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1−20 怒りのエルウィン
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エルウィンの執務室の前に立ったシュミットとスティーブ。
「おい、気をつけろよ?大将はえらく御冠だ。頼むからくれぐれもこれ以上怒らせないでくれよ」
スティーブがシュミットの耳元で囁く。
「ああ…分かってるって。その代わり…いいか?俺がエルウィン様に話をする間…何があってもお前は反論するなよ?」
シュミットはスティーブを見た。
「ああ、分かった。お前に任せるよ」
うなずくスティーブ。
「よし、では我が主君に挨拶するとしよう」
シュミットは一度深呼吸をし、姿勢を正すと扉をノックした。
コンコン
『誰だ?』
明らかに不機嫌そうな声が部屋の中から聞こえてくる。
「エルウィン様、私です。シュミットです」
『何っ?!シュミットかっ?!中へ入れっ!』
「はい、失礼致します」
カチャ…
シュミットが扉を開けた瞬間―
ヒュッ!
何かが空を切る音が聞こえた。
バシッ!!
シュミットの眼前に飛んできたのは万年筆だった。彼はそれを自分の額にぶつかる寸前、右手で掴んだのだ。
「ひえぇぇぇ…」
あまりの衝撃的な光景にスティーブが青ざめた顔でシュミットを見ている。
「…チッ!受け止めたか…」
ペンを投げつけたままの姿勢でエルウィンは舌打ちした。
「いけませんねぇ…エルウィン様。この様に大事な万年筆を投げつけては…これらの物品も国王陛下から支給されている大切な品ですよ?」
シュミットは静かに言うと、受け止めた万年筆を自分の着ているウェストコートの胸ポケットに挿した。
「うるさいっ!それよりシュミット…お前は朝から今迄、こんな長い時間勝手に城を開けて一体何処へ行っていたのだっ?!おかげで書類は山積みだ!俺が事務処理が苦手なのは知っているだろうっ?!」
書類の山をバンバン叩きながらエルウィンはシュミットに怒鳴りつけた。
「…申し訳ございません。どうしてもスティーブと出掛けなければならない用事がありましたので」
「え?!お、俺っ?!」
スティーブが目を見開いてシュミットを見た。
「何?この忙しい時に…お前がシュミットを連れ出したのか?」
エルウィンは両手を組み、顎を乗せるとジロリとスティーブを睨みつけた。
「え?あ、あの…ぉ、俺は…」
(何とかしてくれっ!シュミットッ!)
スティーブは助けを求めるように隣に立つシュミットに目で訴えた。するとシュミットは一歩前に進み出ると口を開いた。
「実はスティーブに、もうすぐ厳しい冬が訪れるので近隣の宿場町の様子を見に行こうと誘われたのです。薪の準備や食料貯蔵は十分なのか…もし不足しているようなら城から備蓄してある食料や薪を領民達に分け与える必要がありますからね」
「…」
その話を黙って聞き終えたエルウィンは考え込むように言った。
「うむ…確かにそうだな。厳しい冬を乗り切るためには我々で協力しあわなければならないからな。それで領民達の暮らしぶりはどうだ?無事に冬を乗り切れそうか?」
「ええ、ご安心下さい。何処の宿場町が何をどのくらい必要としているのか全て調べ上げて来ましたので明日、手配する予定です」
「そうか…なら良かった」
エルウィンはため息をつき、背もたれに寄りかかった。
近隣諸国からは『暴君』と呼ばれ、恐れられているエルウィンであったが、その反面彼は領民思いの城主だったのだ。
「それで、エルウィン様。私からもお話があるのですが…」
シュミットが言いかけると、エルウィンが口を挟んできた。
「いやっ!まだだっ!まだ俺の話は終わっていないぞ!」
エルウィンは再び声を荒げると言った。
「おい!一体どういう事なのだ!本日、輿入れに来たと言うふざけた連中がこの城にやってきたんだぞ!しかも相手の女はステニウス伯爵の娘のミレーユではなく、伯爵の妾腹の娘だったんぞっ!!」
「え?何ですって?」
「え…?」
シュミットとスティーブはその話に耳を疑った―。
「おい、気をつけろよ?大将はえらく御冠だ。頼むからくれぐれもこれ以上怒らせないでくれよ」
スティーブがシュミットの耳元で囁く。
「ああ…分かってるって。その代わり…いいか?俺がエルウィン様に話をする間…何があってもお前は反論するなよ?」
シュミットはスティーブを見た。
「ああ、分かった。お前に任せるよ」
うなずくスティーブ。
「よし、では我が主君に挨拶するとしよう」
シュミットは一度深呼吸をし、姿勢を正すと扉をノックした。
コンコン
『誰だ?』
明らかに不機嫌そうな声が部屋の中から聞こえてくる。
「エルウィン様、私です。シュミットです」
『何っ?!シュミットかっ?!中へ入れっ!』
「はい、失礼致します」
カチャ…
シュミットが扉を開けた瞬間―
ヒュッ!
