャッ!
乱暴に執務室の扉が開かれ、書類に目を落としていたシュミットは驚いて顔を上げた。見ると、扉の前にはエルウィンが立っていた。
「エルウィン様?随分早いお戻りでしたね。あれ程意気込んで仕事場に行かれたので、もっとゆっくりされてくるのかと思っておりましたが?」
バンッ!
しかしエルウィンはシュミットの問いかけには答えず無言でドアを乱暴に閉めた。
「エルウィン様…?」
エルウィンはズカズカと大股で書斎机に向かい、ドサリと椅子に座ると腕組みをして不機嫌そうな顔をしている。
(ははぁん…これは何か面白くない事があったな…?)
子供の頃から付き合いのある2人だ。エルウィンの様子がおかしいことにはすぐ気付く。
「エルウィン様、何かお飲み物でも持って参りましょうか?紅茶とコーヒーではどちらが宜しいでしょうか?」
「…なら紅茶にしてくれ。ブランデーをたっぷり淹れてな」
相変わらず仏頂面で答えるエルウィン。
「何ですって?ブランデーたっぷりの紅茶?それは駄目です!」
あまりの発言にこれには流石のシュミットも驚いた。
「いいだろう?!ブランデー入りの紅茶位!ケチケチするなっ!」
「私は別にケチだから申しているのではありません!こんなに仕事が溜まっているのに昼間からブランデーなんておやめください!」
シュミットが何故ここまで反対するかと言うと、これには訳があった。
ここ、『アイデン』は世界中でも稀に無い程に冬が厳しい場所である。その為、人々は度数の強いアルコールを好んで飲んでいる。当然ここで製造されたブランデーはかなりの強さなのだ。仮に酒に弱い女性が一口でも飲もうものなら、あっと言う間に酔い潰れてしまう程である。
「チッ…相変わらず堅物人間め…ならいい。コーヒーで我慢してやる」
舌打ちしながらエルウィンにシュミットは笑顔で答えた。
「はい、かしこまりました。コーヒーですね?少々お待ち下さい」
シュミットは立ち上がると部屋を出て行った。
自らコーヒーの準備をする為に…。
****
「えっ?!シュミット様が自らコーヒーの準備をされに来たのですか?!」
白いコックコート姿に赤毛の男が驚きの表情を浮かべる。彼はアイゼンシュタット城の厨房の責任者だった。
「ええ、そうです。ジェレミー、忙しいところ悪いですがお湯を沸かして頂けませんか?」
「ええ。そりゃお湯ぐらいすぐに沸かしますよ。お待ち下さい」
ジェレミーは返事をすると厨房の奥へと向かった。厨房では10人前後の料理人達が皆、忙しそうに食事の準備を行っている。
シュミットはお湯が沸くのを待つ間、ティーセットの準備を始めた―。
****
シュミットはワゴンを押して長い廊下を歩いていた。すると、丁度向かい側から剣の訓練を終えたスティーブがこちらへ向かってやって来た。
「ん?シュミット。お前、何所に行ってたんだ?」
足を止めたシュミットは答えた。
「ああ、エルウィン様にコーヒーを淹れて差し上げようかと思ってな」
「え?それって…お前が淹れたコーヒーを大将が飲むって事だよな?」
シュミットがコーヒーを上手に淹れる事が出来ると言う話はアイデンシュタット城では有名だった。そしてスティーブはコーヒーが大好きだったのだ。
「勿論そうだ」
頷くシュミット。
「なら執務室へ行けばお前の淹れたコーヒーを俺も飲めるって事だよな?」
「まさか…ついてくるつもりか?」
シュミットは眉をひそめた。
「ああ、勿論だ。いいいじゃないか~ケチケチするなって」
「ケチケチ…」
「何だ?どうかしたのか?」
「いや、先程エルウィン様に飲物のリクエストを尋ねたところ、ブランデーたっぷりの紅茶を所望されたのだ。勿論、断ったがな」
「げっ!昼間から酒を希望するとは…虫の居所が悪そうだな?」
「ああ、そうなんだ。下働きの者達に自らハンドクリームを手渡しに行くと言って、機嫌良さそうに出て行ったのに…戻ってきた時は不機嫌だったんだ」
「何?ハンドクリーム?」
スティーブの眉が上がる。
「…これは面白い事が起きているかもしれないな…」
スティーブのつぶやきにシュミットは首をひねる。
「面白い?それは違うぞ。今エルウィン様は不機嫌なんだ」
「いいから、いいから!早く大将の所へ行こうぜ!折角の湯がぬるくなるだろう?」
「ああ、そうだな」
そして男2人は足早に執務室を目指した―。
乱暴に執務室の扉が開かれ、書類に目を落としていたシュミットは驚いて顔を上げた。見ると、扉の前にはエルウィンが立っていた。
「エルウィン様?随分早いお戻りでしたね。あれ程意気込んで仕事場に行かれたので、もっとゆっくりされてくるのかと思っておりましたが?」
バンッ!
