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4-5 スティーブの思い
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「スティーブ様。おはようございます」
アリアドネはスティーブに頭を下げた。
「うん、おはよう。アリアドネ」
スティーブは笑顔で返事をする。
「あ…おはようございます。騎士様…」
ダリウスは何処かバツが悪そうにスティーブに挨拶をした。
「ああ、おはよう…」
スティーブは不機嫌そうにダリウスを見ると言った。
「君は何でこんな所にいるんだ?ここは女性が多く働く作業場だぞ?男性たちは今日は別の作業場で小麦を挽く仕事をしているって言うのに…何をしているんだ?」
「すみません、アリアドネの手荒れが酷かったので…自分で作ったハンドクリームをあげたかったからです」
「え…?そう…だったのか?」
ダリウスの言葉にスティーブはアリアドネを見た。
「は、はい…」
アリアドネは困ったように返事をした。
(どうしよう…ただの手荒れなのに…)
「アリアドネ。これをあげるから毎日塗りなよ。また無くなったらあげるから」
スティーブがアリアドネに声を掛けてきた。
「でも…本当にいいの?これって作るのはお金も手間もかかるんじゃないの?」
「いいんだよ。これくらいどうって事ないさ」
そしてダリウスはあろう事か、スティーブの前でアリアドネの頭を撫でた。
「!」
その様子を見たスティーブは驚いた。
(な、何なんだ…アイツ…!俺に当てつけてるのか?!)
「ダ、ダリウス…」
突然頭を撫でられてアリアドネは顔が赤くなってしまった。
「それじゃ、俺はもう行きます。お騒がせしました」
ダリウスはスティーブに頭を下げると、次にアリアドネを見た。
「アリアドネ、またね」
そして笑みを浮かべると、そのまま背を向けて地下通路を走り去って行った。
「…ダリウスって言うのかい?あの男の名前は」
スティーブが不意にアリアドネに話しかけてきた。
「はい、そうです。年も私と近いので…お友達になりました」
アリアドネはもらったハンドクリームを大切そうにポケットにしまった。
「友達…か。良かったじゃないか」
笑みを浮かべながらスティーブは返事をしたが…。
(友達だって?アリアドネはそう思っているかもしれないが…。男の方は絶対違うな。アリアドネに好意を寄せているに違いない)
ハンドクリームは蜜蝋で作られているのでかなり高級で限られた人々だけが使用出来なかった。一般的に手荒れにはオリーブオイルを塗るのが主流となっている。平民がハンドクリームをプレゼントするということは並大抵の物では無いことをスティーブは知っていた。
「あの、それでは私も仕事場に戻りますね」
アリアドネは頭を下げて、階段を登るた為にスティーブの側を通りかかった時…。
「アリアドネ」
不意にスティーブは呼びかけた。
「はい?」
「俺からシュミットに話してみようか?」
「何をですか?」
「アリアドネは元々、エルウィン様に嫁いで来る為にこの城へ来ているんだ。それなのに…あかぎれが出来るほど働くなんて…。本来なら城内で静かに暮らせる立場にあるのに…」
スティーブはすまなそうに言う。
「ですが、私は城で暮らすことは出来ません。エルウィン様に見つかったら大事になってしまいますから。自分の方から下働きとして置いてくださるようにシュミット様にお願いしたのでこれでいいのです。それに皆さんとても良い方たちばかりですし、私は働く事が好きなので少しも苦ではありません」
アリアドネは笑みを浮かべて答えた。
「だが…」
それでもスティーブはアリアドネが気の毒だった。仮にも伯爵令嬢であり、エルウィンの妻となるべく、ヨゼフとたった2人きりで半月以上も旅を続けてここまで嫁いできたのに、すぐに追い出された挙げ句…あかぎれが出来るまで働いているアリアドネの力になりたかった。
「心配して下さってありがとうございます。私はまだ若いので大丈夫です。その代わり…ヨゼフさんの事を気にかけて頂けますか?私のせいでヨゼフさんまで巻き込んでしまったので…申し訳なくて…」
うつむき加減にアリアドネは言った。近頃ヨゼフは寒さで腰痛が悪化してあまり働くことが出来ない身体になってしまったと聞かされていたからだ。
「…分かった。ヨゼフさんの事は気にかけておくよ」
アリアドネを安心させる為にスティーブは頷いた。
「本当ですか?ありがとうございます。それでは失礼致します」
スティーブに丁寧に頭を下げると、アリアドネは階段を登って行った。
「…」
その後姿をスティーブは黙って見つめていたいが…。
(駄目だ、やっぱりシュミットに一言、物言いに行こう!)
