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第20話 悪役令嬢、変身する

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 その日の夜―

バスルームから出て、ナイトウェアに着替えた私は鏡の前に立っていた。

「うん…ここが乙女ゲームの世界で私は悪役令嬢だったということが分かったのだから、自分を偽って生きるのはやめにしましょう。毎朝三つ編みするのも面倒だったし、視力が悪くないのに伊達メガネをするのも馬鹿らしくなって来たしね」

鏡の前でブツブツと独り言を呟く私。

第一あんな格好でいたから、ノエルに私がこの世界の悪役令嬢だと発見してもらうのも遅くなってしまったのだから…。

「よし!決めたわ!明日から素のままの自分で登校することに決めた!ありのままで生きていくわ!」

私は鏡の中の自分に誓った。それがどんな結果になるか気付きもせずに―。

****

 翌朝

朝食の席に現れた私を見て父も母も、兄も驚いた顔で私を見た。
何故なら三つ編みをやめて髪をほどいて、伊達メガネをするのもやめにしたからだ。

両親、兄は私が18歳になって、ようやくお洒落に目覚めてくれたと涙を流して?喜んでくれるのだった―。


 
 私が自分の身に起こった異変に気付いたのは学園に到着してすぐのことだった。

校舎を目指して歩いていると、何故か皆の視線が私に注がれている。

ひょっとして見知らぬ学生が歩いていると思われ、不審がられているのだろうか?

そしてすぐに後悔した。

こんなに注目を浴びるくらいなら、やはりいつもと同じ三つ編みメガネ姿で登校するべきだったと…。

するとその時―

「ちょっと!アリーナ・バローッ!!」

誰かに大声で名前を呼ばれた。
見ると、校舎前で腕組みをしたノエルがこちらを向いて立っていたのだ。

その言葉に驚いたのは、私の周囲にいた学生たちである。
彼らは皆、驚愕の目で私を見ている。


「え?アリーナ?」
「アリーナってあの…?」
「毎回試験でトップを取っている?!」
「彼女が…アリーナ・バローッ?!」

そう。
私は初等部から大学部迄、常に学年1位を取り続けていたので外見はあまり世間には知られていなかったけれども、知名度だけはあったのだ。


「アリーナッ!どうしたのよ!その格好!」

ノエルは私が大注目されているのに気付く様子も無く、ズカズカと近寄ってきた。

「ちょ、ちょっと!そんな大声で名前を呼ばないでよ!ただでさえ、皆から注目を浴びているみたいなのに…」

私は自分の顔を腕で隠しながらノエルに注意した。

「それは注目されるでしょうよ。そんな格好で登校してきたら…」

ノエルは呆れたように私を見た。

「え?やっぱり何か変だった?」

「変も何も…あ~もう…や~めた!何だか自分の口から言うのは悔しいんだもの」

何故かノエルは理由を話そうとはしてくれない。

「ええ~何でよ…教えてくれてもいいじゃない…」

「あのねぇ…何故自分が注目されているのか気付かない人に説明なんかしたくないわよ。それよりアルフォンソ様とのデートの約束、ちゃんと取り付けてくれたんでしょうね?」

ノエルが私の両肩をガシィッと掴んできた。

「ええ、勿論よ。ばっちり取り付けたわ。明日の朝10時に学園前の噴水広場で待ち合わせよ」

「ええっ?!ま、待ってよ。もう時間も待ち合わせ場所も決めてしまったのっ?!」

「え?駄目だった?」

なんだ。褒めてくれると思ったのに。

「別に駄目ってわけじゃないけど…出来ればアルフォンソ様と2人で決めたかったわ…」

「そうだったの?!知らなかったわ…。でも、明日の初デートで2回目のデートの約束をアルフォンソ王子と決めればいいじゃないの」

「そうね…それもそうよね。それじゃ私はもう行くわ!」

「駄目よ!そうはさせないわ!」

私はムンズとノエルの袖を握りしめた。

「キャッ!な、何よっ!離してよ!」

「いいえ、離さないわ。今日は私と1日一緒にいてもらうわよ!」

きっとノエルと一緒にいれば周囲の視線もさほど気になることは無い。

「ええ~!な、何で私と貴女が…」

ノエルが露骨に嫌そうな顔をした時、突如として笑顔になって声を上げた。

「あ!アルフォンソ様っ!」

「え?アルフォンソ王子?」

振り向くと、ノエルの視線の先にはアルフォンソ王子がいた。

「やぁ、ノエル…だっけ?おは…えっ?!」

アルフォンソ王子は驚いた顔で私を見る。…恐らく王子は私が誰なのか気付いたのだろう。
そしてじ~っと私に視線を送る。
しかし、その視線に全く気付いていないのか、ノエルはにこやかに話しかけてた。

「アルフォンソ様、明日のデート楽しみですね?」

「え?デート?う、うん。楽しみだよ…」

言いながら尚且未だに私に視線を送り続けるアルフォンソ王子。

ちょっと!ノエルが話しかけているのにあまりに失礼な態度じゃないの?!

「行きましょう!ノエルッ!」

これ以上王子に見つめられて、あらぬ疑いを掛けられるのは、はっきり言って迷惑極まりない。

「あ!ちょ、ちょっと!」

私は強引にノエルの手を引くとその場を立ち去った。
その後、少しだけノエルにグチグチ文句を言われた。
けれど私は彼女の言葉を全て聞き流した。

そしてこの後は強引に1日ノエルと行動したおかげで、あまり注目を浴びずに済んだのだった―。


****
 
 放課後―


「ありがとう、ノエル。今日は1日貴方のお陰で助かったわ」

別れ際、帰りのスクールバスに乗りこむ際に私は彼女にお礼を述べた。

「う~ん…何だか釈然としないけど…まぁいいわ。貴方には借りがあるからね」

「そう言えば、明日はアルフォンソ王子とのデートだものね。きっとうまくいくわよ。応援してるからね!」

「ええ。ありがとう。それじゃ私は馬車に乗って帰るから。さよなら」

「ええ。さよなら」

そして私とノエルはその場で別れた―。



フフフ…明日はノエルとアルフォンソ王子との初デート。

いよいよ待ちに待っていたアルフォンソ王子との婚約解消は秒読みに入るのだ。

私は幸せな気持ちで家路につくのだった―。
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