しかしエルウィンはシュミットの問いかけには答えず無言でドアを乱暴に閉めた。
「エルウィン様…?」
エルウィンはズカズカと大股で書斎机に向かい、ドサリと椅子に座ると腕組みをして不機嫌そうな顔をしている。
(ははぁん…これは何か面白くない事があったな…?)
子供の頃から付き合いのある2人だ。エルウィンの様子がおかしいことにはすぐ気付く。
「エルウィン様、何かお飲み物でも持って参りましょうか?紅茶とコーヒーではどちらが宜しいでしょうか?」
「…なら紅茶にしてくれ。ブランデーをたっぷり淹れてな」
相変わらず仏頂面で答えるエルウィン。
「何ですって?ブランデーたっぷりの紅茶?それは駄目です!」
あまりの発言にこれには流石のシュミットも驚いた。
「いいだろう?!ブランデー入りの紅茶位!ケチケチするなっ!」
「私は別にケチだから申しているのではありません!こんなに仕事が溜まっているのに昼間からブランデーなんておやめください!」
シュミットが何故ここまで反対するかと言うと、これには訳があった。
ここ、『アイデン』は世界中でも稀に無い程に冬が厳しい場所である。その為、人々は度数の強いアルコールを好んで飲んでいる。当然ここで製造されたブランデーはかなりの強さなのだ。仮に酒に弱い女性が一口でも飲もうものなら、あっと言う間に酔い潰れてしまう程である。
「チッ…相変わらず堅物人間め…ならいい。コーヒーで我慢してやる」
舌打ちしながらエルウィンにシュミットは笑顔で答えた。
「はい、かしこまりました。コーヒーですね?少々お待ち下さい」
シュミットは立ち上がると部屋を出て行った。
自らコーヒーの準備をする為に…。
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「えっ?!シュミット様が自らコーヒーの準備をされに来たのですか?!」
白いコックコート姿に赤毛の男が驚きの表情を浮かべる。彼はアイゼンシュタット城の厨房の責任者だった。
「ええ、そうです。ジェレミー、忙しいところ悪いですがお湯を沸かして頂けませんか?」
「ええ。そりゃお湯ぐらいすぐに沸かしますよ。お待ち下さい」
ジェレミーは返事をすると厨房の奥へと向かった。厨房では10人前後の料理人達が皆、忙しそうに食事の準備を行っている。
シュミットはお湯が沸くのを待つ間、ティーセットの準備を始めた―。
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シュミットはワゴンを押して長い廊下を歩いていた。すると、丁度向かい側から剣の訓練を終えたスティーブがこちらへ向かってやって来た。
「ん?シュミット。お前、何所に行ってたんだ?」
足を止めたシュミットは答えた。
「ああ、エルウィン様にコーヒーを淹れて差し上げようかと思ってな」
「え?それって…お前が淹れたコーヒーを大将が飲むって事だよな?」
シュミットがコーヒーを上手に淹れる事が出来ると言う話はアイデンシュタット城では有名だった。そしてスティーブはコーヒーが大好きだったのだ。
「勿論そうだ」
頷くシュミット。
「なら執務室へ行けばお前の淹れたコーヒーを俺も飲めるって事だよな?」
「まさか…ついてくるつもりか?」
シュミットは眉をひそめた。
「ああ、勿論だ。いいいじゃないか~ケチケチするなって」
「ケチケチ…」
「何だ?どうかしたのか?」
「いや、先程エルウィン様に飲物のリクエストを尋ねたところ、ブランデーたっぷりの紅茶を所望されたのだ。勿論、断ったがな」
「げっ!昼間から酒を希望するとは…虫の居所が悪そうだな?」
「ああ、そうなんだ。下働きの者達に自らハンドクリームを手渡しに行くと言って、機嫌良さそうに出て行ったのに…戻ってきた時は不機嫌だったんだ」
「何?ハンドクリーム?」
スティーブの眉が上がる。
「…これは面白い事が起きているかもしれないな…」
スティーブのつぶやきにシュミットは首をひねる。
「面白い?それは違うぞ。今エルウィン様は不機嫌なんだ」
「いいから、いいから!早く大将の所へ行こうぜ!折角の湯がぬるくなるだろう?」
「ああ、そうだな」
そして男2人は足早に執務室を目指した―。
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