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4-4 ダリウス
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領民達がアイゼンシュタット城へ入城して5日が経過していた―。
外はすっかり雪が深まり、連日大雪が降り続いていた。
「本当にこんなに雪が降るなんて思わなかったわ…」
仕事場で亜麻を紡ぎながらアリアドネは窓の外を眺めながらぽつりと言った。すると一緒に亜麻を紡いでいた女性が声を掛けて来た。
「そう言えばあんたはこの城で働き始めてからまだ日が浅いんだったわよね?」
この女性は越冬する為に領地からやって来た子育て中の女性だった。
「はい、そうなんです。仕事場が温かいのは助かりますけど…厳しい冬の環境にはまだ慣れてなくて…」
そういうアリアドネの両手は酷いあかぎれが出来ている。
「おやおや…可哀相に…。そんな手で亜麻を紡いだら手荒れが悪化するじゃないの。ここは私達がやるから、あんたは別の作業に入ったらどうだい?」
年老いた女性が声を掛けて来た。他にも数名の女性達が亜麻を紡ぐ仕事を行っていたが、彼女たちは『アイデン』の環境に慣れているのだろう。手荒れをしている女性は誰一人いなかった。
「ええ、でも…」
するとその時―。
「アリアドネーッ!」
アリアドネの名前を呼びながら、駆け寄って来る1人の人物がいた。その人物はダリウスだった。
「やぁ、アリアドネ。今日はここで仕事をしていたんだね?探したよ」
ダリウスが笑顔で話しかけて来た。
「こんにちは、ダリウス。ええ、今日は亜麻を紡ぐ当番日なの」
アリアドネは作業の手を止めずに言った。
「でも…そんなあかぎれの手でやっているのかい?痛むだろう?」
ダリウスはアリアドネが酷いあかぎれが出来ている事を知っていた。
「え、ええ。恥ずかしいわ。軟な手よね」
思わずアリアドネは顔を赤らめた。すると1人の女性が声を掛けて来た。
「ダリウス、アリアドネに用があったんだろう?」
「ええ、ちょっと…あの、アリアドネを借りて行っていいですか?ちょと話があって…」
ダリウスは他の女性達に声を掛けた。
「ああ、どうぞ」
「ここは私達がやっておくよ」
「行ってらっしゃい」
女性達は意味深な笑顔を浮かべながらアリアドネとダリウスに声を掛ける。
「え…?でも、お仕事が…」
しかし、ダリウスが言った。
「行こう、皆ああ言ってるんだから。」
「え、ええ…。皆さん、すみません」
アリアドネは立ち上がると女性たちに言った。
「よし、それじゃ行こう」
突然ダリウスはアリアドネの右手を繋いでくると、地下階段を目指して歩き出した。
「…」
そして、そんな様子を気難し気な様子でのぞき見している人物がいたことに、当然2人は気付く事は無かった―。
****
「あの…ダリウス。一体何所へ行くの?」
ダリウスに手を引かれて地下階段を下りながらアリアドネは声を掛けた。
「うん。人目につきたくなかったからね」
ダリウスはアリアドネを振り返ると返事をする。
「え…?人目に…?」
(一体どういう事なのかしら…?)
やがて、地下へ続く階段を下り、松明で照らされた地下通路に出るとダリウスはアリアドネを見た。
「よし。ここならいいかな…」
「どうしたの?」
するとダリウスはポケットから小さな容器を取り出し、蓋を開けた。中にはクリームが入っている。
「それは何?」
アリアドネの問いにダリウスは答えた。
「これはね、俺が作ったハンドクリームさ。手荒れに良く効くんだよ。ただ、あまり量が無いから他の人達の前では見せられなかったんだよ」
「そうだったの?まさか…それで私をここに?」
ダリウスは頷いた。
「ああ、そうさ。アリアドネ、手を出してごらん」
「え?ええ」
言われるまま素直に手を出すアリアドネ。その小さな手は酷いあかぎれが出来ており、今にも血が滲みそうになっている。すると突然ダリウスはアリアドネの手を取ると自らクリームを塗り始めた。
「ダ、ダリウス。じ、自分で塗れるから…」
あまりの突然の事にアリアドネは気恥ずかしくなり、真っ赤になりながら声を掛けた。しかし、ダリウスの耳にはアリアドネの訴えは耳に入っていない様子だった。
「可哀相に…こんなに手荒れが酷いなんて…俺だったら…こんな目に…」
しかし、最後の方は何と言ったのか聞き取れなかった。
「え…?ダリウス?今…何て言ったの?」
アリアドネが声を掛けたその時―。
「こんな場所に女性を引っ張り込むなんてあまり感心しないな」
背後で突然声が聞こえた。
「え?」
その声に驚いて振り向くと、階段の下でこちらをじっと見ているスティーブの姿がそこにあった―。
