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1-16 傷つく言葉と耳を疑う言葉

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「な、何だって…?」

アリアドネの話を聞いたエルウィンの顔が益々険しくなる。

「つまり、お前は…妾腹の娘だと言うのかっ?!」

「は、はい…そ、そうです…」

アリアドネは震えながら返事をした。

「フン…ッ!」

エルウィンは鼻で笑い、窓の外の景色を眺めると言った。

「俺を謀っただけでなく…よりにもよって妾腹の娘を押し付けて来るとはな…随分と俺も馬鹿にされたものだ。お前たち貴族は俺達が所詮田舎者だと思って見下しているのだな」

「っ!」

その言葉にアリアドネは身体がカッと熱くなるのを感じた。夫になるはずだった相手から『妾腹の娘』と言われて恥ずかしさが込み上げてきた。

「兎に角、俺はお前たち2人に用は無い。大体始めから俺は妻などいらない、報奨金だけ貰うと陛下に伝えて置いたはずなのに…っ!くそっ!」

エルウィンはイライラしながら右親指の爪を噛んだ。その姿は、もはやアリアドネとヨゼフの姿は眼中に無い様子だった。

「兎に角さっさとこの城から出て行けっ!目障りだっ!貴様たちの持ってきた書簡が偽物か本物か等、今更どうだっていい!俺は始めから妻などいらぬのだからなっ!」

エルウィンは乱暴に立ち上がると言い放った。その言葉はアリアドネには予想もしていない事だった。受け入れて貰えるかどうかは不明だったが、まさか今すぐ出て行けと言われるとは思いもしていなかったのだ。

「そ、そんなッ!今すぐ出て行けとは…!お、お願いですっ!私は今更ステニウス伯爵家に帰るわけにはいかないのですっ!どうか…どうかここへ置いて頂けないでしょうか?!」

「黙れっ!貴様らを置いておく部屋など無いっ!」

「お部屋の用意など、そのような贅沢は、申しません。雨風がしのげる場所でしたらどこでも構いません。…決してご迷惑はお掛けしませんのでどうか私をここに置いて頂けないでしょうか?」

ついにアリアドネは土下座をすると、床に頭を擦りつけた。アリアドネには本当にもう行き場が無かったのだ。

「アリアドネ…ッ!」

その光景にヨゼフの心は痛んだ。アリアドネがあの城でどれだけ虐げられた生活をしていたか彼は良く知っていた。そしてアリアドネがこの婚姻にどれ程明るい希望を抱いていたのかも…。

(何て気の毒なのだ…。この城へ嫁げばアリアドネは幸せになれると信じてここまでやってきたのに…!)

アリアドネとヨゼフの気持などお構いなしに、エルウィンは追い打ちをかける。

「いい加減にしろっ!兎に角さっさと出て行くのだっ!今なら夜になるまでには一番近い宿場町まで戻れるだろう。もし出て行かないと言うなら…俺は女にも容赦しないぞ…?」

あろう事か、エルウィンは立ち上がると腰に差した剣に触れた。

「「!!」」

アリアドネとヨゼフに恐怖が走る。そして、もうエルウィンに何を言っても無駄なのだとアリアドネは悟った。

「わ、分りました…。今すぐこのお城を出て行きます…。勝手に押しかけて…ご、ご迷惑をお掛けしてしまい…大変…も、申し訳ございません…でした…」

アリアドネは涙を浮かべながら、深々と頭を下げてエルウィンに謝罪した。

(ヴェールを被っていて…本当に良かったわ…泣き顔を見られずに済んだもの…)

「分ればいいんだ。兎に角すぐに出て行け。今すぐにだっ!」

エルウィンはそれだけ言うと、アリアドネとヨゼフを振り返ることも無く謁見の間を出て行ってしまった―。



「うっ…ううぅ…」

エルウィンが謁見の間から出て行くと、アリアドネは床の上に泣き崩れてしまった。

「アリアドネ…何て可愛そうな娘なのだ…」

ヨゼフはヴェールの上からアリアドネの髪をそっと撫でた。

「ヨ、ヨゼフさん…私…どうすればいいの…?今更あの城には…戻れないわ…。それどころか戻ってもきっと…役立たずと言われ…追い出されてしまうかもしれない…」

するとヨゼフが言った。

「…戻らなければいい。辺境伯様の言う通り…今夜は宿場町に行き…その後の事はこれから考えればいいさ…」

「ヨゼフさん…」

アリアドネは顔を上げた。

「さぁ、城を出よう。アリアドネ」

ヨゼフは優しい笑みを浮かべるとアリアドネを見つめた。

「は、はい…」

そして2人は失意の内に謁見の間を出ると城の出口へ向かって歩き出した。

ここでも誰にも見送られる事無く…。


****

 一方、その頃シュミットとスティーブはアイゼンシュタット城へ向けて馬を走らせていた。

アイゼンシュタット城から一番近い宿場町で若い女性を乗せた1台の馬車が城を目指して通り抜けて行ったと言う話を耳に入れたからだ。


「全く…何て間が悪いんだ…っ!」

シュミットは手綱を握りしめながら馬上で叫んだ。

「全くだ…!花嫁さん…大将に酷い事言われてなければいいけどなっ!」

スティーブが答える。


「頼む…っ!どうか間に合ってくれ…っ!」


シュミットは祈る気持ちで、馬を走らせる速度を上げた―。





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