スティーブはマントを翻し、アリアドネとは反対方向に歩き始めた―。
アリアドネはスティーブに頭を下げた。
「うん、おはよう。アリアドネ」
スティーブは笑顔で返事をする。
「あ…おはようございます。騎士様…」
ダリウスは何処かバツが悪そうにスティーブに挨拶をした。
「ああ、おはよう…」
スティーブは不機嫌そうにダリウスを見ると言った。
「君は何でこんな所にいるんだ?ここは女性が多く働く作業場だぞ?男性たちは今日は別の作業場で小麦を挽く仕事をしているって言うのに…何をしているんだ?」
「すみません、アリアドネの手荒れが酷かったので…自分で作ったハンドクリームをあげたかったからです」
「え…?そう…だったのか?」
ダリウスの言葉にスティーブはアリアドネを見た。
「は、はい…」
アリアドネは困ったように返事をした。
(どうしよう…ただの手荒れなのに…)
「アリアドネ。これをあげるから毎日塗りなよ。また無くなったらあげるから」
スティーブがアリアドネに声を掛けてきた。
「でも…本当にいいの?これって作るのはお金も手間もかかるんじゃないの?」
「いいんだよ。これくらいどうって事ないさ」
そしてダリウスはあろう事か、スティーブの前でアリアドネの頭を撫でた。
「!」
その様子を見たスティーブは驚いた。
(な、何なんだ…アイツ…!俺に当てつけてるのか?!)
「ダ、ダリウス…」
突然頭を撫でられてアリアドネは顔が赤くなってしまった。
「それじゃ、俺はもう行きます。お騒がせしました」
ダリウスはスティーブに頭を下げると、次にアリアドネを見た。
「アリアドネ、またね」
そして笑みを浮かべると、そのまま背を向けて地下通路を走り去って行った。
「…ダリウスって言うのかい?あの男の名前は」
スティーブが不意にアリアドネに話しかけてきた。
「はい、そうです。年も私と近いので…お友達になりました」
アリアドネはもらったハンドクリームを大切そうにポケットにしまった。
「友達…か。良かったじゃないか」
笑みを浮かべながらスティーブは返事をしたが…。
(友達だって?アリアドネはそう思っているかもしれないが…。男の方は絶対違うな。アリアドネに好意を寄せているに違いない)
ハンドクリームは蜜蝋で作られているのでかなり高級で限られた人々だけが使用出来なかった。一般的に手荒れにはオリーブオイルを塗るのが主流となっている。平民がハンドクリームをプレゼントするということは並大抵の物では無いことをスティーブは知っていた。
「あの、それでは私も仕事場に戻りますね」
アリアドネは頭を下げて、階段を登るた為にスティーブの側を通りかかった時…。
「アリアドネ」
不意にスティーブは呼びかけた。
「はい?」
「俺からシュミットに話してみようか?」
「何をですか?」
「アリアドネは元々、エルウィン様に嫁いで来る為にこの城へ来ているんだ。それなのに…あかぎれが出来るほど働くなんて…。本来なら城内で静かに暮らせる立場にあるのに…」
スティーブはすまなそうに言う。
「ですが、私は城で暮らすことは出来ません。エルウィン様に見つかったら大事になってしまいますから。自分の方から下働きとして置いてくださるようにシュミット様にお願いしたのでこれでいいのです。それに皆さんとても良い方たちばかりですし、私は働く事が好きなので少しも苦ではありません」
アリアドネは笑みを浮かべて答えた。
「だが…」
それでもスティーブはアリアドネが気の毒だった。仮にも伯爵令嬢であり、エルウィンの妻となるべく、ヨゼフとたった2人きりで半月以上も旅を続けてここまで嫁いできたのに、すぐに追い出された挙げ句…あかぎれが出来るまで働いているアリアドネの力になりたかった。
「心配して下さってありがとうございます。私はまだ若いので大丈夫です。その代わり…ヨゼフさんの事を気にかけて頂けますか?私のせいでヨゼフさんまで巻き込んでしまったので…申し訳なくて…」
うつむき加減にアリアドネは言った。近頃ヨゼフは寒さで腰痛が悪化してあまり働くことが出来ない身体になってしまったと聞かされていたからだ。
「…分かった。ヨゼフさんの事は気にかけておくよ」
アリアドネを安心させる為にスティーブは頷いた。
「本当ですか?ありがとうございます。それでは失礼致します」
スティーブに丁寧に頭を下げると、アリアドネは階段を登って行った。
「…」
その後姿をスティーブは黙って見つめていたいが…。
(駄目だ、やっぱりシュミットに一言、物言いに行こう!)
スティーブはマントを翻し、アリアドネとは反対方向に歩き始めた―。
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