外はすっかり雪が深まり、連日大雪が降り続いていた。
「本当にこんなに雪が降るなんて思わなかったわ…」
仕事場で亜麻を紡ぎながらアリアドネは窓の外を眺めながらぽつりと言った。すると一緒に亜麻を紡いでいた女性が声を掛けて来た。
「そう言えばあんたはこの城で働き始めてからまだ日が浅いんだったわよね?」
この女性は越冬する為に領地からやって来た子育て中の女性だった。
「はい、そうなんです。仕事場が温かいのは助かりますけど…厳しい冬の環境にはまだ慣れてなくて…」
そういうアリアドネの両手は酷いあかぎれが出来ている。
「おやおや…可哀相に…。そんな手で亜麻を紡いだら手荒れが悪化するじゃないの。ここは私達がやるから、あんたは別の作業に入ったらどうだい?」
年老いた女性が声を掛けて来た。他にも数名の女性達が亜麻を紡ぐ仕事を行っていたが、彼女たちは『アイデン』の環境に慣れているのだろう。手荒れをしている女性は誰一人いなかった。
「ええ、でも…」
するとその時―。
「アリアドネーッ!」
アリアドネの名前を呼びながら、駆け寄って来る1人の人物がいた。その人物はダリウスだった。
「やぁ、アリアドネ。今日はここで仕事をしていたんだね?探したよ」
ダリウスが笑顔で話しかけて来た。
「こんにちは、ダリウス。ええ、今日は亜麻を紡ぐ当番日なの」
アリアドネは作業の手を止めずに言った。
「でも…そんなあかぎれの手でやっているのかい?痛むだろう?」
ダリウスはアリアドネが酷いあかぎれが出来ている事を知っていた。
「え、ええ。恥ずかしいわ。軟な手よね」
思わずアリアドネは顔を赤らめた。すると1人の女性が声を掛けて来た。
「ダリウス、アリアドネに用があったんだろう?」
「ええ、ちょっと…あの、アリアドネを借りて行っていいですか?ちょと話があって…」
ダリウスは他の女性達に声を掛けた。
「ああ、どうぞ」
「ここは私達がやっておくよ」
「行ってらっしゃい」
女性達は意味深な笑顔を浮かべながらアリアドネとダリウスに声を掛ける。
「え…?でも、お仕事が…」
しかし、ダリウスが言った。
「行こう、皆ああ言ってるんだから。」
「え、ええ…。皆さん、すみません」
アリアドネは立ち上がると女性たちに言った。
「よし、それじゃ行こう」
突然ダリウスはアリアドネの右手を繋いでくると、地下階段を目指して歩き出した。
「…」
そして、そんな様子を気難し気な様子でのぞき見している人物がいたことに、当然2人は気付く事は無かった―。
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「あの…ダリウス。一体何所へ行くの?」
ダリウスに手を引かれて地下階段を下りながらアリアドネは声を掛けた。
「うん。人目につきたくなかったからね」
ダリウスはアリアドネを振り返ると返事をする。
「え…?人目に…?」
(一体どういう事なのかしら…?)
やがて、地下へ続く階段を下り、松明で照らされた地下通路に出るとダリウスはアリアドネを見た。
「よし。ここならいいかな…」
「どうしたの?」
するとダリウスはポケットから小さな容器を取り出し、蓋を開けた。中にはクリームが入っている。
「それは何?」
アリアドネの問いにダリウスは答えた。
「これはね、俺が作ったハンドクリームさ。手荒れに良く効くんだよ。ただ、あまり量が無いから他の人達の前では見せられなかったんだよ」
「そうだったの?まさか…それで私をここに?」
ダリウスは頷いた。
「ああ、そうさ。アリアドネ、手を出してごらん」
「え?ええ」
言われるまま素直に手を出すアリアドネ。その小さな手は酷いあかぎれが出来ており、今にも血が滲みそうになっている。すると突然ダリウスはアリアドネの手を取ると自らクリームを塗り始めた。
「ダ、ダリウス。じ、自分で塗れるから…」
あまりの突然の事にアリアドネは気恥ずかしくなり、真っ赤になりながら声を掛けた。しかし、ダリウスの耳にはアリアドネの訴えは耳に入っていない様子だった。
「可哀相に…こんなに手荒れが酷いなんて…俺だったら…こんな目に…」
しかし、最後の方は何と言ったのか聞き取れなかった。
「え…?ダリウス?今…何て言ったの?」
アリアドネが声を掛けたその時―。
「こんな場所に女性を引っ張り込むなんてあまり感心しないな」
背後で突然声が聞こえた。
「え?」
その声に驚いて振り向くと、階段の下でこちらをじっと見ているスティーブの姿がそこにあった―。
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