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1-13 苛立つ辺境伯

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「何?書簡があるだと?」

1人の騎士が眉をしかめた。

「は、はい。そうです…」

ヨゼフは震えながら自分が下げている鞄からブリキの箱を取り出し、蓋を開けると手紙を取り出した。手紙には赤い封蝋が押してある。

馬上の騎士はヨゼフの手からひったくるように手紙を奪うと鼻で笑った。

「フン。封蝋まで押してあるとは…随分それらしく手紙を用意したじゃないか。よし、いいだろう。そこまで言うのなら、お前たちを城に連れて行ってろう。ただし…我々を謀ったらただではすまないぞ?」

「今まで数多くの間諜がこの城に送り込まれたからな…。悪いが信頼するわけにはいかないのだ。大体、そんなボロ馬車にお貴族の御令嬢が乗っているとは思えんからな」

もう1人の騎士も鼻で笑っている。

「…」

そんな2人の騎士をヨゼフは黙って見つめていた。本当は震えあがるほど怖かったが、馬車の中にいるアリアドネの方が余程恐怖を感じているかもしれないと思うと、怯えた様子を見せる訳にはいかないと思ったのだ。

「よし、それでは城へ行くぞ」

「は、はい…」

騎士に声を掛けられ、ヨゼフは返事をする。そし2人の馬上の騎士の後に馬車を引いたヨゼフが続いた―。



****

 アイゼンシュタット城にステニウス伯爵令嬢が共もつけずに粗末な馬車1台で輿入れしてきたという話はあっという間に城中に伝わった。そして運の悪いことに、今この城にはシュミットとスティーブが不在であり、エルウィンが城にいたと言う事であった―。



「何だって?!ステニウス伯爵令嬢が輿入れにやってきただとっ?!」

執務室で、嫌々書類に目を通して仕事をしていたエルウィンが声を荒げた。

「はい、そうです。まるで辻馬車のような粗末な馬車に年老いた御者が1人でここまで連れて来たと話しておりますが、とてもではありませんが信じ難い話です」

知らせに来た騎士がエルウィンに説明する。

「全く…一体何がどうなっているんだ?!俺はそもそもシュミットに妻はいらない、報奨金のみ有り難く受け取らせて貰う旨を記した手紙を早馬で城に届けさせろと命じたのに…っ!」

エルウィンはイライラした様子で右手親指を噛んだ。

「大体…シュミットは何所に行ったのだっ?!こんなに書類を山積みにして…俺がこういう仕事が嫌いなのは知っている癖に…っ!」

ダンッ!!

とうとう我慢の限界に達したエルウィンは机をこぶしで叩きつけた。そのはずみで机の上に乗せた書類が何枚か床上に落ちた。

「ええ…そうですね…。実はシュミット様だけでなく…スティーブ団長まで不在なのです」

「何だってっ?!スティーブもっ?!一体2人して何所に行ったのだっ?!」

「は、はぁ…それがさっぱり分らないのです…」

エルインに報告をしに来た騎士はハンカチで冷や汗をぬぐうと、すぐさまポケットにしまった。

実はシュミットはスティーブを連れてアリアドネの行方を捜す為に一番近くの宿場町まで出かけていることを誰も知らない。

「それで…。エルウィン様…どうされますか?一応謁見の間に御者とステニウス伯爵令嬢を名乗る者を入れてありますが…」

「何だとっ?!何故、城へ入れた!即刻追い払えっ!」

「い、いえ。それがどうやら…国王陛下からの書簡を伯爵から預かって来たと申しておりまして…エルウィン様ならその手紙が本当かどうかお分かりになると思い、謁見の間に閉じ込めたのでございます」

それを聞いたエルウィンは口元に笑みを浮かべた。

「成程…。物はいいようだな?謁見の間に閉じ込めた…か…」

「は、はい。左様でございます」

騎士は頭を下げた。

「フ…いいだろう。この俺を謀った奴らの顔を拝みに行ってやろう!」

エルウィンは乱暴に立ち上がると、大股で執務室を出て行った。

謁見の間にいるアリアドネに会う為に―。
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