何かが空を切る音が聞こえた。
バシッ!!
シュミットの眼前に飛んできたのは万年筆だった。彼はそれを自分の額にぶつかる寸前、右手で掴んだのだ。
「ひえぇぇぇ…」
あまりの衝撃的な光景にスティーブが青ざめた顔でシュミットを見ている。
「…チッ!受け止めたか…」
ペンを投げつけたままの姿勢でエルウィンは舌打ちした。
「いけませんねぇ…エルウィン様。この様に大事な万年筆を投げつけては…これらの物品も国王陛下から支給されている大切な品ですよ?」
シュミットは静かに言うと、受け止めた万年筆を自分の着ているウェストコートの胸ポケットに挿した。
「うるさいっ!それよりシュミット…お前は朝から今迄、こんな長い時間勝手に城を開けて一体何処へ行っていたのだっ?!おかげで書類は山積みだ!俺が事務処理が苦手なのは知っているだろうっ?!」
書類の山をバンバン叩きながらエルウィンはシュミットに怒鳴りつけた。
「…申し訳ございません。どうしてもスティーブと出掛けなければならない用事がありましたので」
「え?!お、俺っ?!」
スティーブが目を見開いてシュミットを見た。
「何?この忙しい時に…お前がシュミットを連れ出したのか?」
エルウィンは両手を組み、顎を乗せるとジロリとスティーブを睨みつけた。
「え?あ、あの…ぉ、俺は…」
(何とかしてくれっ!シュミットッ!)
スティーブは助けを求めるように隣に立つシュミットに目で訴えた。するとシュミットは一歩前に進み出ると口を開いた。
「実はスティーブに、もうすぐ厳しい冬が訪れるので近隣の宿場町の様子を見に行こうと誘われたのです。薪の準備や食料貯蔵は十分なのか…もし不足しているようなら城から備蓄してある食料や薪を領民達に分け与える必要がありますからね」
「…」
その話を黙って聞き終えたエルウィンは考え込むように言った。
「うむ…確かにそうだな。厳しい冬を乗り切るためには我々で協力しあわなければならないからな。それで領民達の暮らしぶりはどうだ?無事に冬を乗り切れそうか?」
「ええ、ご安心下さい。何処の宿場町が何をどのくらい必要としているのか全て調べ上げて来ましたので明日、手配する予定です」
「そうか…なら良かった」
エルウィンはため息をつき、背もたれに寄りかかった。
近隣諸国からは『暴君』と呼ばれ、恐れられているエルウィンであったが、その反面彼は領民思いの城主だったのだ。
「それで、エルウィン様。私からもお話があるのですが…」
シュミットが言いかけると、エルウィンが口を挟んできた。
「いやっ!まだだっ!まだ俺の話は終わっていないぞ!」
エルウィンは再び声を荒げると言った。
「おい!一体どういう事なのだ!本日、輿入れに来たと言うふざけた連中がこの城にやってきたんだぞ!しかも相手の女はステニウス伯爵の娘のミレーユではなく、伯爵の妾腹の娘だったんぞっ!!」
「え?何ですって?」
「え…?」
シュミットとスティーブはその話に耳を疑った―。
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